第3話 もはやおなじみの「ステータス!」を叫んでみる。

 俺の名前は山本紘太やまもと こうた、30歳。

 ゾンビパンデミックが発生して一ヶ月後の誕生日、っていうか昨日突然異能力チートに覚醒した。


『何言ってんだお前』


 ネット掲示板で名も知らぬ生存者おまえらにツッコまれる。


「いや本当なんだって……」

 そりゃそうだよな。誰も信じないだろうな。

 俺だってこの異常さを考えてみたさ。そもそもゾンビが発生して世界が崩壊した時点で異常もクソもないのだろうが……いやいやいやいや! まだゾンビの方がわかるわ!

 魔法だぞ? 魔法! 突然魔法に、しかもどう見てもチートレベルのやつに覚醒するか!?

 それにどうやら今のところ覚醒したのは俺だけだった。ネットでぼろくそに叩かれながらも他の人も覚醒してないのか聞いてみたんだよ。

 答えは『死ね』だった。辛辣すぎるだろうよ……


 しかし、だ。他の人にどう言われようが覚醒したことは事実なのだ。


「よし」

 ひとまず自分が使えるようになった異能力を確認してみよう。

 そういえば能力を使った時に頭の中で変な声が聞こえたような気がする。なんやらかんやらを獲得したとかなんとかって……

「はっそうか!」

 そうだあれだ! ラノベやアニメで見たことがある。たしか脳内でさまざまな質問に答えてくれる万能型おしゃべりAIみたいな、リアルGo●gle先生みたいなやつだ!

 そうなるとこの先生にいろいろ聞いてみるのが一番早いだろう。えーと、なんて聞けばいいんだろう。とりあえず普通に話しかけてみるか。


「……俺の持ってる異能力をすべて教えてくれ」


「……………」


「……………………」


 何も返事はなかった。

 おいおい先生、定番ならここで長々とスキル説明してくれるとこじゃないの?

 あっまさか態度か!? さすがにフランクすぎたか!?


「あ、あのー先生すみません。よろしければ僕の持っている能力を教えて頂けないでしょうかー」


「…………………………」


 答えは沈黙。

 一切何も聞こえてこない。どうやら先生は俺の考えていた脳内万能型おしゃべり先生とは違うらしい。

「なんだよもー」

 違うのかよー。異世界モノで初期からできる定番のやつじゃないのかよー。

 俺はがっくしと肩を落とし、仕方がないので能力を確認する他の方法を考える。

 そうだなー、もしこれがゲームかなんかならステータス画面とかを確認すれば持っている能力、スキルってやつをすべて把握できたりすんのかなー……


「……まてよ?」

 もしかしたら出るんじゃね?

 ゾンビの発生、異能力の覚醒。

 ここまできたらステータスも出るんじゃね?

 ステータス確認も最近のラノベや異世界ものアニメだと当たり前のようにあるわけだし。うんうん。

 ステータス確認できんじゃね?

「コ、コホン」

 そう思うとなんだか少しドキドキしてきたぞ。あのおなじみのやつができるなんて、いくら俺がおじさんでも興奮するものはするのだ。

「よーし」

 俺は深呼吸して高ぶる気持ちを落ち着かせてから息を大きく吸い……いちおう外のゾンビに聞かれないように抑え気味で叫んだ。



「ステータス!!!!」



 しかし何も起こらなかった。


「こっちもでねえのかよ!!!!」



 現実はそう甘くない。

 だれかに笑われた気がした。


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