第64話、万有引力の舞台で「絶対運命黙示録」を聞きアニメ版でじこの「ほかほかごはん」に涙ぐみ『D2』発売で飯野賢治と握手しアニメ紅白でアニキを見る

【平成11年(1999年)12月の巻】


 『少女革命ウテナ』の「絶対運命黙示録」はこちらが本家となる、J.A.シーザー率いる「演劇実験室◎万有引力」の公演『未来のイヴ』を大田区民ホール・アプリコで見ました。ヴィリエ・ド・リラダンの古典的名作を題材にした舞踏の演劇で、圧倒的なパワーを見せつけられて凄い凄いと心で連呼しました。


 機械とは、人間とはというSFに割とある命題に最初期に挑んだ古典的名作を、舞台では黒い衣装に身を包んだ人たちの群舞だったり、ソロだったりするダンスと、手振り身ぶりを中心にしたアクションを加えながらの難解な単語続出のセリフ、そして『少女革命ウテナ』にも流用された、謎めいて意味深な歌詞が連なる音楽の三つ巴によって舞台化したものです。ストーリーはよく分からなくても、見ているうちに引き込まれ押しながされて知らず時間も過ぎ去って、悲劇の幕が下りる最後の場面へと持っていかれました。


 「客席までも使って黒い服白い顔のスリムな男優女優が歩き回る幽冥の雰囲気すら漂わせる演出は、アングラとか暗黒とかいったともすれば野卑た印象すら抱きかねない言葉とは無縁にクールで美しく、統制のとれた動きや常に緊張感でいっぱいの肉体から発散されるパワーが、観客に一瞬のダルさを抱く暇を与えない。流れる合唱は耳慣れた『天使創造すなわち光』『ワタシ空想生命体』『絶対運命黙示録』などで、それがホールいっぱいにスペクタクルな大音量で鳴り響いているのを聞いているだけでも、『ウテナ』ファンだった身として至福の時間を過ごせた。思わずいっしょに大声張り上げたくなったよ『月天水星天金星天太陽天火星天』とかって」。ウエブ日記から引用しているだけで、また見たくなってきました。


 アロックダンスドラマカンパニーという、ダンス中心のステージを普段から見せているチームが参加していただけあって、中心となっていたおそらくは須貝哲也というダンサーはじめ全員が完璧なプロのダンスを見せてくれていたのにも圧倒されました。あまりの面白さに後日、また見に行ったほどですから。「『ウテナ』な人も聞いて見て絶対に損のない舞台、とりわけ迫力の尻に響くような音響での『絶対運命黙示録』『バーチャルスター発生学』は現場でないと絶対に味わえない快楽」。本当、また演ってくれませんかねえ。


 年の瀬ということで、電通と博報堂の大手広告代理店がそろって2000年のトレンドを占うリポートを発表したようです。電通はマクロな視点で混迷する日本経済の打開策として、個人の夢を現実化させようとする気分なり政策が必要と訴えていました。博報堂も個人個人の性向を反映させたライフスタイルなり、人生設計の必要性を指摘していました。ともに国家とか企業といった旧来の枠組みが外れた中で、「個」がどこまで自己実現をしていけるのかってのが重要になると見ていたようです。


 今、個人が自分を表現しようとしてネットというチャネルを使い、IoTという技術を使ってどんどんと世の中に出ています。成功している人も大勢いますが、それはごく一部。多くは自己実現以前に、自分を守ることで精いっぱいになっています。国が福祉をどんどんと切り下げて個人の自己責任にすべてを押しつけようとし、企業も雇用を守りつつ業績を伸ばしていくような経営から、人を使い捨てのようにして業績だけを上げていく方向へと向かう中、個人が自分を守るためにとてつもない努力を強いられる社会になってしまいました。国が守り企業も支えて生まれる個人の独創性。それが出来てる海外は伸び、日本は沈む一方です。どうにかしないと……どうにもなりそうもありません。


 TBSの番組「ワンダフル」の枠内で、『デ・ジ・キャラット』のアニメーションが始まっていたようです。「『ワンダフル』から2日目の『でじこ』はなんかちょっと面白い、振り向き様のビームも炸裂してたし見上げた顔やら見おろした姿のカットになかなかのトキメキも感じられたし」。一方で「車に跳ねられアキバーなら誰でも知ってる万世橋の下へとドボンしてしまう展開とかって、非アキバーにさてはてどこまで嬉しがってもらえるのか。初日の『すてきなサムシング』も同様」と、凝り過ぎた内容に不安をさらけ出しています。


 「オタクなマーケットを相手にしたショップのアイドルキャラクターを主役に据えた作品でありながら、集まって来る太ってたり痩せてたり語尾に『にょ』とか『にゅ』とか付けて喋る人たちをヤユってたりする話を堂々をやってしまった昨晩のエピソード。なのにやっぱりハマってしまう自分の業の深さが哀しい」。自虐もオタクの属性ですから。


 「『ほかほかごはん』を夢みつつのでじこの横顔の不安定さはさておいて、いつものシュールさとはちょっと違った儚げながらもジンと来るエピソードが散りばめられていて『デ・ジ・キャラット』を見ながらちょっぴり涙ぐむ。ゲーマーズの掃除にゲマもぷちこも連れず1人で寒い中を出かけて行ったその健気さは、狡猾との噂を補って余りあるセールスポイントになり得るだろう」。名作エピソードの「ほかほかごはん」には感動していたようです。暖かいご飯を食べられる幸せを、今まさに噛みしめているというか夢みている今だけに、20年前の自分にお前はもっと頑張れと説教してあげたいです。


 あの『ハリー・ポッターと賢者の石』が発売されたのがこの頃でした。日本ではまるで知られていなかった作者によるファンタジーが、決して大きくない版元から刊行されて驚きましたが、「読み始めたらこれが止まらない。冒頭の極めて真っ当や親バカ一家の所に信じたくない魔法の世界から甥っ子が預けられて幾星霜、イジめ抜かれても素直にすくすくと成長したその甥っ子ハリー・ポッターが、死別した両親の偉大さもあって魔法学校に入り受け継いだ才能もあって悪い魔法使いを相手に大活躍するエンターテインメント性の高い物語に仕上がっている」と絶賛しています。当時、これほどまでの大ヒットになるとは思ってもいませんでしたが。20年経った今の状況を見るにつけ、才能を世に問う大切さを改めて思います。書かなければJ.K.ローリングの今はなかった訳ですから。


 12月23日ですから翌日がクリスマスイブという日に、朝から秋葉原の「メッセサンオー本店」に行きました。飯野賢治が新作ソフトの『D2』を手渡しで販売するイベントが行われたのです。開店1時間前の午前8時に到着すると、店頭から延びた行列は角を曲がってさらに曲がってメッセの裏口あたりまで続いていました。寒さの中を震えながら店が開くのを待っていたら、楽器を持った人やらご本尊やらが続々参集。そして、店頭に登場した飯野賢治が話をし、音楽も奏でられる中で販売が行われました。


 ゲーム本体にオルゴールにポスターにクッション代わりの英字新聞が詰まった大きな箱の表面に、1つづつ飯野賢治本人がメッセージとかイラストを描いたのをセットで販売しました。もちろん本人の握手付きです。12月25日の深夜に東京ベイNKホールで開催される、1人8000円もするイベントの招待券もペアで配っていたようですが、これは行かなかったのでどれだけの人が集まったかは分かりません。こうしたプロモーションを行わなくてはならないほど、売れ行きが心配だったのでしょうか。それとも快調だったからこそ、大盤振る舞いをしたのでしょうか。今となっては分かりませんが、この時に買った『D2』は今の部屋のどこかにあるはずです。発掘されたら思い出すでしょう、飯野賢治というクリエイターがいたことを。


 日本武道館で開かれた『20世紀アニメ紅白歌合戦』にも行きました。紅白といっても人間としての性別が男性だったのは我らが兄貴の水木一郎と、『サクラ大戦』の大神少尉役の人くらい。紅組キャプテンは我らがミッチー、堀江美都子でしたが、出演者は金月真美、野田順子、岩男潤子、飯塚真弓、松本梨香、米倉千尋といったあたりが紅組白組に別れてました。緒方恵美は白組。これは碇シンジ役が人気だったからでしょうか。


 ステージでは『ときめきメモリアル』と『ときメモ2』の主役2人が揃って登場して始まり、水木一郎に総立ちになっていっしょに歌ったりといった楽しいものだったようです。誰のファンという訳えはなく、アニソンなら何だって応援するといったファンが当時からいっぱいいたのでしょう。この空気感は、今のアニサマに確実に続いています。


 そして大晦日。雑司ヶ谷にある事務所で東浩紀らと2000年という、まだ21世紀ではありませんが時代の区切りとなるような年を向かえました。後に「TINAMIX」というウエブマガジンで連載することになって、その顔合わせも兼ねたような会合にはマンガ家の砂や漫画評論をしていた伊藤剛やムネカタ、トモミチといったネットで名を見る面々が集まり、AIBOやボディーブレードをいじりながら朝までいろいろと話をしました。今も活躍する面々と触れ合い、そこで精進していれば良かったのですが、自分を過信したのでしょうか怠惰に時間を過ごして20年後の今、路頭に迷いつつあります。困った者です。


 2000年代は本当にいろいろ起こりました。


平成11年(1999年)12月のダイジェストでした。

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