第53話、プレイステーションの後継機が分かりフロリダのシンデレラ城で日本人カップルが挙式し英語版『うる星やつら2』のDVDを購入する

【平成11年(1999年)3月の巻】


 ソニー・コンピュータエンタテインメント(今のソニー・インタラクティブエンタテインメント)による「プレイステーション」の後継機を示すミーティングが開かれたようです。


 当時、日本経済新聞あたりがそのままずばり、「プレイステーション2」と書いていたようですが、わたし個人は当たり前過ぎてかっこ悪いと思っていました。でもここで「プレイステーション・ギャラクシー」とか付けていたら、「プレイステーション4」が「プレイステーション・ユニバース」になっていたかもしれないと考えると、順当で良かったのではないかと改めて思います。


 プレイステーションの後継機ですが、高度なグラフィック・ワークステーションですら太刀打ちできないくらいの性能を持ったCPUが描き出す、リアルタイムに演算されているらしい複雑な動きをする3DCGの数々に感嘆したようです。「1万枚もの羽根が飛び回る映像しかり、金平糖のようなイガイガの物体が動き回る映像しかり、『ドラゴン』みたいな据え置き型の花火から発した火花が中空から地面へと落ちてそこでも跳ねる映像しかり。ここまでやって頂かなくたって曇った眼は納得しますよと、謝りたくないくらいの凄みを見せて場内を感嘆ならしめていた」。とてつもない誉めようです。


 プレイステーション4やプレイステーション3の性能を見た今の目からは、プレイステーション2がそれほど凄かったとは思えないのですが、少なくとも「ドリームキャスト」は経ている目にすら凄いと思わせたのだから、ある意味勝負は決まっていたのかもしれません。


 プレイステーション2の場合、ただ描画の綺麗さを追求しただけではなく、「エモーション・シンセシス(情緒合成)」なる言葉で風とか並とか光とかをリアルタイムに合成して表現させた映像が、情緒までをも含めて再現されているといった話がありました。本当だったかは覚えていませんが、花火の火花の動きなど、従来の計算されました描画されました的なぎこちなさとは無縁に見えました。


 クリエイターの表現力次第でリアルさを上回るリアルな映像がリアルタイムで動かせるという、スクウェアの坂口博信が映画版『ファイナルファンタジー』の発表会で言っていた夢のような話を現実のものになできそうなマシンだとは感じたようです。


 そんな、ソニーにとって歴史的な発表が発表があった同じ月に、ソニー・ミュージックエンタテインメントがソニーに吸収合併されるという、これも大きな話が出回りました。そこで記者会見を見に行くと、ソニー・コンピュータエンタテインメントをグループでも柱の事業と位置づけ、自らの直轄に置きつつ、設立に深く関わったソニー・ミュージックエンタテインメントは本体の100%子会社にする、というものでした。


 これは、傍目にはソニー・コンピュータエンタテインメントへの影響力をなくそうといったものに見えました。先の次世代プレイステーション発表会見の時、ソニーから出井伸之社長に加えて大賀典雄会長までは出席して挨拶をした意味から考えるなら、ソニーにとってソニー・コンピュータエンタテインメントはそれだけの価値を持った会社だったという事になります。


 今のソニーが平井一夫会長というソニー・コンピュータエンタテインメント出身の人に率いられ、収益もそちらから出ていることを見越していたと考えるなら当然の施策でした。ただ、当時はプレイステーション2がまだ出ず、プレイステーション3の停滞も見えない時期。それでも、ゲーム事業に何かを見いだしたのなら先見ですし、同時に博打でした。それ以前に本体が弱りに弱って、吸収せざるを得なかっただけかもしれませんが。


 当然、不満も出たでしょう。大賀会長は「合併される方は不満だろね。出ていく人がいるかもしれない」とまで言ったようです。再生を期待されて復活したソニー・ミュージックエンタテインメントの丸山茂雄社長は、そんな会見にもコム・デ・ギャルソン・オム・ドゥのジャケットと黒いポロ襟のシャツ、そしてトレードマークのジーンズを穿いて登場しました。心中はいかがだったでしょう。後、独立して事業を始めたのもそうしたことが遠因にあったのかもしれません。


 この月、人生で5度目でそして最後の海外旅行となるフロリダ行きがありました。オーランドにある「ウォルト・ディズニー・ワールド」のシンデレラ城前で、日本人カップルが人類史上初めて「マジックキングダム」を貸し切って結婚式を開くというイベントがあって、その取材ツアーに紛れ込んだのです。


 行きの飛行機は『ムーラン』の日本語版をそこの鑑賞。「表情しぐさにあてられた声の印象ではにかむ恥ずかしがる怒る泣く、といった感情が表にちゃんと見えていて、そこのとこだけさすがディズニーとの感を抱いたそうです。


 さて、「マジックキングダム」での挙式ですが、普通に挙式するだけならそういった会場が既に作られていて、日本人カップルもたくさん式を挙げていました。ただ、全園を貸し切っての挙式は初めてで、オープンの最中はとても行えないから閉園後の誰もいない園内を使うことになったそうです。


 かかる費用も当然のことながらウン100万円はするのですが、それをやってしまったのが仙台かどこかで教師をしていいた青年と、その奥さんになる22歳の女性だったから驚きました。日本で挙式すれば呼ぶだろう親戚も友人も日本に置いて、2人ではるばるフロリダまで来たそうです。発端は奥さんの方で、高校の時に冗談で友達に「わたし結婚式はディズニーランドを借り切って挙げるの」と言っていたとか。それを実現させてしまったのだから人間、執念は大事です。


 式の方は、エントランスにストレッチのリムジンで新郎新婦が乗り付け、まずは駅の上のバルコニーから電飾がバリバリと走り回るパレードを見学。そして電車に乗ってトゥーンタウンへと向かい、そこからはオープンカーでシンデレラ城の下へと向かって花火を見学、しばらくの休憩の後にお城の下にある芝生の丘に特設ステージを作っての結婚式が始まりました。シンデレラ姫とプリンスチャーミングが登場し、シンデレラ城内でダンスを踊りケーキをカットしてからミッキー&ミニーが登場。ここで堅かった花嫁の顔が一気にほころんで、心底からのディズニーファンぶりを伺わせたようです。


 翌朝、カップルが取材に応じて、挙式費用は最初ということで宣伝も兼ねてのことだったので、予定していた額よりは100万円は安くあがったとのこと。それでも当時で350万円から380万円は必要で、これに費用や衣装を入れて500万円はかかったみたいでした。とは言え、日本で100人を披露宴に集めてホテルで盛大に式を挙げても結構かかるもの。ご祝儀で埋めてトントンにするなら、やりたいことをやった方が良かったと言えるのかもしれません。


 挙式の取材以外では、「アニマルキングダム」にオープンしたアジアゾーンの見学もしたそうです。アジアとは言いながらも日本や韓国や中国はなく、だいたいが東南アジアやインドあたりのイメージをまぜこぜにして作ってあったようで、そして「リトルワールド」的な民族学的厳密さ、あるいはディズニー・ワールドの「エプコットセンター」にあるそれぞれの国のパビリオンが見せているようなお国柄的正確さとは違った、それなりにアジアっぽさを見せて楽しんでもらうエンターテインメントが伺えました。正しいのが見たければ博物館に行けばいい、ここは楽しむところだという割り切りでしょうか。とは言え、昨今は文化の剽窃がいろいろ批判のネタになりがちです。もしかしたらアジアゾーンも「リトルワールド」と貸しているのかもしれません。


 フロリダではヴァージンメガストアに入ってANIMEの棚をのぞきました。『シャドウスキル』とか『バトルアスリーテス大運動会』とか『新・天地無用』とかが並んでいたようです。『イリア』や『幻魔大戦』もあった中に、リージョンフリーのDVDで『うる星やつら2 ビューティフルドリーマー』が30ドル以下で並んでいたので買ったとか。このあたり、記憶が飛んでいて家にそんなものがあったのか、さっぱり覚えていません。英語で喋るラムちゃんってどんな感じだったんだろう。今さらながらに気になります。


 この月は、多田かおるが亡くなりました。脳内出血だったそうで、38歳の死去は若すぎるといって余りあるほど。なおかつ現役もバリバリ第1線の漫画家の死去で、先だってのみず谷なおきや、その前のねこぢるをも上回るインパクトでした。『愛してナイト』に『イタズラなkiss』に『デボラがライバル』とヒット作が目白押し。だからこそ話題になり、こうして日記にも書き留めました。


 当時は死因は明らかにされても原因は分からなかったのが、後にもぐった格好でふと上げた頭がテーブルに当り、それが脳内出血につながったことが明らかにされました。偶然の重なりが読んだ死因で、聞くとなおいっそうの残念さが募ります。存命ならまだ60歳前。作品の種類も幅も広がっていたことでしょう。没後30年余の今に改めてご冥福をお祈りしたく思います。


平成11年(1999年)3月のダイジェストでした。

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