第35話 異能力チート、女子高生とショッピングモールを出る。
町の上空を一機の救難ヘリコプターが飛んでいた。それに乗るのは自衛隊であり、彼らは山の向こう側にある駐屯地で燃料補給のため一度降りていたのだが、その際に偶然にも空へと昇る眩い光の柱を見たのだ。
その光景は事故というよりは異常現象そのもので、すでにゾンビが闊歩する世の中となった今では何が異常なのかすらもわからなくなってしまったが。
とにかく状況の確認をすべきだと。彼らは日が昇り明るくなったのち、光の柱が上がっていた方へやってきたのである。
「いました! 生存者です!」
隊員の一人が叫ぶ。
確認すると、大型ショッピングモールの屋上にはSOSの文字、そしてそこには確かに何人かがとり残されていた。
★★★
「おい見ろ! ヘリだ! ヘリがきたぞ!」
「助かった! 俺たち助かったんだ――!」
「ん、んあ……?」
モールの屋上にて、みんなの歓喜の声に俺は目を覚ます。
「あ、おはよう紘太さん」
「ござる」
「おー……」
戦いの後、俺もチョコ太郎の背に乗せてもらい屋上へと一時避難した。そして猛烈な眠気に襲われ、そのまま眠ってしまったのだ。
ちなみに大きくなったチョコ太郎だが、最初こそ全員ビビっていたが秋月ちゃんがうまく説得してくれて、まあ元々チョコ太郎も二週間一緒に過ごしていたおかげだろうな。みんな優しく受け入れてくれたらしい。
「それで」
なんの騒ぎだと聞こうかと思ったが、丁度自衛隊のヘリがモールの駐車場へ降りてくるのが見えた。
「助かった、のか……」
「そうみたい」
良かった……喜び合うみんなの姿に、俺はほっとする。
「紘太さん」
「ん?」
「助けてくれて、ありがとう」
「おう」
立ち上がり、俺も秋月ちゃんと一緒にみんなの元へ向かう。
こうして、彼らのショッピングモールでの籠城生活は幕を下ろした。
「本当に行かないんですか!?」
「ああ」
みんなが自衛隊のヘリに乗り込む中、俺はヘリには乗らず残ることにしたのだ。
それを知ったタカシくんと沙織さんカップルが戸惑い、でも、と続ける。
みんなとはほんの1日ちょっとの付き合いだったけど、そんな悲しそうな顔されるとなんか辛くなる。だけど俺は残るって決めたんだ。
それにこの救難ヘリで一度で救助できる人数は十人らしく、どのみち定員割れしてるからな。
ちなみにこの救難ヘリは基地ではなく、現在避難場所となっている
「え、でもそこってここからかなり遠いですよね」
町どころか県外じゃないか。
「ええ、ですがこの近辺の非感染者のみなさんは全員スタジアムで保護するようになってまして」
そう自衛隊員さんが答える。
「実は我々の駐屯地も含めて現在ほとんどの避難所が、もう……」
そう言葉を濁すが、言おうとしたことはなんとなく察せた。
もう、このあたりの避難所は全滅しているのだろうな。
「そうですか……」
まあでも、考えてみればたしかにスタジアムなら規模もあるし大人数が避難するにはもってこいなのかもしれない。
それに伊羽マリンスタジアムはその名の通り海上にあり、ようは人工島に建てられた施設だった。人工島と本土を繋げているのはたった一本の大橋のみ。この大橋以外からは島に入ることはできない。それはつまり、橋さえ抑えてしまえば確実に島内の安全を確保できるというわけだ。
……うん。そう考えると、たしかに避難所としてはこれ以上の場所はないだろうな。
「じゃあなー! おっさ――ん!」
「山本さーん! また会いましょうねー!」
みんなを乗せて飛び立っていくヘリを俺は大きく手を振りながら見送る。
「さて、と」
それじゃあ俺らも行きますか、と。
振り向くと、秋月ちゃんとチョコ太郎が頷いた。
彼女たちもヘリには乗らなかったのだ。
「避難所はペット禁止だって言われたしね」
秋月ちゃんがむうと眉を顰める。
避難先におけるペットの受け入れ問題は今回のゾンビパンデミック以前から何度もニュースで話題になっていたからな。飼い主と他の被災者間のトラブルの原因になるとかなんとかって。
っていうか。
俺はちらりとチョコ太郎を見る。
「よくこれをただの大型犬で誤魔化せたよなあ」
「これとはなんでござるこれとは!」
「ご、ごめん……」
でもさ。こんな大型肉食獣サイズの犬を見て自衛隊の人たちによく攻撃されなかったよなあと俺はしみじみ思う。
いや最初こそ隊員さんたちはチョコ太郎を見るなりあきらかに動揺しまくってたけどね。
秋月ちゃんはもちろんタカシくんたちみんなが「海外のすごく珍しい大型犬だ。大人しくて安全だ」って必死に説明してくれたおかげだな。
世界中の犬の種類なんて普通の人はわからないし、こんな犬もいるのかと納得させることができて良かったよ。
「それで? 紘太さんは今からどこに行くの?」
「そうだなあ……とりあえず、帰るかな」
モールから出て二人並んで歩く。
ちなみに秋月ちゃんはチョコ太郎の背に乗っている。チョコ太郎曰く、何かあった時のためにこうしていた方が秋月殿を守れるでござるとのことだが。
秋月ちゃんを乗せて歩くチョコ太郎めちゃくちゃ嬉しそうだし。尻尾振りまくってるし。絶対乗ってもらうことが目当てだろ……まあ秋月ちゃんも楽しそうだしいっか。
「帰るって紘太さんの家に?」
秋月ちゃんが聞いてくる。
「あーそれもなんだけど。まずは先にね、帰るって約束した家があってさ」
「ふーん」
帰り道のゾンビはほとんどいなくなっていた。きっとこのあたりのゾンビはみんな大型ゾンビが連れてきてたんだろうな。
「ん?」
少し先で、見たことのある車が横転している。
「紘太さん?」
「ちょっと待ってて」
ひとり車の方へ近づく。間違いない。
この黒のワンボックスカーはあの大学生たちが乗っていた車だ。
スライドドアが開いているところを見るに、全員何かあって逃げ出したのだろうか?
「よっこらしょ……と」
車の上へ登り開けっ放しのドアから車内を覗き込み
「う……っ」
中にはまだ、大学生が残っていた。いや、大学生だったゾンビだな。身体のほとんどが食い千切られ、手足も変な方向へぐしゃぐしゃに捻れていて。顔の下半分はすでにない。顎も口もないぽっかりと空いた穴からは長い舌がでろりと垂れ、その状態で目は虚ろに、車の底で踠いていた。
……酷いな。こりゃ。
視線を車内から戻し、辺りを見渡す。
そして俺は車から降り、少し歩く。
「…………西園寺」
少し歩いた場所に、いた。
俺の声に反応し、地面を這いずっていたゾンビが振り向く。
上半身だけとなったゾンビだ。何があったのかは知らないが、そいつはゆっくりと這いながらこちらに向かってきた。
だがわざわざ待っていてやるつもりはない。
少し休めたおかげでMPもかなり回復できた俺は隠密透明化を発動させた。
突然目の前から消えた俺に、その上半身ゾンビは戸惑うように止まる。キョロキョロと、俺を探している。
そのすきに俺は、その上半身の胸元から見えていた拳銃を回収した。
「かち……なン、ダ……おレの、かち……かち……な」
上半身がぶつぶつと繰り返している。
この状態のゾンビにまだ意識は残っているのだろうか。それとももう、ただの残留思念と呼ぶべきか。
俺は手を翳す。
「じゃあな、西園寺」
それだけ言って
はやく帰ろう。
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