第12話 異能力チートで気軽にショッピングモールに降り立ってみる。

「こりゃ……酷いな……」

 飛行魔法で町の上空を旋回しながら生存者がいないか探す。その中でおそらく避難所だったのだろう小学校が、校舎ごと壊滅しているのを見つけた。

 場所からしてこの地区、つまり七瀬さんのご近所さん達もここに避難していたはずだが。見てあきらかに、すでにそれどころではなくなっている。

 火事でもあったのだろうか。その校舎の半分以上が黒焦げとなっていて、鉄骨や教室だった場所も丸見えだ。これほどの規模だと……ガス爆発か? 今は考えた所でどうしようもないか。


「ゾンビは見当たらないけど……いちおう見ていくか」


 俺は小学校の屋上……いや、すでに崩落し骨組みが剥き出しになった箇所に降りて人の気配がないか探ってみる。



【探索魔法を獲得しました】



 頭の中で今やすっかりと聞き慣れた先生の声が響いた。おいおいそんなものまであるのかよ……異能力ってマジで種類が豊富なんだな。

 どう使うんだろう……生存者反応ってやつを捜せばいいのかな。

「……生存者を探索」

 そう言いながら建物内に意識を向けてみる。


「……………………」


 だが、何も変化は感じられなかった。どうやらここに生存者はいないらしい。

 たぶんそうだろうなとは思ったけど……なんというか辛いものだな。

「……行くか」


 目指すのは今一番生存者のいる可能性が高いショッピングモールだ。



 カタンッ


「!?」

 ふいに下の方から音がした。おそるおそる覗いてみると、瓦礫の中で何かが動いている。

 生存者がいないなら、そこにいるのはゾンビだろう。


「念のために殺しておくか……」

 まあ元々死んでるんだけどさ。

 台詞だけなら俺が悪役みたいだなあなんて思いながら手をかざし


「………………」


 それが子供のゾンビだとわかった。

 逃げ遅れたのか、巻き込まれたのか、この避難所である小学校で何があったのかはわからない。

 瓦礫の隙間から伸びるまだ小さな手が、今朝別れたばかりの花奈ちゃんを思い出させた。


「……ごめんな」


 右手から放った火炎球ファイアーボールは、その子を瓦礫ごと消滅させた。





 そのショッピングモールはつい三ヶ月ほど前にオープンしたばかりの大型商業施設で、食品やファッションフロアを始め映画館やボーリング場もあり連日かなり賑わっていた。と思う。

 というのも、俺自身は一度も訪れたことがなかったからだ。平日は夜遅くまで仕事だし、休日は家でゴロゴロと過ごす。買い物なんてコンビニかそこらのスーパーで事足りるし服だって大学時代のものをいまだに着ているわけで。

 そもそも人混みが苦手だし休日なんてカップルだらけだろう。行くわけがない。


 そんな俺の記念すべき初ショッピングモールがまさか、ゾンビだらけのモールとなるとはな……。

 空から見下ろし、真下の現状に重い息を吐き出す。そこにはパンデミック前となんら変わらぬ景色が広がっていた。ようは大賑わいだ。

 ただひとつ違うのは、そいつらが全員ゾンビという点なんだけれど。

「うお……」

 おもわず声が漏れる。

 大勢のゾンビがモールの周囲至る所で蠢いていた。入り口を探しているのか、それとも目的なんてないのか、今のところゾンビたちの行動に規則性はなさそうだ。



『ゾンビは生前よくやってた行動につられるらしい』



 以前ネット掲示板でこんな書き込みを見たのを思い出す。

 たしかに町中と比べて一際ショッピングモールにゾンビが集まっている所を見ると、その説は間違いではないのかもしれないな。


 だが問題は、俺自身がどうショッピングモールに行くかだ。ゾンビの数があまりにも多過ぎる。


 空から火炎球ファイアーボールでも撃ってみるか……?


「いやいやいやいや、どこの爆撃機だよ!」


 ある程度は片付くかもしれないがMP消費の問題だってあるし、下手に攻撃した結果建物にも被害が……なんて失敗はしたくない。最善とはいえないな。


「あー……なんとかしてゾンビたちに見つからないように入れればいいけど……」



【隠密透明化を獲得しました】



「まじかよ先生」



 隠密? 透明? 詳しくはわからないが聞いた感じかなり使えそうなやつだよなそれ! 隠密ってあたりがまた忍者みたいでかっこいいしな。まさに今必要なやつだろう。


「それじゃあさっそく、隠密透明化!」


 獲得したばかりの能力を発動させてみる。


「………………?」


 とくに何か変わった感じはしなかったが……本当に発動した? ちゃんとできてるのか? 大丈夫?


「……ええいままよ!」


 考えても仕方ない!

 もし透明化ができてなければすぐに空へ戻ってやり直せばいいだろう。

 俺はモール入り口付近にいるゾンビ集団のど真ん前に正々堂々と着地した。



「……………………」



 ゾンビたちが何も反応してこない。

 おお、ちゃんと成功していたようだ。


「……いやでも念のために」



 俺は一番近くにいたゾンビの膝をカックンする。

 ゾンビは「あ゛お…」と呻きながらよろめき、コケた。しかしそいつも、周りの誰も俺に気づいていなかった。


「しゃっ!」


 小さくガッツポーズする。

 せっかくだ。このまま堂々と正面入り口から入らせてもらおう。

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