第74話、『VERSUS』が東京ファンタで絶賛されアニメ映画『BLOOD』を北久保弘之監督と寺田克也が語り「ときめもファンド」や2代目「AIBO」が発表される

【平成12年(2000年)10月の巻


 北村龍平監督の『VERSUS』が東京ファンタスティック映画祭で上映されました。7月に開かれた「インディーズ・ムービー・フェスティバル・サミット2000」でお披露目されて、地球最高! とまで思った作品が、過去に何人もの世界的監督を発掘して世界へと送り出して来た東京ファンタに登場。どれだけの反響を呼ぶか気になりました。


 登壇したプロデューサーが、司会も挨拶も抜きにいきなり「北村龍平を世界に」と言い出し、我に返ったようにスタッフを招き入れて挨拶を一巡させた後、再びマイクを手に滔々と『VERSUS』の凄さを語り始めたあたりで、本当に凄い作品なんだ、世界の映画人が注目するに足る作品なんだ、20世紀の掉尾を飾る以上に21世紀の幕開けを担う作品なんだといったことを肌身に感じました。終映後、出口でインタビューを受けていた人が、カメラに向かって「今年50本くらい映画を見ているけど1番です」と言っていたのが聞こえて来ました。これから50本見たとしてもやっぱり「1番」である可能性は高いと感じました。


 「石井聰亙はファンタで世界的に評価されたのに、その後なかなか撮れない時期が続いて、ようやく『GOJO』のようなメジャーを撮れるようになったんです。そんな苦労を北村龍平にはさせたくない」とプロデューサー。幸いに次々と作品を送り出し、今も活躍を続けています。願うならやはり世界配給で1億ドルの映画を撮って欲しいものですが、カルトがかったファンの熱気もまた北村龍平の特長。とにかく撮り続けてくれれば嬉しいです。


 寺田克也画伯が映画『BLOOD THE LAST VAMPIRE』の北久保弘之監督と対談するイベントが、スーパーフェスティバルという模型や玩具の展示即売会で開かれたので見に行きました。前に静岡の会合で見かけたことがあった北久保監督が、いっそうの髭ぼうぼう髪ぞろぞろな姿になってお喋りをしていました。寺田画伯はこの時が初見。坊主頭の巨躯を折り曲げマイクに向かって喋っている姿が見えました。


 映画は50分と短かったのですが、別に途中だとかいったものではなく、これはこれでちゃんとしたものといった説明をしていた北久保監督に、2時間分のものが50分にぎっしり詰まってると寺田画伯は評していました。ここから、相当な濃さを持った作品だと想像できました。劇場で見た記憶が実は薄く、パッケージで見たくらいだと思います。いつかまた、大きなスクリーンで見たい作品です。


 短いが故に語られなかった部分が、映画以外のゲームなり小説なり漫画なりになるといったことも話されました。そういった展開はあったのかな。確か新しいテレビシリーズ『BLOOD+』が2005年に作られましたが、ビジュアル的な印象は随分と違ったものになっていました。


 瀬名秀明と言えば、『パラサイト・イヴ』や、続く『BRAIN VALLEY』も含めて科学とホラーが融合したような作品を書く人、といった印象が強くありましたが、この月に刊行された『八月の博物館』を読んで、大きく印象が変わったようです。「印象としてまさしく『理科系作家』だった瀬名さんに対して理由もなしに抱いていた設定と文章のバランスへの先入観が、導入部から軽く吹き飛ばされてしまうくらいに巧みな筆さばき」で、「『文系を甘く見るな』と言われて反発しつつ納得しつつ複雑な感情を抱きつつなミステリー作家の日常を描写」していました。


 「ストーリーへの先入観もまだなく、設定すらもほとんど分からない書き下ろし小説が連れていってくれる先に待っているだろう楽しさが、冒頭の数10ページを読んだだけでもジワジワと染み出して来るような気が」したとか。読み終えても素晴らしい本だったという記憶もあります。まさしく作家の転機を見た作品でした。


 「ゲームファンド ときめきメモリアル」というものが登場しました。一般にときメモファンドと呼ばれているものですね。募集金額は最大で12億円で、集められたお金が制作費に回されたのか、別の費用に使われたのか、はっきりとは覚えていません。「10口だったらゲームのエンディングに名前が乗りますと言われた時に、20代の熱烈なファンだったら10万預ける気持ちで出してしまいそうな気がする」といった具合に、出資に対していろいろとリターンがあったことは確かです。20口なら限定版のソフトももらえたようです。


 今ならクラウドファンディングでも出来そうですが、当時はまだそうした制度は登場していませんでした。だからファンドという形になったのでしょう。12億円が多いか少ないかというと迷うところですが、そこは人気ソフトだけあって集めきったのではなかったでしょうか。だったらリターンは? これも元本は守ったと記憶しています。コンテンツファンドの走りであり、まずまずの成功例だったと言えるのではないでしょうか。


 その後、雨あられと出てきたかというとあまり聞かなかったのは、コンテンツファンドに見合うタイトルがあまりなかったからか、金融商品として設定する上でいろいろと規制があったからなのか。「デカデカと藤崎詩織&陽之下光の新旧ヒロインがあなたに手をさしのべてるパンフレットとかがあるみたい」とウエブ日記には書かれていて、持っていたらコレクターに垂涎だったかもと思うと、物持ちの悪さを嘆きたくなります。今、「ときメモ」がどれだけのバリューを持っているかはちょっと想像ができませんが。


 新型の「AIBO」が発表されました。正式名称「ERS-210」は、犬をモチーフにしていた前作から一転して「子ライオン」がモチーフ。そのため第1世代では顔の横に垂れ下がっていただけの耳が、第2世代では三角形のピンと立った小さいながらも「猫ミミ」になっていて、ちゃんとピクピク動くようになっていました。


 動き始めれば仕草にしても表情にしても、第一世代の「AIBO」に迫り超えるくらいの豊富なバリエーションを見せてくれて、生命のこもっていないドンガラに過ぎないロボットであるにも関わらず、何故かそこに生命の雰囲気を感じてしまいました。人間の言葉を聞き分けて反応する機能も搭載しているから、成長していった果ての姿も「AIBO」によって相当な違いが出て来そうでした。


 価格も、初代から10万円下がって15万円と太っ腹なところを見せていました。基本ソフトの9000円が絶対必要で、充電器の上での動きを楽しむためには、別売りのエナジーステーションを買う必要もありましたが、安くなっていることには変わりありあません。冬のボーナスをこれでせしめよう、だなんて意識もあったのでしょうか。我が家ではもちろん動かし床などないので買いませんでしたが。買ってもファービーやプリモプエル同様、本に埋もれて潰れてしまった可能性も高そうですし。


 「モーニング娘。」版の『ドンジャラ』を買ったようです。たぶん「ゲーム批評」で連載していた、デジタルではない遊びを紹介するコラムで使ったものです。モーニング娘。といっても長い歴史を持つグループで、メンバーも大きく替わっていますが、この当時は5人オリジナルでも3人プラスでも福田明日香が抜けた7人でもゴマキプラスの8人でも石黒が抜けた7人でも吉澤石川辻加護の4人が参入した11人でもなく、市井が抜けた後の10人によるバージョンだったようです。


 その10人がのび太ドラえもんジャイアンしずかちゃんスネ夫ドラミらが描かれた定番「ドンジャラ」のように、牌に写真で張り付けられていて、同じ顔を3枚づつ揃えてそれを3組集めて「ドンジャラ!」と言って上がるのがルールでした。メンバーによって点数に違いがあって、キャリアによって10点5点1点と格差が付けられていて当然ながら中澤裕子が10点と高くなっていました。


 飯田圭織や安倍なつみが10点なら中澤は15点でいいのかもしれませんが、そこはフラットに。保田圭と矢口真里に並んで後藤真希は5点。役では「プッチモニ」とか「タンポポ」といったものがあって、揃えるとボーナス得点がついたそうです。矢口に辻に加護のミニ系3人が組んだユニット「ミニモニ」のボーナスは、開発時にユニットがまだなかったため明記されていませんでした。こう聞くと、当時のモーニング娘。の状況や関係性が浮かんで来ます。商品はまだ部屋にあるはずですが、どこにしまったかなあ。


  務めていた新聞社が新社屋へと移ったようです。それこそ昭和30年台に作られた古い建物を出て、横に出来た高層ビルにグループごと移転して、そこから19年以上を過ごすことになりました。わたしは出されてしまいましたが。何しろ新聞社ですから資料も山ほどありましたが、移転にあたっては荷物を段ボール箱1つにしろといったお達しがあって、古い写真や古いリリースや古い白書の類を一切合切処分してしまいました。


 当時はまだ、デジタルが普及し始めた前後でプリントでもっていた写真も多くあって、中にはアニメーションやゲーム関係の人物やイベントの写真もあったと思います。撮っておけば貴重なアーカイブになりえたものを、捨ててしまって当然と考える意識があるいは、情報を蓄積してナレッジに変えて厚みを出すスタイルから、起きていることを即座に伝えて瞬間のキャッチを得るスタイルへと、報道を変えてしまったのかもしれません。


平成12年(2000年)10月のダイジェストでした。

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