第46話 異能力チートだからハリウッドも目指せる。

 ハローハローあいあむ紘太山本。あいあむべりーべりーチートおじさん……って誰がおじさんだ! 俺はまだ30歳で……あ、おじさんだわ。

 みなさんこんにちは山本紘太、30歳童貞、異能力チートです。俺は今、空を飛んでいます。ママチャリで。


「おじさん! ママたちを助けて!」

「おうともよ!」


 前カゴに乗った花奈ちゃんが逃走するキャンピングカーを指差し俺はいきおいよくペダルを漕ぐ。上空で。空中を滑走するが如く追跡する飛行型ママチャリはまるでジョットコースターのようだった。俺は絶叫ものが苦手なのだが今はのんきに叫んでいる余裕はない。


「まてえええええええまたんかいコラアアアアアッ!!!!」


 俺は叫び、全力立ち漕ぎでキャンピングカーを追いかける。その声に気づいたのだろう天窓から再びヤス兄貴が顔を出し

「なんでだよおおおおおお!!!?」

 これ以上はないレベルの驚愕顔でとうとう泣き出した。うるせえ気持ちはわかるが俺だって何がなんだかわからねえんだよ! 何もわからずここまでやってきてんだわ!

 とりあえず俺は小さめの火炎球ファイアーボールを連射しキャンピングカーには当たらないよう脅しをかける。


「いいから止まれえええええ!」

「ひいいいいい!」


 ところがどっこい俺の追撃は逆効果だったようだ。キャンピングカーはもはや半狂乱といった感じにめちゃくちゃに加速していく。


「逃げるなああああ! コラアアア! 逃げるなあああああ!」

「やめてえええええ殺さないでええええええ!」


 天窓からヤクザたちの嗚咽混じりの悲鳴が聞こえてくる。だったらおとなしく止まれってんだ!


 しかしどうか冷静に考えてみてほしい。

 空飛ぶママチャリに乗ったわけのわからんおっさんがブチ切れながら追いかけてきたらみんなどうする?

 俺なら逃げる。誰だってそーする。


 まさにハリウッド映画さながらのカーチェイスといったところか。俺ママチャリだけど。とにかく今は中にいる七瀬さんと秋月ちゃんが心配だった。もう細かいことは気にしてる場合じゃねえ!

 俺は立ち漕ぎしながらチョコ太郎にテレパシーを繋げる。

『聞こえるかチョコ太郎! 今そっちはどうなってる!?』

『紘太殿〜〜っ! 花奈殿は!? 花奈殿は無事でござるか!?』

『無事だよ無事無事! それでそっちは!?』

『良かったでござる! こっちも二人とも無事でござるよ! 今某ががっちりとガードしているゆえ!』

 秋月ちゃんばかり気にしていたせいで花奈ちゃんを簡単に人質にとられたことが相当堪えた――それとも秋月ちゃんに怒られたのか?――らしく、チョコ太郎が真剣に答える。最初からそうしててくれよお前もチート犬なんだからさあ……と、それよりもだ。

『いいかチョコ太郎! 今から実力行使をとらせてもらう。ちょいとばかし車が揺れるだろうからお前は二人を死ぬ気で守れ! いいな!?』

『が、がってん承知でござる!』

 テレパシーを切り、俺は指先に気を集中させる。そして人差し指の先端から小さな竜巻きが出たタイミングで

風弾エアショット!」

 イメージは某ゲゲゲな少年の指鉄炮だ。たしか青い狸の秘密道具にもこんなやつがあった気がするが……なんだったかな?

 とにかく指先から放たれた風の弾丸はキャンピングカーのタイヤを貫いた。後輪、前輪、すべてパンクさせちまえば強制的に止まるってわけだ。

 だが――俺は失念していた。慣性の法則というやつを。


「うぎゃあああああ!?」


 突然コントロールを失ったキャンピングカーはそのまま一直線に……それはもうダイナミックに高架から飛び出した。


「おぎゃあああああ!?!?」


 これには俺も悲鳴をあげる。やばいやばいやばいやばい! 花奈ちゃんに続いて今度は車ごとダイブするとかなしだろ!?


「だあらあああああああああーーーー!!!!!」


 全力全開でペダルを漕ぎ、それに影響されたのか何故かはわからんがママチャリは神々しいオーラを纏いながら加速した。ツッコんでるひまはない。

 ジェットコースターどころかもはや対空ミサイルの如く――しかし前籠に乗せている花奈ちゃんが平気にしているのを見る限り、自動でバリアのようなものが発現しているらしい――ついに俺はキャンピングカーへ追いついた。

 俺はまず天窓から花奈ちゃんを車内へ戻し、自分は車の前へと回り込む。この間ももちろんキャンピングカーは落下中だ。

 だがやってやる! 思い出せ! あの大型ゾンビと戦った時の感覚を! あの時俺はスーパーサ●ヤ人レベルだった! はずだ! たぶん!


「うなれ俺のスーパーパワーーーーーッ!!!!」


 叫び、そして俺はマッチョにはほど遠いしょぼいおっさんの両腕を突き出す。

 頼むぞ異能力チート! そう願うと、頭の中で先生の【怪力が超怪力に進化しました】という声が響いた。


「どっせえええええええい!!!!」


 こうして俺は落ちてきたキャンピングカーを見事受け止めたのだった。

 ふと見れば運転席ではヤクザ三人組が白目を剥き泡を吹いて気絶している。まったく人騒がせな連中だ! その背後では、七瀬さん秋月ちゃん花奈ちゃんがチョコ太郎にしがみつきながらも手を振っていた。三人とも無事で本当に良かった……と、問題はこのあとだ。

「さーてどこかに降りれそうな場所は……」

 俺は両手でキャンピングカーを持ち上げながらママチャリのペダルをキコキコと漕ぐ。なんだろう……今の俺の絵面、相当馬鹿っぽい気がする……。

 ふと頭の中で一輪車に乗るサーカスの熊の映像が流れた。


 しばらくその状態で空を彷徨っていると、とあるビルが目に入る。広い屋上にソーラーパネルが設置してあり、小さいながらも菜園まである。企業ビルというよりは少しお高そうなマンションだろうか? ちょうどいい、あそこにしよう。

 俺はわっせわっせと屋上へと降り立ち、ゆっくりとキャンピングカーを降ろす。

 そのあとタイヤを修復魔法で元通りにしたところで、七瀬さんたちがドアを開けて出てきた。

「ありがとうございます山本さん、花奈を助けてくれて……」

「えっいやいやもとはといえば俺のせいというか……むしろすみませんでした! 花奈ちゃんや、みんなに怖い思いを……」

「ほんとでござるよ反省してほしいでござるね!」

「うるせえお前が言うな!」

 俺と七瀬さんの間に割り込んできたチョコ太郎をデコピンする。

「暴力反対でござるよ〜〜っ秋月殿〜〜!」

「もうチョコ太郎ってば……よしよし」

「チョコ太郎よしよーし」

「いい子ねチョコ太郎」

「ええー…」

 いつのまにやら三人からなでなでされているチョコ太郎が俺を見てふふんと鼻を鳴らしてきた。なんだこいつ。

 今回の失態はたしかに俺の責任なんだけどさ、俺……すごく頑張ったよね? なんでチョコ太郎がよしよしされてるの? あれー?

 いやいや、犬に嫉妬とか、あほか。

 俺ははあ、と大きくため息を吐く。


「とりあえず俺はこのビルの中を見回りしてくるんで……念のためそれまでまた車の中で待っててください。こいつらは念のため縛っておくので」

 運転席であいかわらず気絶している三人組をむんずと掴み、引きずり下ろす。屋上の隅っこにでもいてもらうとしよう。


「さて、んじゃ行ってくるか」

 MPも十分残っているし、空から見たところこのビルだけ他のビルと比べても損害があまりなさそうに感じた。唯一下の入り口付近だけ少し散らかってはいたがとくにビル全体の窓が破れていたりだとかはない。つまり、このビルはつい最近まで無事だった可能性が高いのだ。もしかすると生存者がいるか、いなかったとしても中にいるゾンビは少数だろう。

 それでも俺は警戒しつつ【索敵】を発動させながらゆっくりと階段を降りていく。

「……いるな」

 下の方からゾンビの呻き声が聞こえた。数は……六体。ゾンビたちは降りてきた俺に気づくといっせいに向かってきたが、冷静にそれを倒す。

 動かなくなったのを確認して、念のため小さめの火炎球ファイアーボールで死体を焼却した。

 【索敵】にはもう何もひっかからない。つまりこのビル内のゾンビは今の六体で全部だったわけか。もしかするともっといたのかもしれないが、すでにビルの外に出ていったのだろう………ん?


「じゃあなんでこいつらはここに集まってたんだ?」


 もう焼却してしまったが、何かここにあったのだろうか? キョロキョロと見渡してみたがあるのは倒れた掃除用具ロッカーだけでこれといって何も…………んんん?


「……なんだ? これ……壁が……」


 掃除用具ロッカーのあたりに何か……というかこれ、スライドドアの取っ手じゃねえか?

 もしかしてこのロッカーの裏にあったのだろうか?

「へー、シェルターみたいなもんか……あっ!」


 まさか!?


 俺はそおっと【探索】を使ってみる。

 すると…………いた。

 この取っ手の向こうに一人、生存者がいる!

 俺は慌ててドアを――鍵が閉まっていた――ノックする。

「あの、すみません誰かいますか!? 生きてますか!?」

 何度か声をかけたが、反応はない。

 もしかして怪我でもしているのか、生きているが気を失っているのだろうか?


「あの、あとで直しますんで失礼します!」


 そう言って無理やりドアをこじ開けようと力を込めたところで――――ドアが開いた。


 そこに立っていたのは、高校……いや、中学生くらいの小太りの少年であった。彼の憔悴しきった目がゆっくりと俺を見上げる。

「……あ、えーと」

 大丈夫? と俺が声をかけようとするよりもはやく


「ヒロインいねえじゃねえかーーーーっっ!!!!」


 そう叫びながら、そいつはエアガンを俺に向かって連射してきた。


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