平成の4分の3をカバーするウェブ日記『日刊リウイチ』から平成を振り返る
第63話、東京ファンタで『D』や国産フル3DCG映画『A・LI・CE』がデジタル上映され大地丙太郎が早稲田で講演し「笑い」と「命」について語る
第63話、東京ファンタで『D』や国産フル3DCG映画『A・LI・CE』がデジタル上映され大地丙太郎が早稲田で講演し「笑い」と「命」について語る
【平成11年(1999年)11月の巻】
「ヌーベル・イマージュ」だそうです。英語だと「ニュー・イメージ」となるのでしょうか。当時はまだまだこれからだった、CGを取り入れた作品が平成11年(1999年)の東京ファンタスティック映画祭ではいろいろと集められ、上映されました。
フィルムによる上映がなかったことも特徴でした。今でこそ普通になっていますが、当時ようやく世の中に存在が知られ始めたDCPを、映画祭で実施してしまったものでした。世界では『スター・ウォーズ エピソード1』で使われ、日本でも年末公開の『ターザン』で導入される見込みになっていましたが、フィルムに比べて暗い可能性、デジタルデータをどうハンドリングするかといった問題などもあり、どれだけの速度で普及するのか、心配な部分もありました。
「フィルムに焼いてないビデオの素材であっても立派に商業ベースに乗る上映会が開けるって意味で、ミニシアターのムーブメントをさらに自主上映レベルまで押し下げて解放する可能性なんかがあるのかも」と当時のウエブ日記には書きましたが、今はすべての劇場がデジタルになって、超大作までデジタル上映される時代になっています。技術は進歩し環境は変化することを改めて実感させられます。
「ヌーベル・イマージュ」ではまず、岡部淳也監督によるパワードスーツ格闘映画『D』が上映されました。すでに試写で観ていましたが、プロジェクターの性能が良く夜の場面も見やすくなっていました。1回目では気になった乱暴なセリフとタメのない暴力も、心構えができてた分だけ、安心が先に立って違和感をそれほど感じず見ることができました。
上映終了後に出てきた進行役の大口孝之が、岡部淳也監督のキャラクターそのままの映画だと言って、会場から笑いが出たのは知り合いが結構いたからでしょうか。試写とは違ってエンディングに「つづく」という文字も入っていたようです。いつか実現するのでしょうか。
その後、課長王子の演奏会があって、そして『太陽の船 ソルビアンカ』の新版上映が行われて、『アミテージ・ザ・サード』以来となる越智博之監督で、恩田尚之キャラクターデザインによるテイストあふれた映像が上映されました。森本晃司監督の超絶ショートアニメ『永久家族』をつないだ長編版や、当時は製作中だったフル3DCGによる『鉄コン筋クリート』の映像も上映されました。
結局、この森本版『鉄コン筋クリート』は幻に終わってマイケル・アリアス監督版の映画が公開されました。幾つもの賞を獲得するできばえだったのですが、それで1本となるとやはり莫大な予算が必要だったのでしょうか。池田爆発郎という、凄い名前の監督による『PiNMeN』には笑いました。
そしてもしかしたら、国内で初のフル3DCGアニメーション映画だったかもしれない『A.LI.CE』が上映されました。「2000年、スペースシャトルに乗って宇宙観光へと出かけた少女が目覚めた場所は雪原で、教われる謎の一味から逃げて匿われた先で、そこが2030年の地球で、ネロと言う男によって人類が大粛正されていたことを知る」
そんな展開からあとは、タイムパラドックスを内包しそうな結末へと進んで行きました。岩倉玲音を演じた清水香里が声で出演していて、話題性は抜群だったのですが果たして今、この映画を覚えている人はいるのでしょうか。そもそも見られるのでしょうか。家にラッピングがされたVTRがあるので、DVDに焼いてもらおうか、なんて思ってます。
大口孝之と言えば、「アニメ批評 #002」で『ホーホケキョ となりの山田くん』の評を書いていたようで、「誰の目にも無理と思える企画に、むりやり理由を見つけて、苦しみながら作品を作り上げた高畑監督を責めるのは間違いだろう」と高畑監督を擁護していました。とは言え、説教を入れた責任は多分に高畑監督にもあった訳で、やはり全てがどこか噛み合っていなかったということになりそうです。
早稲田で大地丙太郎監督の講演会が開かれ、のぞいてきました。満員に近い600人くらいが集まったそうで、前月に東京都写真美術館で開かれた有名監督が大集合したイベントが50人も集まらなかったのとは大違い。人気の差というよりは告知の差だったのかもしれません。『ナースエンジェルりりかSOS』のりりかや『こどものおもちゃ』の紗南のファンもいたのでしょう。
ギャグを畳みかけるような大地丙多郎監督ですが、トークでは自分自身がアニメの中に盛り込みたいと考えているテーマが、「命」と「笑い」で、結構重たいテーマが潜んでいることに改めて気付かされました。「人生とか個性とかをひっくるめた個の人間が折角生まれて来たて得た『命』をどう使うかって考えた時に、出来る限り大事に使って欲しい欲しいってな気持ちがあって、そんな人生の中で一番幸せなのは何かって考えた時に、それは『笑えること』じゃないかってな思考に至った」と、日記では大地監督の話をまとめています。
「笑える人生を得るのってそれはそれは大変なことだけど、辛いこと大変なことを乗り越えて笑える境地にたどり着く、そんな『命』を描くことこそがアニメという表現形式で大地監督がやりたいことなんだろう」とも。なるほど、『こどものおもちゃ』にしても『十兵衛ちゃん』にしても、母親の死を乗り越えるような場面が盛り込まれています。
ラストが哀しい『ナースエンジェルりりかSOS』も同様。重いテーマを軽く見せつつ重いテーマに思い至らせる、なるほどその腕前があってこそ心に響く作品が出来上がって来るのでしょう。そこまで思い詰める大地監督だからこそ、『りりか』のクライマックスと制作期間が重なった『こどちゃ』では、『りりか』に気持ちを寄せていた反動で倉田紗南役に起用された小田静恵が「大嫌いだった」と講演で明かしました。
それは、気持を簡単には切り替えられない真剣さの裏返しでもあるのでしょう。選んだのが自分ではなかったという経緯もあったようで、8話を録る2カ月後まで口もきかなかったというから相当なものですが、結局は2年近く続くシリーズとなった訳で、講演にもそろって出るくらいの関係は築けたようです。
博報堂から出ている「広告」という雑誌に、「最近どうもデカい話ばかりしていると哲学者の東浩紀さんが言うので」というコピーとともに、「東浩紀のすごいデカい話」とう企画が掲載されました。3人の今をトキメく人たちと対談するという内容で、1人目が精神科医の斉藤環。「戦闘美少女」について斉藤環が研究していて近く本にまとめる予定があることを知りました。後の『戦闘美少女の精神分析』ですね。
2人目は山形浩生で、オープンソースの話を軸に、オタク文化の模倣と引用の果てに生まれる進歩とを絡めて最近の著作権とか商標といったものを強化する動きに疑問を呈していたようです。3人目は現代アーティストの村上隆。ここでは東浩紀の岡崎乾二郎リスペクトぶりが溢れていたようです。そんな雑誌の印象について「最大の不思議は『東浩紀』特集と銘打った『広告』の表紙に、僕の知ってる東さんとは『似ても似つかない』、細面で福々しくない兄ちゃんが描かれているってこと」と書いています。当時はまだ今ほどではなかったはずですが、それでも片鱗は見えていたようです。
横山智佐を主演に開かれた『トリスアギオン』というリーディングドラマを発展させた『ゼルカーヴァ(zelkova)』という舞台が開かれたのでのぞいたようです。ようやく認知され始めた仲間由紀恵が出演していました。町の教会に生えている1本のけやきを巡って少年と少女の会話が繰り広げられ、少年の祖父が樹木の医者として知られていたこと、16年前にそのけやきが火事になったこと、それを少年の祖父が治そうと努力したことなどが明かされるドラマが繰り広げられたようです。
やがて、仲間由紀恵演じる教育実習生が登場しますが、少女は彼女が16年前の火事でけやきの洞に入り込んで生き残った少女ではないかと疑い、彼女が再びけやきを燃やそうとしているのではと少年に讒言します。少年はけれども信じません。そんな物語からは、環境と開発の相反する問題の狭間に立つけやきを挟んで、いろいろと考えさせられたようです。今、どれだけの人がこんな舞台があったことを覚えているのでしょうか。日記に記録する大切さを感じています。
セガ・エンタープライゼスによる事業戦略説明会があって、ソフト開発部隊をそれぞれ単位ごとに分社化してしまう英断が繰り出されたようです。それから、CSKグループを率いる大川功がインターネットへの愛を語り倒したようです。家でコンピュータ相手にRPGとかってやっていたってツマらない、これからは人間相手なネットワークゲームだといったことを話していました。
当時の貧弱なネット回線では夢物語ととられましたが、今、見渡せばすべてがネットワークゲームになっています。コンピュータではなく人を相手に闘うゲームが主流となり、eスポーツというカテゴリーも生まれてきました。アーケード偏重への批判もしていたようで、ここで本格的にオンラインゲームの会社へと舵を切っていたら……というのも今から見て分かることでしょう。
家庭用ゲーム機もアーケードも持った総合ゲーム会社が、ソフトにのみ傾注してネットワークにシフトできるはずもありません。ただ、どこかに分岐点はあったはずで、そこで勝負できたかどうかが結果として今のゲーム市場の勢力図に繋がっていると言えます。セガもFSOをはじめネットでそこそこ勝負できているようですし、大川功も遠くから見て少しは満足しているかもしれません。
平成11年(1999年)11月のダイジェストでした。
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