第14話 そして女子高生はショッピングモールで籠城する。
そのショッピングモールは大型商業施設にしてはめずらしく二階建てで、そのかわりに土地を目一杯に使ったフロア全体の広さが売りだった。
一階フロアは主にレストラン街や食品売場が入っており、二階にはファッションフロアと映画館、ゲームセンターがある。
その日の朝もいつも通りの時間にオープンしたショッピングモールだったが、駆け込んできたのは買い物客たちではなかった。助けを求め、泣き、叫び、中には血だらけのまま逃げ込んできた者たちもいた。
「お、おいなんだあんたらは!?」
どう見ても異常事態だ。警備員が数人がかりで入り口に突っ込んでくる者たちを止めようとするが
「邪魔だあ! どけえ!」
「お願い入れてえ!」
「はやくしろぉ!あいつらがくるだろォ!」
生存者たちは怒号や悲鳴をあげながら警備員らを突き飛ばし店内へと入っていく。 何人も、何十人も。まるで雪崩か土石流のように、その足は止まらなかった。
「なんなんだ!? 一体何があった!?」
「いいから閉めろ! シャッターを閉めろ――ッ!」
「はあ、はあ……」
そして私とチョコ太郎がショッピングモールに到着した時、すでに店内からは非常ベルの音がけたたましく響いていた。
まさか、もう中に……!?
しかし押し寄せる人の波とその後ろから追ってくるあいつらに私は足を止めることができない。
「行くよチョコ太郎!」
「わん!」
モールの出入り口はいくつかあり、一番人が集まっているのは正面にある中央入口だ。私はそこを避けてモールの横側へと回る。
たしかこっちだったはず……!
普段は直接用がある人しか使わない、ペットショップ専用入口がそこにあった。
ショッピングモールという場所はさまざまな店舗が中に入っているが、ペットショップだけはペット連れでの入店が可能の為専用の入口があるのだ。
思った通りその扉付近はまだ誰もおらず、私とチョコ太郎は周囲を警戒しつつも中へと入る。
ショップにはすでに誰もおらず、ショーケースに入れられたペットたちがせわしなく鳴いていて。
私は陳列棚からドックフードの袋をいくつか取った。
店員さんいないし……あとで謝ってお金も払おう。非常事態なんだし、それくらい大丈夫だよね。
そのままショップ内を通り通路へ出る。中央の方が騒がしい。人が押し寄せているのだろう。私はひとまずレストラン街のあるエリア方向へ向かおうとして、さらにその向こう側からあがった悲鳴にびくりと心臓が跳ねた。中央エリアから聞こえていた騒々しさが途端に悲鳴へと変わる。
再び非常ベルの音が鳴った。私は反射的にチョコ太郎の耳を塞ぐ。悲鳴は続いている。
きたんだ。中まで……あいつらが!
そう確信した次の瞬間だった。
付近にある防火シャッターが一斉に動き出し通路を塞ぎ始めた。
まずい……!
このショッピングモールは火災や非常時に備えて鉄製シャッターやグリルシャッターがあちこちに設置されていて、それらが今一階フロアで、いやもしかすると全フロアで動き出したのだろう。
「チョコ太郎こっち!」
完全に封鎖され隔離される前に、私はチョコ太郎と一緒に二階への階段を駆け上がる。そして二階フロアに着いた時、たった今上がってきた階段の一階側シャッターが降りきった音がした。
こうして私とチョコ太郎は、いや、ここの生存者たちはショッピングモールの二階で籠城することとなった。
「無事なのはこれで全員か……」
二階フロア中央にある映画館に、生存者たちは集まっていた。
一階と二階を繋ぐ階段全てにはシャッターが降り、エスカレーターには登ってこられないようにバリケードを築いてある。あいつらはどうやら手足を使い登るという行為ができないらしい。
生き残った人はさまざまで、大学生グループや若いカップル、中年の夫婦、スーツの男性たちに警備員や二階フロアにいた店員、全員合わせて30人。それと一匹だ。
そしてさっきから二階フロア責任者であるらしい中年男性1人と、見るからに好青年そうな、おそらく大学生だろう。二人が話をしている。
一体何があったのか。外に連絡はとれるのか。他の警備員や店内スタッフは? 助けは?
いろいろ話しているようだが私はチョコ太郎に寄り添い、ただぼんやりとどうしてこうなったんだろうと考えていた。
一階フロアを完全に封鎖したことで二階の安全を確保することはできたのだが
「あ゛……あ゛お゛あ゛ぁ゛」
「お゛ぉ゛……もぉ、もぉ゛ぉぉ……」
「いれ゛テえ……ィレてェ……」
「ここ、オ、ここーココぉ゛こココ……」
「やメてーヤメてェ゛ー」
吹き抜けの下側からはやつらのさまざまな呻き声が聞こえてくる。
「とにかく警察が来るまで、助けが来るまではここで待ちましょう!」
「そうですね。二階にも非常食や備蓄品を置いている店はありますし、フードコートもありますから。それらを分けあって事態が収まるのを待つしかないですね」
フロア責任者と大学生の男が言う。
「みなさん大丈夫ですよ。明日にはきっと警察が来てくれますよ!」
しかしその日から三日、一週間たっても助けは来なかった。
「どうして……自衛隊は何をしてるんだ……なんで……」
モールの屋上から町を見下ろし、大学生の男がひとり爪を噛む。彼は籠城初日からリーダーシップを発揮し目立っていたあの好青年だ。
しかしその見た目は当初よりかなり憔悴してきていて。
いつまでたってもやってこない救援、悪くなる一方の状況、ストレス、それらが重なった結果だろう。
それでも彼はなんとか救援を呼ぼうとさまざまな方法を考えてくれていた。私たちも彼のおかげで今までなんとかやってこれているんだと理解している。
最近ようやく知ったのだが、彼は有名大学の学生で一流企業に就職も決まっていたらしい。名前はたしか西園寺さん、だったかな……。
「あと……できることは……」
西園寺さんのその様子を横目に、私はペンキで屋上にSOSの文字をひく。他の生存者たちも黙々と新しいシーツにSOSの文字を書き直し、屋上に括り付けている。(このアイデアだって西園寺さんの指示だ)
最初の頃は町中から上がっていた煙や火災もすでに鎮火し、ここ数日は車の音もヘリの音も聞こえてこない。静寂だけがそこには残されていた。
そして二週間目、とうとう二階にあった食料は尽きた。
「何人かでチームを作り、食料を取りに行きます」
朝生存者たち全員の前で、西園寺さんはそう言った。
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