第10話 俺おじさんだからアイテムボックスのオシャレ要素に戸惑う。
その後俺は七瀬さんが起きてくるまで花奈ちゃんとマジカルギャラクシーマンの話をしていた。聞いていくとなかなか設定も練られていて、特撮好きとしては花奈ちゃんのお父さんとはぜひ一度酒を飲み交わしてみたかったほどだ。
極めつきは花奈ちゃんが見せてくれたマジカルギャラクシーマンの武器であった。
市販で売っている魔法少女系のステッキと、特撮ヒーロー系の剣をうまく合体させた手作りの武器で、親子で一緒に作ったらしい。
「それは花奈にとって、主人の形見のようなものです」
手作り武器を大事そうに握りしめながら、ソファでは毛布にくるまり花奈ちゃんが寝息をたてている。その姿を愛おしそうに見つめながら七瀬さんは言っていた。
外はすっかりと日が落ち、遠くの方からはゾンビの呻き声が聞こえてくる。
「やっぱり……どの家も静かだな」
俺は空から町を見渡していた。
明るい昼間に比べて夜間はゾンビに見つかりにくいとはいえ、もし家に籠城していたとしてもむやみに電気はつけないようにしているのだろう。俺も家にいる時はそうしてたしな。
「もう少し上から見てみるか」
さらに高度を上げる。
町全体が見渡せるくらいまできて
「ん? あれ?」
遠くの方に光が見えた。
見間違いか? いや……
間違いない。電気がついている!
「たしかあそこは……そうだ。最近できたばかりのショッピングモールだったな」
にしてもオープンしたばかりなのにこんな事態になって、経営者さんは可哀想に。
俺はひとまず高度を下げ七瀬さんの自宅のベランダに降りると
「どうでしたか?」
七瀬さんが俺の分の懐中電灯を持ってきてくれた。他の家同様に七瀬さんの自宅も真っ暗だ。カーテンも閉めているため月明かりも入ってこない。
「ありがとうございます。そうですね、このあたりで人の気配はなかったです」
「やっぱりもうみんな避難所に行ったのかしら…」
それか、もう死んでいるかだけどね。
そう思ったが七瀬さんの前だし、言わないでおこう。
「あら」
持っていた懐中電灯の明かりが少し弱まる。
「ごめんなさい、しばらく使ってなかったから……」
カチカチとスイッチを押しているが、どうやら中の電池が切れかけているようで
「そうだ」
俺はコンビニでいくつか電池も回収していたことを思い出した。たしかアイテムボックスに入れたんだっけな。
「どう取り出せばいいんだろ……えーと……アイテムボックス?」
そう言ってみると何もない空間に小さな小窓のようなものが現れた。
目の前にいる七瀬さんもぎょっと目を見開く。あ、俺以外でも見えるのか。
その小窓を開いてみると、乾電池があった。
どうやらアイテムボックスに収納したものを取り出す際は、欲しいものだけが小窓から出てくる仕組みらしい。いやオシャレかよ……なんか小洒落たカフェとかにある飾りにも見えてきたし、俺みたいな男にこの要素いる? ねえ先生?
頭の中の先生に声をかけてみたが返事は当然なかった。
俺は乾電池を取り、七瀬さんに渡す。
「どうぞ」
「…………すごいですね、なんか……」
「俺もそう思います」
そう言ってオーバーぎみに肩をすくめると
「でも本当にすごい」
七瀬さんが小さく笑った。
「それであんな魔法みたいなことが?」
「ええ、自分でもよくわからないんですけど」
アイテムボックスからコンビニで手に入れた物資もいくつか取り出し七瀬さんに分けながら、俺は自分が異能力チートに覚醒したことについて話す。
すでにゾンビを倒したり空を飛んだりしたのを見た……というより実際に体験した七瀬さんはすんなりと信じてくれた。
「でもいいんですか? こんなに」
リビングには物資と食料入りのケースがずらりと並んでいる。
「ええ、たくさんありますから!」
とは言ったが実は俺の持ってきた物はこれで全部だったりする。
また明日他のコンビニにでも行けばまあ、なんとかなるだろう。異能力チートの俺よりも七瀬さんと花奈ちゃんに渡した方がいい。
「山本さんは、これからどうするんですか?」
「えっ」
もしかして俺の考えてたことを察したのだろうか。
「ええと……とりあえず明日の朝になったら町の様子を見てこようかと」
おそらく町にはまだ生存者がいるだろうし、今町がどうなっているのかは実際に見てみないとわからないからな。
それにショッピングモールの明かりも気になる。
「大丈夫ですよ。ちゃちゃっと見て戻ってきますから!」
そう言うと七瀬さんが目を丸くした。
あ、まずい。
もしかして戻ってきちゃやばかったか!?
だよな! そうだよな! 俺他人だし! 見ず知らずの男だし! やべえ!
「あっあっ今のはその言葉の綾というかでっそのですね!」
「ふふっ、いえいえ大丈夫ですよ」
「えっ」
「花奈と二人で待ってますね」
そう言って七瀬さんは微笑んだ。
「うう〜んマジカルギャラクシーまあん……」
花奈ちゃんの寝言が聞こえてくる。
朝になったら出発するとしよう。
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