第48話、ドリームキャストが発売され買って『ペンペン』『バーチャ』を遊び角川書店上場で歴彦社長に話しかけられ『クジラの跳躍』に感動しシナジー幾何学が飛んだ

【平成10年(1998年)11月の巻・下】


 セガは倒れたままじゃない。


 そんなファンの思いを一身に背負って、家庭用ゲーム機の「ドリームキャスト」が平成10年(1998年)11月27日に発売されました。当然、取材ということで午前6時に家を出て、秋葉原へと向かって行列が出来ていないかを見て回りました。


 今はもうないラオックスのゲーム館は、並んではいても100人に届かない人数といったあたり。一方、取材ポイントになっていたメッセサンオー前はとてつもない人がいて、やっぱり人気なんだと思い近寄ったら大半がカメラマンにリポーターに新聞記者に雑誌編集者といった風体のおっさん姉ちゃんたちでした。自分もそんなひとりでしたが。


 行列自体も結構伸びていて、中央通りを末広町の交差点方面へと続いていましたが、聞くと同じくこの日に発売になった「センチメンタルなんとか」なパソコン用ソフトを求める人たちも同じ行列に並ばせていたそうです。ドリームキャストの客だと思ってテレビ局がマイクを突きつけ「ドリキャスどうですか」と尋ねて「何ですかそれ?」と返された事例も、もしかしたらあったかもしれません。


 そうこうしているうちにイリさんこと入交昭一郎社長が登場して、カメラに囲まれてインタビューを受け、行列を視察し握手をしたりして発売をアピールしていました。店頭では着々と開店への準備が進み、シャッターが開いてテーブルが置かれ後ろにはオレンジ色の箱が山積みに。そして午前7時30分過ぎになり、全国のどこよりも早いドリームキャストの販売が始まって、前夜から並んだという23歳の男子学生が真っ先にテーブルへと歩み寄って第1号のドリームキャストをゲット。湯川専務の顔も鮮やかな「DC」の箱を高々を掲げて全国にその顔をさらしていました。


 男子学生は入交社長とも固い握手を交わしてセガ万歳を全世界に向かって訴えていました。これで次の年に出ると言われている「プレイステーション」後継機発売時にも、メッセサンオー前で1番とっていたりしたら面白かったのですが、それは流石になかったようです。


 さて、メッセサンオーから異動すると、ラオックス前で今度は湯川専務が眼鏡なしでオレンジ色の法被を来て「ドリームキャストいがかっすかー」と呼びかけていたようです。いかにもテレビ向けの演出。経営的には社長ですが一般受けはCMで名前が知られた湯川専務の方が圧倒的に波及効果がありますから。


 もっとも、20分もすると行列がなくなってしまって、テレビカメラの放列も雲散霧消したのには呆気にとられました。それ以上に驚いたのは、早朝だけですべて品切れとならなかったこと。聞くと整理券は180番くらいで「まだ買えます十分にあります」との事だったので、そのままラオックスで本体とメモリと『ペンペントライアイスロン』を買って、ついでに「湯川専務ストラップ」ももらって秋葉原を後にしました。


 そして会社でパッケージから出してテレビにつないで、さっそく買ってきた『ペンペン』を試したのですが、スピーディなレースを期待していた目に映ったのはスティックを倒してもボタンを押しても一向に激しく走ったり滑ったりしようとはしない鈍なペンギンの姿。左右とか上下にグラグラとゆれる画面にも当てられて、コントローラーを投げ出してしまいました。以来、封印してしまった『ペンペン』ですが、今、どういった評価を受けているのか気になるところです。


 さすがにこれではドリームキャストの神髄は理解できないと、秋葉原にとって返して『バーチャファイター3tb』を買ったようです。午後も2時になればたいていの店で売り切れになっていました。聞くと再びな入荷は週明け以降でも未定だとのこと。買えて幸運だったと言えます。そしてプレイをした『バーチャ』はやっぱりアーケードの『バーチャ』でした。乳は揺れませんでしたが。


 そんな『バーチャ』に同梱されていたらしい「プロジェクトバークレー」と書いてあるROMディスクを突っ込んで中を見ると、ゲーセンの神様こと鈴木裕さんがインタビューに答えている映像が出て来ました。社員のスタア化によって雰囲気を盛り上げようとする雰囲気が当時はあったのでしょうか。社長に専務にクリエーターと一般受けする人材を持つ方が、マスメディアの関心を集めやすいことは事実ですから。


 さてその「プロジェクトバークレー」こと『シェンムー(莎木)』では、3次元CGで描かれた女の子が活躍するムービーが登場していて、「確かに優れた絵かもしれないけれど色気って点で『FF8』のリノア・ハーティリーちゃんにちょっち負けてる」といった感想を抱いたようです。あと、「おまけディスクに多数登場する原画のマンガっぽいキャラクターの雰囲気が、3次元CGになった途端に霧消してしまうのは問題」とも。2次元と3次元、アニメとCGの越えられない壁がまだあったみたいです。


 そんな『シェンムー』が世に出て何を引き起こし、そして今に至っているかも以前に書きました。当時はまさか、令和に続くゲームになるとは思わなかったなあ。それは多々あるゲームにアニメに小説でも同じことですが。『E.G.コンバット final』はいつ出るのでしょう。待ってます。


 浅草のアサヒビールが建つ横にあるホールで、バンダイが「ワンダースワン」の業者向け説明会を開いたそうです。『チョコボの不思議なダンジョン』に『電車でGO!』に『信長の野望』と家庭用ゲーム機でお馴染みのタイトルがワンダースワン向けになっていました。個人的には『信長の野望』が真面目に『信長の野望』だったことに驚いたようです。


 「『チョコボ』は実はよく解らない。RPGなんだろうけど動きが目まぐるしい訳でもないし、グラフィックも美麗な訳でなく、わざわざ携帯型ゲームでやる意味がいまいち掴めない」と書きましたが、後、アメリカに行ったときに飛行機の中で延々、プレイしていたことを思うと、時間を過ごすのに最適のゲームであり、電池が保つという意味で最高の携帯型ゲーム機だったと言えそうです。


 1番ハマってしまったのが、横井軍平が開発に携わったことからその名が冠された『GUN PEY』でした。横に5つで縦に10個くらい並んだブロックの下から、準に斜めやら鍵型やらに線の描かれたブロックが現れて段々と上に上がって行く、その線を右から左へと繋げられれば線が消え、つなげられずに上まで到達してしまうとペナルティという簡単なルールのパズルです。


 やってみるとこれがなかなかに面白く、簡単なようでいて難しい。油断すると線がニョニョニョっと上まで行ってしまい、慌てて他のブロックを上へとずらして線を繋げて消して、再び下へととって返して出てくる線がうまく繋がるかを待っている、そんな繰り返しが知らず10分、30分、1時間を奪ってしまいます。


 ムキになって1時間程度を費やし、21万7000点まで行ったところで時間切れ。わたしがここまでのめり込めたパズルゲームは他にあったでしょうか。ワンダースワンをタテにして持つ上でベストなゲームでしたが、ハードの消滅とともにやはり消えてしまっている感じです。今もどこかで遊べるのでしょうか。タテ型ディスプレーのスマホにぴったりのゲームだと思うのですが。


 角川書店が東京証券取引所に上場したそうで、会見を見に行ったようです。同族経営が多い出版社としては珍しかった株式の公開。登場した角川歴彦社長は、「社長に復帰してからトップダウンにしろボトムアップにしろ、民主的に運営される会社にしようとやって来たし、そういった結果がディスクローズになるのなら、資本市場にもディスクローズしようと言うことで今回の上場になった」と話して、透明性は保たれていることを訴えていました。


 会見ではずっと黙っていたわたしに、会見後に角川歴彦社長から「何で質問しないのよ」と声がかかりました。いろいろな場所に出没して姿を見せていたので、個体認識されていたのでしょう。その時の縁故が今も続いていたら、いろいろとお世話をして頂きたいなあと思うのですが、もうすっかり忘れられているようで、すれ違っても見向きもされません。早い時代に早く手を打っておけば良かったかなあと思いますが、それでどうにかなっても才能が付いていかなかったでしょう。分相応という言葉を今は噛みしめるばかりです。


 今はもうない銀座テアトル西友で『クジラの跳躍』という映画を視ました。たむらしげるの原作絵本をたむらしげるが監督を務めてアニメーション映画化したものです。CD-ROMタイトルなどをつくっていた愛があれば大丈夫という会社が制作しました。


 「ごくごく普通に海を渡っている豪華客船からクジラの跳躍を見ようとしていた人たちがいたと思ったら、次の瞬間時間はゆっくりとした動きになり、波立つ海はガラスのよーに硬化して、その上を黒猫を連れた老人が歩いてガラスの海を割って小魚を取り出し、中空に止まっている飛び魚を捕まえては日々の糧としている様が描かれる。やがて海が膨らみかけた場面へと出くわし、クジラの跳躍を見てとってそこにしばし止まって、半日をかけてクジラがガラスの海から抜け出て中空へと浮かび上がり、やがて再びガラスの海へととけ込んでいく様を、老人以外にも友人の画家や若いカップルやほか様々な人々が見学している」。そんな内容の映画です。


 「クジラが海へと潜った後で、老人はかつて自分が乗っていた船の名前を思い出し、それを聞いた画家はその船がかつて荒波を滑り落ちていった様を目撃した事を思い出す。つまり。ということで静寂に満ちたガラスの海の世界に覚える憧憬は、そこでしか『生き』られない老人や猫や画家ら、跳躍するクジラを半日かけて見た人々への止め置かれることへの哀しみと対になって、見る者に『生』の熱い苦しさと、『死』の冷たい安らぎの意味を問う」


 深遠そうな内容です。たむらしげるの絵を2Dでアニメ化しつつ、ガラス化した海を3DCGで描きかつ跳躍するクジラをぐるりと回り込んで映したりするカメラワークを実現したりと、相当に高度なデジタルの技術が使われていながら、見ている者に「すっげーCG!」とか感じさせないあたりに奥ゆかしさを覚えました。ガラス化した海の上に立つキャラクターの影がちゃんとガラス化した海に映り込み、キャラクターの動きとともに影もちゃんと動いていたのに驚いたようです。劇場で視てこそクジラの跳躍ぶりを味わえる映画だけに、また劇場で見たいものです。


 高田馬場のマルチメディアの会社が飛びました。シナジー幾何学です。合弁の流通会社を作っていたツクダに連絡を取ると、春に9割方の株式を取得し10月には全株を取得して完全子会社化していたそうで、前段として動きはあったようでした。せっかくだからと夜になって直に事務所まで行くと、「解散しました」の張り紙が出ていて、会社はすでにして機能していないように見えました。


 CD-ROMでありマルチメディアの一時代を築いた会社が、突然のように消えてしまったことに残念さを覚えました。ハリウッドの有名監督を起用したインタラクティブソフトしかり、また世界的なクリエーターとなった人に作らせていたはずの前作を上回る水面下世界を舞台にしたインタラクティブムービーしかり。面白そうなプロジェクトが目白押しでしたが、それらも潰えたようです。


 『GADGET』などマルチメディアグランプリを獲得したCD-ROMタイトルも多く出していましたが、今となってはどうすれば見られるのか。映画ならパッケージなりフィルムとして残っても、ハードに依存するCD-ROMという表現形式の儚さを、改めて噛みしめています。


平成10年(1998年)11月のダイジェスト・下編でした。

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