第65話、オンラインの『FF11』が発表され『石神伝説』の4巻に期待を寄せ「ボ・ガンボス」のどんとが亡くなり『ブギーポップ』のアニメが始まる

【平成12年(2000年)1月の巻】


 スクウェア(当時)がパシフィコ横浜でイベントを開いて『ファイナルファンタジー10』とそして『ファイナルファンタジー11』の開発を明らかにしました。『10』はいつもの8頭身キャラがリアルタイムでフィールドを駆け回るゲームでしたが、『11』が完全ネットワークゲームとして発売される見通しだったことで驚きが広がりました。


 クライアント同士をマッチングさせるものではなく、サーバーにアクセスして遊ぶMMORPGだったようで、NTTコミュニケーションズと組んで高い通信技術の上で提供される、高品質のサービスになる可能性が高いといった予想を立てました。それが当たっていたかは遊んでいないので分かりませんが、サービス自体は2002年のローンチから2016年まで続く息の長いものになりました。


 パッケージが出て数年で“寿命”を向かえるのに比べると、この息の長さがネットワークゲームの利点でもあり、同時にサポートし続けなくてはならないとう難点でもあります。ここでの経験が『ファイナルファンタジー14』の事業に生きているのだとしたら、20年近い挑戦にも大いに意味があったのでしょう。


 それにしても、スクウェアが当時立ち上げたネットワークサービスが「プレイオンライン」という名前だったことにも驚きました。やはり「プレイステーション」を意識してしまいますから。ソニーがまだそちらに行かないうちに、スクウェアなりデジキューブが核となって「e-ディストリビューション」のインフラを作ろうとしていた、その気概の現れだったのかもしれません。


 あと、スクウェアが「プレイオンライン」で攻略方法を提供しようとしていたことを思い出し、今のネットで攻略Wikiが盛んに利用され、攻略本ビジネスが成り立たなくなっている状況を思い浮かべました。「攻略本はあれでノウハウがいるもの、本じゃなくってもデータの形でネットで公開すれば良いんだよってことになるんだろうけど、ネットで連動させるってことは本体のソフトとセットで情報が作り込まれてるってことだから、選ばれて参加できるだけの関係が深いところしか生き残れないってことになるのかな」。どうなっているのでしょう。気になります。


 青山ブックセンター本店で開かれた「とり・みきサイン会&対談」をのぞきました。展覧会も開かれていて、主に『石神伝説』のページや口絵が貼られていましたが、中に山下達郎を描いた「TATSUROMANIA」というかイラストがあって、独特のデフォルメを施されてもやっぱり解るタツローがサンタになったり何かになったりしていました。当時は珍しかったのですが、2000年代に入って活発化した山下達郎のライブ会場でよく見かけるようになりました。


 対談の相手は脚本家の伊藤和典。諸星大二郎や星野之宣と使われて来た「伝奇」的な要素をマンガに盛り込む上で、気持ちに制約はないのかといった話になって、「『ガメラ』なんかだと自分が使う材料がバッティングした時は、あっやられたと思っても別にいやじゃないけど、『カムナビ』は……」といった、なかなか複雑なコメントが発せられたようです。


 ここで挙がった『カムナビ』とは梅原克行の小説のこと。とり・みき作の『石神伝説』では第3巻に「アラハバキ神」という存在が出て来ますが、『カムナビ』ではこれが超絶壮大にて驚天動地なものとして描かれていて、比べていろいろ思うところもあったのでしょう、作者にも読者にも。


 そんな『石神伝説』の第3巻から先について、プロットは出来ているものの発表する媒体について未決定で、第3巻の後半のように描き下ろしを全編でやって「描き下ろし単行本」として刊行することについて、当時も懐疑的なようでした。「読者としてはどこでも良いから即座に連載を始めさせてやって欲しいものだけど、本人もスケジュールがあるからお任せしよう」とウエブ日記には書きましたが、以来20年、どこまで待てば「完結」の言葉を読めるのでしょう。待ち続けます。


 ミュージシャンの久富隆司(くどみ・たかし)が死去と、スポーツ新聞などで報じられていったい誰かと目を凝らして、「ローザ・ルクセンブルク」や「ボ・ガンボス」のボーカルの「どんと」だったと分かりました。「ローザ」時代からアルバムで楽曲を聴き、「ボ・ガンボス」になってからは昭和63年(1988年)末の名古屋レインボーホールでの徹夜イベントに出演した様子を見た記憶があります。


 「ローザ」のドライブ感あるハードなロックとは違った、グルーブがかかった音楽を目の当りにしたようですが、この頃は沖縄を拠点に活動していたはずです。何より奥さんがゼルダのベーシストで、SFマガジンにも音楽評を寄せていた小嶋さちほでしたから気にはなっていたアーティストでした。歿後20年になるのですねえ。時は流れます。


 XaviXを覚えているでしょうか。チップの中にグラフィックの処理だとかセンサーの処理といった機能が搭載されていて、それを使うとテレビ画面で映像を見ながら体を動かす遊びが出来てしまうといったものでした。新世代という会社が作っていたもので、エポック社が新しく開発した『エキサイトスタジアム』という体感型玩具にも使われていて、画面の中でピッチャーが投げるタイミングに合わせてバットを振ると、ボールを打ち返せたりしました。


 コントローラーのボタンを押すだけではない楽しみがあって、これは流行ると思っていたらいろいろな玩具に搭載されて、どんどんと広まっていきました。XaviX Portという幾つものゲームが搭載されたコンソールも出ましたが、あの任天堂がコントローラーをセンサーで読み取り操作する「Wii」を出したことでバッティングし、消えていってしまいました。ゲームの世界の一幕。覚えている人はいるでしょうか。


 2000年代に入ったということで、1月発売のアニメ雑誌で「月刊アニメージュ」が19990年代を振り返る特集を掲載していたようです。アニメ様こと小黒裕一郎と「月刊アニメージュ」松下俊也編集長が、「90年代に対応する新しいアニメ誌」が出なかった点について話していて、大塚ギチらが編集に携わった「G20」のようなアプローチに対して関心を寄せていたことがウエブ日記に記録されています。


 末尾には「今後は作品の本質をとらえて、それを一歩二歩前に出た手法で表現することが、アニメ誌にとって必要になっていく」といった松下編集長の言葉が掲載されていたようですが、果たしてそれは実現したのでしょうか。もしかしたらアニメ誌が作品の紹介を中心にしていかざるを得なかった関係で、小黒祐一郎によるクリエイターを中心としたインタビューとクリエイティブワークの紹介を中心とした「アニメスタイル」が作られたのかもしれません。願うならそれが月刊ペースで出て欲しかったのですが、流石にちょっと厳しいか。それでも幾度かの休刊を挟みつつ、今も継続されているのは嬉しい限りです。


 そんなアニメーションでは以前に発表会で製作が明らかにされたテレビアニメーション版『ブギーポップは笑わない』の放送が始まったようです。「冒頭からスガシカオの歌が流れてどこの何ちゅー番組なんじゃと一瞬にして居住まいを糺され、リアルさからは縁遠い平面系キャラに比してデジタル加工された素材をふんだんに盛り込んだリアルな小道具や、電線金網電車街並みといったリアルっぽさを前へと出した背景、雑踏の喧噪耳鳴りのするノイズを交えた音響が入り交じった画面に対して妙な懐かしさを覚える」。


 つまりはどこか『serial experiments lain』が思い浮かんだとうことですが、あちらが小中千昭ならこちらは村井さだゆきと、ともにホラーやサスペンスに通暁していて同じ作品にも結構参加していながら、どこかテイストの異なる2人だけに『ブギーポップ』:も違う方向へと進んでいきました。一応のキャラと設定は押さえつつも、原作の事後を描いた内容には今も賛否両論ありますが、見ればこれもブギーポップだと分かるはずです。原作そのままの『ブギーポップは笑わない』のテレビアニメが放送された今、改めてこのアニメも見て広がるブギーポップ・ワールドの中に位置づけて欲しいと思います。


 セガトイズから「プーチ」という犬型ロボット玩具の発売が発表されました。ソニーの犬型ロボット「AIBO」を玩具にして安い値段で発売して二匹目のドジョウを狙っただけだといった印象を持った人も当時は多かったかもしれません。何かはやればすぐに玩具にするのが玩具会社でしたから。耳の部分などには「iMAC」で一世を風靡したキャンディカラーの素材も使われていましたし。


 そんな“パチもん”がこのあと世界中で人気となって、実に1200万台を売り上げたというから何が流行るか分かりません。「今後山と出てくる『ヴァーチャル・ペット』の行方を占う意味でも成り行きに注目が集まる」とウエブ日記には書いていましたが、結果として一時は中断した「AIBO」が復活した訳ですから、その間をつないだ「プーチ」の存在も決して小さくはなかったと言えそうです。


平成12年(2000年)1月のダイジェストでした。

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