第51話、髭ガンダムが姿を現し富野総監督は馴れると話し紀之真弓にぞっこんで出版エージェントのボイルドエッグズが立ち上がりみず谷なおきの訃報に接する

【平成11年(1999年)2月の巻・上】


 4月の放送開始を前に、新作のガンダムが「∀ガンダム(ターンエーガンダム)」としてアニメ誌にその姿を現し始めたようです。そして「世間を怒号と戦慄の渦に叩き込んでい」たようです。


 シド・ミードがデザインした新ガンダムのボールかヘルメットのような丸い頭に、円形の胸当てが付いたそれはヨーロッパスタイルにも見え、口から両側に伸びたアンテナがまるでカイゼル髭のように見えて、一部愛好家の間から「髭ガンダム」「あの髭のモビルスーツ」といった愛称が飛び出し、苦笑とも失笑ともつかない雰囲気を醸し出しました。


 安田朗のキャラについては、「ロラン・アセックは男の子なのにちょい可愛い。キエルとソシエの姉妹は目の色が違うが何かあるのか? 大草原の小さな家的なアメリカ中西部風の衣装で舞台もアメリアっていう土地の穀倉地帯とあるから多分、実にカントリーでワイルドなストーリーの中で少年の成長と恋の物語が展開されるんだろうと勝手に思う」と書いてます。


 「放映日とかはどうせアニメの枠が多い水曜日とか土曜日とかになるんだろうけれど、ネイティブでローカルなテイストあふれるキャラなんだから個々は再びカルピスさんにスポンサーになってもらって、日曜夜の7時半とかにやっちゃって戴いた方が落ちつきそーな気がするなあ」とも書いていますが、これは大間違いでした。何と東京では金曜日の午後4時55分からだったのです。


 2月16日に、本当の製作発表があって、そこで富野由悠季総監督も出席していろいろと発表されました。『伝説巨神イデオン』が名古屋地方で放映された時の東海テレビの放映時間に近く、エンディングが歌無しになって訳の解らないままお話自体も終わってしまった苦い経験を思い出しました。せめてあと30分は繰り下げて欲しかったと関係者の人がぼやいていたのも分かります。この時間帯だけは今もってよく分かりません。


 それでも意気軒昂だった富野由悠季総監督は、銀座東武ホテルの会見場にテンションMAXで現れては、他の人が挨拶している間にカメラに向かってVサインの上に1本指を横切らせる逆A、すなわち「∀(ターンエー)」のサインを見せたりしていました。その富野由悠季総監督。賛否両論渦巻く髭のモビルスーツについて、監督自身の印象をどこかのアニメ雑誌の編集長らしい人が聞きましたが、そこは「今聞いている限りネットでは袋叩きにあっているけど、僕も1年前は同感だった」と答えてくれました。


 その後で、「1年見て慣れたってこともあって、実際にセルにして動かしてみるとかなり良いキャラだと思えるようになった」とフォローの言葉。続けて「シド・ミードだけじゃなく大河原邦男のガンダムが出て来るようになるかもしれない」とも発言しつつ、「評判が悪いからシドミードを引っ込めて、大河原だガンダムを出すなんてあからさまな書き方をしないでね」と釘を指すあたりに、作品の展開に既に含むところがあったようです。


 安田朗のキャラについては、富野総監督は安田朗を「目の前で色紙に1枚絵を描いてもらった時に今日までのことが決定した。安田は凄い」と手放して誉めていました。加えて、「シド・ミードのデザインは工業化社会の行き着いた先をシンボライズしたもの。それを安田のキャラでねじ伏せる」と言い切ったあたりに、メカよりも物語を重視したいような意識が伺えました。


 「髭のモビルスーツを嫌がる人でも、セルになって動いたときにはそれほど目立たない違和感と、加えてアーリーアメリカンなキャラクターがおりなす回帰のドラマにズッポリとはまっちゃう事だろう。希望として」とウエブ日記には書きましたが、だいたいそんな感じで進みました。オープニングについては、作詞が富野総監督なのはともかく、作曲が小林亜星と聞いて、滑りそうな予感もしました。


 ビデオメッセージで小林亜星は、「ベートーベンの第9の合唱に匹敵するような音楽にしたい」と言っていました。その結果は……西城秀樹の歌唱が載ってある意味でモビルスーツのデザインともども、歴史に残るオープニングとなりました。意外が重なると偉大になる。そんなところでしょうか。


 この頃、『青の6号』に登場する紀之真弓が大好きだったようです。アニメ誌の「AX」に掲載されたピンナップが、折り畳まれて中央部分に閉じられていて、伸ばすと添い寝も可能な長身にクラリと来て、そして半開きの胸元からのぞく肌色の膨らみになだらかなヒップライン、柔らかそーなYゾーンに顔を埋めたくなったと書いています。ブロッコリーが抱き枕にしてくれないかとも。出たのでしょうか。


 「月刊アニメージュ」にも体育座りの紀之真弓が登場していたそうで、このまま一気にアニメ界のナンバーワンヒロインになるかと思ったのですが、今その姿を覚えている人がどれだけいるでしょう。ワンダーフェスティバルでも紀之真弓のガレージキットがディーラーから出ていて、グランパスを操縦するスーツ姿で前のジッパーが開いていて、プニプニした胸が半分だけ見えているものだったそうです。終了間際には5000円まで値が下がっていたのですが、当時は作れもしないものをと見逃してしまいました。惜しい気がしています。

 

 この時期、後に三浦しをん、滝本竜彦、万城目学らを輩出する出版エージェントのボイルドエッグズに取材に行きました。外国人の作家だったら誰もが使っている、作品を出版社に売り込んで作家のために最大の利益を生み出せるよう活躍するエージェントという仕事を、日本でも始めてみたほとんど初期の会社です。手始めとして作品の募集をホームページでの告知を通してスタートさせていて、すでに何件かの持ち込みが始まっているとのことでした。


 持ち込まれた原稿を検討・登録するための費用を1万円、しっかりと徴収していたことが気になりました。オーディションと称して試験料とかを集めるわりには誰も合格者を出さない俳優学校、といった商法があったりする中、疑われないかといった心配もありましたが、プロが適切な評価を加え、良ければ出版社に売り込んでくれるのですから、相手の労力に見合った投資だったと思うに至りました。


 いたずらに山と作品を送りつけられるのを止め、費用が発生することで責任と自信を抱ける作品を送ってもらうという意識もあったようです。後に文学賞を立ち上げた時も、エントリー料を取る手法を崩さずにやって来たボイルドエッグズから最近は、15歳で書いたミステリーが登場し、人気となっています。坪田侑也『探偵はひとりぼっちじゃない』(KADOKAWA)。お勧めです。


 

 『ファービー』が売り出されて、銀座の博品館まで見に行ったようです。置いておくといろいろ喋って動くぬいぐるみで、決して可愛くないのに妙な愛嬌で人気となりました。聞くと耳がピンクで腹もピンクの「ファービー」が全米で人気とか。せっかくなので並んでひとつ、買い求めましたがその後、あまりにやかましいので電池を抜いて頬っておいたらいつか本の下で潰れてしまいました。そういうことって、あるよね?


 マンガ家のみず谷なおきが亡くなったという報に接して愕然としたようです。『さすがの猿飛』を読みたくて買ってハマった「増刊少年サンデー」に、新人がときどき描く短編「ズーム・イン!」を引っ提げてデビューしたのが82年ごろでしたか。『県立地球防衛軍』とか『ファントム無頼』とかいろいろな名作傑作が山と連載されていて、ゆうきまさみら今に繋がるマンガ家さんもそこから大勢登場した雑誌にあって、デビュー当時から飛び抜けて画力もあればお話も面白く、人気者になるだろうと思いました。


 後に連載された『人類ネコ科』や『ブラッディエンジェル』など、美少女いっぱいなラブコメ路線の旗手の1人として、期待もあったし事実大勢ファンもいたのですが、やがて活動が見えなくなり、地元でパチンコやパチスロの映像向けにキャラクターデザインなどもしているといった話が伝わってきました。新作も書いていたようで、これからといったところでの訃報。現在、電子版が出ているようなので読んでその先駆者ぶりを確かめて欲しいと思います。


長くなりましたのでこの月は上下で。


平成11年(1999年)2月のダイジェスト・上編でした。

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