第5話 異能力チートにも覚醒したしとりあえず食料調達に行く。

 翌朝、俺はそっと玄関の扉を開け外に出た。

 今家の前にはゾンビはいないようだ。


「よし、行くぞ……!」


 オッス俺山本 紘太、30歳! ゾンビの蔓延するこの世界で突然異能力チートに覚醒した男だ! なんてちょけてる場合じゃない。

 今から俺は食料調達に向かうのだ。上半身は厚手のアウターコート、下半身はスウェットとジャージの重ね着、みんなのアドバイスのおかげで防御面もバッチリだ。 たぶん。

 ちなみにポケットにはスマホを忘れず入れている。うーん機器を手放せないのは現代人の癖だなこれは。


 まあそんなわけで、俺は生き残るためにコンビニへ向かうことにしたのである。


 道なりに真っ直ぐ徒歩五分。異能力チートに覚醒したとはいえいつゾンビが飛び出してくるかわからないし、油断は大敵だ。入念に辺りを警戒して進む。チート覚醒した初日に道に出ていたゾンビをほとんど倒したからかな、数体うろついているだけでゾンビの群れはいないようだった。

 しかしゾンビパンデミックが起きて初めての外出。コンビニに食料が残っていればいいのだが。


「……あ」


 っていうか賞味期限切れは確定なんじゃ?

 こんな状況で店員が毎日商品を仕入れてるわけないし。いや、日本の社畜ならもしかすると……。

「さすがにないよな」

 賞味期限切れのものしかなかったらどうするかな……お。

「前方にゾンビ発見」

 コンビニの駐車場に数体。生前は柄の悪い、いかにもな男だったのだろうゾンビたちが何をするわけでもなく立ち尽くしている。

 俺はそいつらを風刃エアスラッシュで倒す。バラバラになったゾンビたちを見て、こいつらがいつもこのコンビニ前に屯してた連中だと気がついた。こいつらいっつもここで騒ぐわ中学生からカツアゲするわで大迷惑だったんだよなー……ちょっとだけざまーみろ、だ。でも一応手は合わせておこう。南無三。


 コンビニに入店すると、さすがにパンデミックが起きて一カ月。商品棚はほとんどが空っぽになっていた。だよなーそうなるよなやっぱ。

 みんな生きるために必死なのだ。

「ん?」

 ふとレジの方を見ると、カウンターにお金が置いてある。それも小銭だけではなく万札もだ。

 そしてそのお金の隣に添えるようにして『いくつか食料を持っていきます。代金はカウンターへ置いておきます』という走り書きされた手紙があった。真面目だなあ…これを書いた人。

 なんて感心してる場合か。

 俺はとりあえず店内に何か残ってないか探すことにした。

 せめて賞味期限の長い缶詰とかお菓子があればいいんだけど……さすがにないよなー。

「店内で残ってるのは漫画雑誌と食えないものばっかりか」

 でも一応持ってくか。食料ではないがないよりは何かに使えるかもと俺は漫画雑誌数冊と携帯型充電器、乾電池数個を手に取る。店員ももっと品出ししといてくれよなー。まあ今さら無茶だけどさあ……


「……あっ」


 そうだそれだ! 品出しだ! 自分で言って気がついた。

 もしかしたらまだ店内に出されていない、つまり納品されたままの商品なら裏とかに残ってるんじゃないか? おお、それだよそれ。俺ナイス!

 そうとなればさっそくだな。周囲を見渡して……あった。店内の隅に従業員専用と書かれた扉がある。あそこから入らせてもらうとしよう。


「にしてもここのコンビニの店員はひとり残らず逃げたのか?」

 カウンターに置いてある手紙からしても随分と前から無人だったようだし。きっと職務より自分の命を優先したんだな。でもこんな状況だし、それが正しい選択なのだろう。死んだら元も子もないからな。その社畜根性に縛られない精神、大切にしろよ。俺だって仕事に行かなかったおかげで生き残ってたわけだし。

 うんうんとひとり頷きながら俺は従業員専用扉を開く。


 するとすっごく見慣れたコンビニの制服姿が数人。「あ゛あ゛……」とくぐもった声を発しながらこちらを振り向いた。



「店員ここにいたよ!!!!」



 しかももれなく全員ゾンビになってんじゃねーか!


 前言撤回。どうやらここの店員たちは見事な社畜戦士だったらしい。

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