第56話、月蝕歌劇団の『少女革命ウテナ』を観てセガのGBやWSへのソフト供給に驚き神野オキナの頭に久美沙織がキスをしJリーグの試合を始めて見る

【平成11年(1999年)5月の巻・下】


 平成31年から令和元年をまたいで放送されるテレビアニメーション『さらざんまい』の幾原邦彦監督が手がけた『少女革命ウテナ』を、“暗黒の宝塚”こと月蝕歌劇団が舞台にしたということで、ゲネプロをザムザ阿佐ヶ谷に見に行きました。『少女革命ウテナ 魔界転生◎黙示録編 ~麗人ニルヴァーナ来駕~』という演目で、開場を待っていたら小室哲哉ばりにスラリと細身の長身で茶髪でなサングラスの兄ちゃんが登場。幾原邦彦監督でした。当時から格好良かったんですね。


 ゲネプロでは、月蝕歌劇団を主宰する高取英と幾原監督、そしてアーティストのパルコ木下が並んで座っていた模様。そんな舞台は「棺桶に子供時代のウテナが寝ていて、そこに桐生冬芽と西園寺莢一がやって来て、王子様も来て目覚めさせる有名な場面から幕を開け、鳳学園へと転校して来たウテナが西園寺に虐められてる姫宮アンシーに出会い、西園寺を倒して薔薇の花嫁をゲット」という、テレビの1話か2話を振り返るところから始まりました。


 そこから「いきなり冬芽とウテナが戦い冬芽は破れてでもって理事長代理の鳳暁生も自分がいきなり登場するくらいの緊急時代といわんばかりに表れて、さてそこからが本編のアニメとはちょっと離れた展開へと向かい、根室記念館とも関わる冥界からの挑戦を敷衍させたストーリーに流れて、ウテナとの対決そして結末へと流れていく」舞台。「一言でいえばあの39話がちゃんと2時間に収まってるってことでしょう」。聞くと今また観たくなりました。


 舞台の中では「新撰組は」「それは言わないお約束」といったやりとりがあって、突如決まった『ウテナ』の公演で代わりに飛んだ演目があったことを伺わせました。舞台の感想では、台詞に「赤軍派」「魔女っ娘メグ」が出て来たことに、「『魔女』なら今はヤッパリ『おジャ魔女どれみ』でしょう。せめて『ファンファン・ファーマシー』とか『宅急便』とか」と突っ込んでいます。


 役者では、高森美佐世役の麻田真夕はバストのラインが綺麗で、野口員代の姫宮アンシーは喋るとそっくりだったと書いています。そして当時はまだ成宮観音と名乗っていた三坂知絵子が出演をして、「爆裂お邪魔虫な桐生七実をとてつもなく見事に演じているのを、その大口開けて発する甲高く高慢な笑い声とともに間近で見物できる」舞台だったと振り返っています。


 最前列に座っていれば、「他の出演者たちがしずしずと演技をしたり、男って設定なんでパンツをはいてたりするなかで、1人スカート姿を気にもせずクルリときびすを返したり腰を折り曲げたりしてくれる、その一挙手一投足をかぶりつきで見ることが出来る。何が言いたいかってつまり見えるんだよチラチラと」とも。後に『花と蛇』ではもっとさらけ出してくれるのですが、当時はそれだけ驚きでした。ありがたやありがたや。やはりまた観てみたいです。


 セガが自社のものではないハード、任天堂の「ゲームボーイ」とかバンダイの「ワンダースワン」にソフトを供給していくという発表があったおうです。家庭用ゲーム機とは重ならない携帯型ゲーム機ならバッティングしないという判断があったのでしょうか。当時は言い訳として、携帯型ゲーム機版から家庭用ゲーム機版へとデータが返せるような、マルチプラットフォーム的戦略も示唆されていたようですが、現実には自社プラットフォーム向けだけでは行き詰まるため、ソフト資産を他のプラットフォームにも展開していこうという嚆矢にも見えました。そして結果は……。流れはあったのでしょうね。


 映画『鉄道員(ぽっぽや)』を試写で観たようです。そして泣いたようです。「山林を抜けて走る1両だけの電車がやがて到着した駅に、1人佇む佐藤乙松こと高倉健さんのかっこいいこと渋いこと。まさに『鉄道員(ぽっぽや)』の世界をその絵1枚で表現しているかの如きハマリ具合に最初の目頭灼熱化がスタートする。畳み掛けるように駅のホームで雪の上を構わず走る小さな女の子が1人。すでにして原作を知っている身としては、その女の子の正体も熟知しかつどういう結末を迎えるかも完全に頭に入っていることが逆に結末の悲しさを引っ張って来て涙腺を押し広げて涙をジワジワと滲ませる」。そんな始まりでした。


 「意固地なまでに実直で何事にも一途で真面目で融通が利かなくて自分の仕事に強い誇りと責任感を持ってる、ってなイメージのある健さんが演じる乙松も一面ではそういうところがあるけれど、一方では駅長として住民に親しまれ利用客があれば話しかけ飄々としたところも乙松にはあって、そんな難しい役所をこれが健さん流石に日本の大スター、最初から乙松は健さんをイメージして書いたとした思えないくらいに見事に演じきっている」。さすがは高倉健です。


 後半へと至るにつれて、試写室にはすでに鼻をズルズル啜る音がいっぱいに響きわたりました。「全編を通じて圧倒的な存在感を見せつける健さんの演技を見る楽しみ、白いトレンチコートを脱いでセーラー服姿になる時の広末りょんりょんのほのかな色っぽさを見る楽しみなど見所はたくさん」だった映画。今みたらさらに泣けそうです。


 まだアスキーの中にあった「ファミ通」、後のエンターブレインで今はKADOKAWAに張っている部署が募集した「第1回ファミ通エンタテインメント大賞」の授賞式に行きました。富野由悠季監督が選考委員をしてて会場で姿を見かけたようです。ドラマ企画部門では大貫健一や近藤るるるが選考委員として登壇。イラスト部門はファミ通の表紙を描いている松下進、水玉螢之丞、美樹本晴彦が選考委員でしたが欠席で、お目にかかれませんでした。


 さて選評。自分が選んだ人と握手をと司会に言われた富野監督は、「握手はだめ。そんなことしてちゃ勝てないよ」とあっさり拒否しました。クリエーターは3歩離れれば皆ライバル。そんな認識を常に忘れないのが今なお第1線で活躍し続けていられる原動力なのかもしれません。


 とは言え、小説部門では選考委員の久美沙織が「かがみのうた」で佳作に入った沖縄県出身の神野オキナの剃り上げた頭にキスをしたほどですから、歓待のしかたは人それぞれといったところでしょうか。この時に同じく佳作となったのが桜庭一樹。2人とも今も現役で桜庭一樹は直木賞まで受賞する作家になりました。


 ライトノベルの賞だからといって、作家も作品もそれに特化していた訳ではなく、面白い物語を書ける場を求め、賞があったので書いて出し、その後も研鑽を重ねた結果が今日なのだとしたら、目に見える機会は逃さず貪欲に狙い、そこから頑張ることが大切なのかもしれません。頑張らないと。


 「WAIRED」が休刊して辞めた編集陣が立ち上げた「サイゾー」が創刊されました。中に「アムウェイ用語の基礎知識」にある「なぜかアムウェイのヨイショ記事を掲載したり、ヨイショ本を出している、フジサンケイグループのマイナー業界紙」が日刊工業新聞になっていたようで、当時からマイナーだったことが伺えます。そこでいくら書いたって世間じゃ……。沈みます。


 平成5年(1993年)から始まっていたJリーグの試合を、この頃に初めて見ました。当時、浦屋レッドダイヤモンズをスポンサードしていたコンパックというパソコンメーカー経由でチケットが回ってきたようで、行くと国立競技場は満杯で、相手が鹿島アントラーズだったことを考えても相当な熱気が漂っていたことを覚えています。


 前半はアントラーズペースだったようですが、両チーム無得点のまま後半へ。そこで得たフリーキックの大チャンスを小野伸二選手が決め、そのまま良い攻めの形を作るレッズに対してアントラーズも柳沢がチャンスを作りますが決められずレッズが勝利。「アントラーズをレッズが珍しく粉砕する」と書いたのは、2シーズン制だったこの年の前期にレッズは3勝しかしておらず、そのうちの1勝だったからでそうか。そして後半も4勝しかできずレッズはJ2に降格。そんな戦力での良い戦いを見見ました。この頃の小野選手は19歳で39歳の今も現役。こちらも枯れてる場合ではなさそうです。


平成11年(1999年)5月のダイジェスト、下編でした。

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