第11話 異能力チート、超最強の武器まで貰う。

 朝日が昇る。薄灰色の空が次第に光に染められていくのを、俺は七瀬さんの自宅の屋根の上から眺めていた。悠々と目の前を通過していく鳥たちはいつもと変わりなく、地上ではゾンビが蔓延してるなんて嘘のように感じる。

「さてと」

 朝からなんでこんな場所にいるのか。

 俺は自分の持つ異能力チートの可能性を確認する事も兼ねて、七瀬さんの自宅を少し改造させて貰う許可を得たからだ。


 まずは家全体を囲む外構の工事だな。

 今のところゾンビの侵入はないが、これからもそうとは限らない。現在は外から中の様子が見えないようなレンガ造りの塀となっているが


「土……土……」


 前に部屋で出したような砂状のものではなく、しっかりとした硬度のものをイメージして……



【強化魔法を獲得しました】



 きた! これだ!


 土魔法を外構に向けて放つ。

 するとレンガの塀は光りだし、高さがさらに三メートル程上に伸びた。いやそれだけではない。

 見た目もよくある一軒家の囲いからまるでどこかの城壁か要塞のようになっていた。なんか見張り台みたいなのまであるし。あそこから大砲とか撃てそうだし。


「外と中の家とのデザインのギャップやばいな……」


 まるでどこぞの基地のようだ。やりすぎたかと思ったが……ま、いっか。


 しかし思った通り。

 最初は砂場なんて作ってどうすんだと落胆した土属性だったが、使い方次第でかなり便利になる。とくに防壁を築くにもってこいの魔法だな。




「おじさーん」

 ベランダから部屋に戻ると、すでに花奈ちゃんが二階で待っていてくれた。

ひさしぶりのシャワーを浴びたばかりでまだ髪が濡れている。あ、ちなみに水道は止まっている為シャワーで使ったお湯は俺の水属性と火属性を合わせたらなんかできちゃったものだ。これをバスタブいっぱいに溜めてある。すごいね、異能力。

「もう行っちゃうの?」

「そうだね」

「あっこら花奈! 山本さんすみませんっ」

 七瀬さんがバスタオルを持って追いかけてきた。

 花奈ちゃんの濡れたままの髪を拭きつつ

「本当に、何から何までありがとうございます」

 申し訳なさそうに頭を下げる。

「いえいいんですよ。俺が勝手にやってるだけですから!」

「……もう出発するんですか?」

「ええ、とりあえずショッピングモールに行くつもりです」

「ショッピングモール……たしかに、あそこならまだ誰かいるかもしれませんね」

「ええ、あっそうだ。家の外構の強化は済ませたんですが、一応何かあった時のために七瀬さんの連絡先を教えて頂いてもいいですか?」

「あ、はい。そうですね」

 互いの電話番号とメールアドレスを交換する。

 登録したあとに、そういえば異性の人と交換したのは初めてだなと気がついた。こんな状況じゃないとできないんだろうな……俺。


「おじさん!」

「ん?」

 花奈ちゃんがぐっと俺の服の裾を掴んでくる。


「これあげる!」


「えっちょ、それって花奈ちゃんの大事なものだよね!?」


 花奈ちゃんが俺に渡してきたのは、お父さんと一緒に作ったというマジカルギャラクシーマンの武器で。っていうかそれ形見だよね!?


「いやだめだよ花奈ちゃん、これは受け取れないよ!」


 断ったが、花奈ちゃんはむぅと口を窄めて

「おじさんはマジカルギャラクシーマンだからこれがいるの!」

「え、えええ……」

 いやまずいって。形見はだめだって。

 俺は視線で七瀬さんに助けを求めたが

「受け取ってあげてください」

「えええ……」


 いいの? ほんとに?

 天国の花奈ちゃんのお父さん、こんな野郎がほんとすみません。俺は脳内で必死に頭を下げ、手作りの武器を受け取った。



【超最強マジカルギャラクシーロッドソードを獲得しました】



「ファッ!?」

「えっ」

「えっ」



 ま、ま、まてまてまてまてまて!

 先生今なんて? なんて言った!?

 俺の聞き間違いだよな?

 なんかまたやたらと絶妙にダサい武器名が聞こえたけど聞き間違いだよな先生!?



「あ、あのー……大丈夫ですか?」

「おじさん?」

「あ、いえ大丈夫です……」


 さすがに先生の声は俺にしか聞こえないみたいだな。

「えーと花奈ちゃん、本当にこの武器はオレが持っていっていいんだね?」

「うん! 超最強マジカルギャラクシーロッドソードはおじさんが使ってね!」



 あ、さっき聞こえたやつだわ。

 どうやら聞き間違いではなかったらしい。


「ちょ、超最強……」


 超なのか最強なのかそれどっちもつけちゃうんだ……なんていうか、子供らしいネーミングだなあ……


「名前はお父さんがつけてくれたの! 強そうでしょー」



 オトウサ――――ン!!!!



 見知らぬ花奈ちゃんのお父さんが、天国で誇らしげにグッと親指を立てている気がした。

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