第47話、映画『ファイナルファンタジー』が発表されガイナックスがサバイバーショットの大会を開き別件でニュースになり大張正己が『VIRUS』への無関心を嘆く

【平成10年(1998年)11月の巻・上】


 いろいろな人やモノの運命が、ここから変わったかもしれないと言えそうな発表会が、平成10年(1998年)11月4日に開かれました。映画『ファイナルファンタジー』です。会場のパークハイアット東京(今のパークハイアット新宿)には結構な数の人が集まっていたようで、相当に注目されていことを今に教えてくれます。


 発表会ではまず、プロデューサーの坂井昭夫から資金や技術のすべてにゴーサインが出せる時がようやく到来したことで、ずっと噂には上っていた映画の発表会が行えた、といった話が出ました。スタッフはもちろん「ファイナルファンタジー」シリーズの生みの親、坂口博信が監督で、脚本は『アポロ13』を手がけたアル・ライナー。アニメーションの界隈で噂が出ていたスーパーアニメーター、金田伊巧の名前もしっかりと入っていて、何をしでかしてくれるのかと、『銀河鉄道999』なり『幻魔大戦』の頃からその名を知るファンをワクワクさせました。


 それが結果として良かったのか違ったのか。映画『ファイナルファンタジー』での仕事をきっかけに、スクウェアからスクウェア・エニックスとなった会社に所属して、ゲームのオープニングやモーションの仕事に携わります。それがゲームのクオリティ向上に役立った一方で、アニメーションの世界での活躍に触れられなくなった寂しさも浮かぶところです。とは言え、それがご本人の選ばれた道なら、そこに見いだされた何かがあったのでしょう。


 さて、映画『ファイナルファンタジー』ですが、お話の方はゲームの「ファイナルファンタジー」シリーズとは繋がって織らず、キャラクターも借りずにまったくの新作となっていました。それでも「ファイナルファンタジー」シリーズだと分かるのは、生みの親である坂口博信が母親の死をきっかけに抱いた死生観であり、人間の存在意義といったものが底に流れているからだ、といった説明がされたようです。


 そうした“思想”の上に乗る映像が、また凄かったようです。実写に遜色のないリアルな顔の映像のオンパレード。「目玉の動きなんかに今までのCG映像ではあまり見られなかったくらいの生々しさが感じられて驚いた」ようで、「だったら実写で作ればいーじゃんと思うのが昔ながらの映画ファンの人情」だとも思いましたが、いずれインタラクティブの時代が来た時に、より感情移入できる対象としてCGであってもリアルな人物たちを動かしたい、そのための投資だといった考え方もあったようで、それならオーバースペック気味な映像にも意味があると思いました。実際、そうした側面はあった訳ですから、映画を無駄だったと切って捨てることはなかなかできません。


 とはいえ、当時の判断は「保留」でした。紹介された映像が顔だけで、モーションの部分は不明だったことと、そしてお話が不明だったこと。「映画は別にビジュアルのインパクトのみで驚かせるために作るんじゃなく、お話でもって観客に感動を与えるために作るもの」。そういった思いが当時もありましたし、今もあります。映画『ファイナルファンタジー』を配給したGAGAが配給したフル3DCGアニメーション『VISITOR』が好きなのも、お話の良さがあって、「そのお話をビジュアル化する時に資金的時間的に可能な方法として選んだのがあのCGだっという理由の割り切り方」があったからです。


 2001年に映画『ファイナルファンタジー』が公開された時、いったい何を思ったかは、映画を見た人なら感じるところがあるでしょう。この為に使われたお金とそして縛られた人材で何が出来たか。スクウェアという会社がスクウェア・エニックスになる必要はあったか。「ファイナルファンタジー」シリーズに坂口博信は関わり続けていたか。その結果シリーズはどこへ向かっていたか。


 それが、運命がいろいろと変わった発表だったという意味です。そして、今という現実があるのです。悪かったのか良かったのかを今さら言っても変えられない現実なら、そこを基点に新しく運命を切り拓いていくしかないのだと、振り返って途方に暮れる自分を鼓舞します。


 ガイナックス尽くしだった月みたいです。京成本線のそばにあった巨大迷路へと出かけていって、そこで「第3回サバイバーショット世界大会」というものを見物しました。サバイバーショットとはトミーが出していた一種の光線銃で、赤外線か何かが発射されて、それを受けると身につけていた装置が反応して撃たれたかが分かる玩具です。


 そのサバイバーショットに入れ込んでいたガイナックスが主催して開いたのがこの大会。遠く東葛の地には男女あわせて300人近くが集合し、季節外れに温かかった天気の中で、バトルを繰り広げたようでした。


 当日は、のーてんきの衣装ではなく迷彩服にサングラスにベレー帽という出で立ちで、当時の武田康廣統括本部長がルール説明を行い、そこから6人1チームが3組集まって1つのグループを形成し、同じ18人のチームと闘うというレギュレーションで大会が始まりました。「


 角に隠れて相手が角を曲がって来る、あるいは壁を隔てて敵が迫って来る跫音(あしおと)に耳そばだてる戦闘は、向こう側にいる相手が味方か敵かを識別する苦労も加わってドキドキな時間をプレイヤーに与えてくれたに違いない。15分も走り回って別の意味で心臓ドキドキだったかもしれない」。割とハードだったようです。


 ルーズソックスにミニスカで茶髪色黒な「コギャル軍団」がいて、「トップをねらえコスプレ2人組」がいて「CCさくらバトルコスチューム&CCさくら友枝制服&ルリルリ&よく解らないけど制服風コスプレ」もいたりと、見かけも華やかだった大会を傍目で眺めて楽しんだひととき。そんな会場で売られていた『サバイバーショットGAINAXバージョン』には、「サバイバーショットは熱い漢の魂」と筆文字も鮮やかに書かれた武田本部長のチラシといっしょに、プラグスーツな綾波レイが「サバイバーショット」を手にして寝そべった絵柄のテレホンカード(原画・鈴木俊二)が入っていました。


 サバイバーショット本体も、紙箱のパッケージの上をテレカと同じ綾波レイのイラストにミサトとプラグスーツ姿のアスカが、「サバイバーショット」を構えたイラストが描かれたカバーが覆っていて、相当なお宝感がありました。銃本体にも通し番号がマスキングした上からスプレーで吹かれて打たれていました。『新世紀エヴァンゲリオン』全盛だった時代だったら、どれくらいのプレミアムがついたのか、想像してしまいますが今だと果たしてどれくらい、とも考えてしまいます。手元に1台、あったりするので。もちろん売りませんが。


 それが11月8日で、そこから1週間も経たない11月12日にガイナックスがNHKのニュースに登場しました。もちろんサバイバーショットの世界大会を開いた話ではありません。例のアレの件ですね。話自体はずっと以前から流れていたもので、ササツといった言葉とともに語られていたものが、オープンになったということです。


 「広報側のコメントによればすでに修正申告も済ませているとあるから、故に意図的なのか不可抗力的なものなのかを判断する材料はとりあえずなく、クリエイティブな会社にありがちな、経理とかに疎かった事が禍しただけなのかもしれない」と、信者めいたことも書いていますが、NHKが報じた以上は、社会的な反響も大きいだろうとDVDや劇場版のLD-BOXがどうなるかをレコード会社に尋ねたら、「今知りました」と言われ対応も「これから考えます」とのこと。結果として普通にリリースされましたから、騒動の波及も自粛もなかったようです。


 『彼氏彼女の事情』を放送しているテレビ局にも尋ねたら、事件は会社としての問題であって作品とは関係ないから当面は影響ない、といったコメントが帰って来てホッとしました。その通りなのですが、今はそうもいかない空気が世間に溢れています。


 炎上から類焼を恐れるあまりに関係性を一端遮断して鎮火させようとします。折りしもとあるアニメーション制作会社で似たような事態が発生中。これがNHKのニュースで報じられ、朝日新聞に書かれた時にどこまで類焼するかで、20余年前と今とのネット状況、あるいは人心の変化といったものが推し量れそうです。


 せっかくなので中央線を乗り継いで三鷹まで行き、統括本部のあるビルまで行ったようですが、ひっそりとして静かなものでした。帰りがけに駅前にあるビルの本屋で『大張正己作品集』を買って帰って、全編を彩る大張テイストあふれたイラストの数々に落ち込み欠けた気持ちを奮い立たせたそうです。「圧倒的な胸、胸、胸そして尻、尻、尻さらに太股股間のド迫力。奮い立たされるのはどーやら別の所も一緒みたい」。精神的に参っている今にこそ欲しい1冊ですが、どこに閉まったかなあ。


 そんな作品集で、大張正己が「俺が考えるカッコいい要素をこだわってぶちこんで作った『VIRUS』が、思ったような評価を受けている気がしていないからなんですけどね(笑)。もっと取りあげられて然るべきだと思っているんだけど。今のままじゃ、『じゃあ、俺、何やったの? 無駄じゃん』みたいな感じをどうしてもぬぐい去ることができなくて」と言っていたそうで、ウエブ日記にはそんな事は無い、自分はLDも揃えたしトレーディングカードもコンプリートしたと訴えています。


 ただ、やはり今となっていは覚えている人も少なく、映像を見られる場もありません。無駄になってしまったのか。そうではないことを今この時代にパッケージの復活によって示して欲しいのですが……。


 徳間書店から「GAZO」という新雑誌が出たそうです。特集が『踊る大走査線』で脚本家の君塚良一へのインタビューがあったり、ディレクターの本広克行と押井守との対談があったりしたようでした。デジタルエンジンにある押井監督の机の写真が載っていて、脇の本棚に京極夏彦のシリーズが当時出ていた分、だいたい並んでいて読み込んでいると感じたようです。読み込みすぎて作業が進まなかったとは微塵も思ってないところがオシイストといった感じでしょうか。


 ガイナックスと縁のある人の声がけで、静岡県にも出向いたようですが、長くなりましたのでこの辺で終わり、あとは下編へ。


平成10年(1998年)11月のダイジェスト・上編でした。

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