第31話、星新一と石ノ森章太郎が逝き松竹の奥山父子とセガの中山隼雄が退きゲームの違法中古ソフト撲滅キャンペーンが立ち上がる

【平成10年(1998年)1月の巻・上】


 星新一。小松左京。筒井康隆。


 よく、SF御三家と言われるこの3人で誰が1番好きかと問われても、ショートショートの奇想に感激の星、社会性や科学性を持った巨大なスケールに驚嘆の小松、そして世界を捻るブラックユーモアに笑う筒井と、それぞれの特徴を挙げて誰でも大好き(DD)と言って返すのが精いっぱいです。SF好きとしては。


 ただ、最初にハマったのは誰かと問われると、星新一になるでしょうか。「新潮文庫の100冊」というものが始まって、その初期にセレクトされていた『ようこそ地球さん』を手に取ったことで星新一とコンタクト。ジュブナイルには親しんできたプレSFファンが、いわゆるアダルトも楽しんでいるSFに出会って、そのままのめり込んでいきました。


 「新潮文庫の100冊」には、小松左京の『地球になった男』、筒井康隆の『家族八景』が入っていましたが、一番手軽に読めて、そして心にジグジグと染みる味なり毒を持った作家として、生涯忘れ得ぬ存在となりました。


 そんな星新一が死去したという報が、平成10年(1998年)1月5日に届きました。通信社から配信されたもので、前年の12月30日にすでに亡くなられていて、身内だけの密葬もすでに終わっていたといった内容でした。ただ、SF関係者は訃報を風聞していたらしく、後でのぞいたアサヒネットで筒井康隆が、朝一番で死去の旨を書き込んでいたようです。


 存命だった頃に書いて来たショート・ショートが、1000編に達したことを記念する作品が「SFマガジン」などを飾ったことがありましたが、その後、再びお名前を聞かなくなった星新一の次に触れた消息が、訃報だったとは残念でなりませんでした。ただ、当時すでに文庫が絶版状態となっていた小松左京とは違い、星新一の著作はしっかり刊行され続けていました。だから、「訃報に接してその偉大さを振り返りつつ作品を手軽に懐かしむことができるのが、不幸中の幸いといえる」とウェブ日記には書いてあります。今はどうなのでしょう。そこは気になります。


 名前は今に伝わっています。最近になって星新一賞が創設され、新しいSFやショートショートの書き手を送り出し続けています。訃報から20余年経ってなお輝く日本SFの星を、これからも輝かせ続けるように、SF業界の末席に名を置くようになったものとして頑張っていきたいと思います。何ができるのかを考えることも含めて。


 この月は、もうひとりSF界の巨星が墜ちました。どなたからのものだったのでしょう。使っていた「たまぴっち」のPメールが石ノ森章太郎の死去を告げました。時事通信のフラッシュも共同通信のピーコもテレビのニュース速報も入っていない時間。そして10分ほど待って、時事通信がはき出すニュースFAXに手書きの第1報が入って来ました。1月28日に亡くなられていたようでした。


 手塚治虫も星新一も、ご本人をお見かけしたことはありませんでしたが、石ノ森章太郎は1度か2度、ソフトの記者会見の会場でお見かけたことがありました。描いてきた膨大な作品から感じられるほど、エネルギッシュな雰囲気ではなかったようで、「長い間最前線を走って来て、いまもさらなる高みを目指して活動を続けていた人物だけに、疲れも相当のものがあったのだろう」といった印象を、訃報に絡めてウエブ日記に綴っています。


 世代でいうなら、手塚治虫よりも星新一より石ノ森章太郎にSFの面白さを教えられました。それは変身ヒーローの原点とも言える『仮面ライダー』であったり、ロボットにはなく人間が固有の感情である良心の存在を教えられた『人造人間キカイダー』であったりと、テレビの特撮ヒーロー番組を通してでした。マンガやアニメーションでも、『サイボーグ009』から平和を勝ち取ることの難しさ、そして平和を持ち続けることの素晴らしさを教えられました。ベトナムでのエピソードは、生涯忘れ得ぬ戦争の悲惨さと戦争を弄ぶ者共への憎しみを、子供の心に強く印象づけられました。


 メディアファクトリーから刊行中だった単行本に、『009』の完結に向けた宣言と、フルCGアニメ作りへの意欲が語られていたそうです。SFの石ノ森が帰ってくると期待して楽しみにしていたところの訃報。残念でしたが、『009』は構想を元に続きが語られ、神山健治監督によってフル3DCGのアニメーションも実現しました。今もなおさまざまな企画が動いているようですし、特撮ヒーロー物の系譜は昭和が平成となり、令和となっても続きます。石ノ森章太郎は、誰よりも時代を超えるSFクリエイターになったと言えるでしょう。


 「勝てば官軍、負ければ賊軍なのだということを、まざまざと見せつけられる1日であった」


 そんな記述で始まる1月19日は、今とも関わる激変が2つのエンターテインメント系企業で起こりました。まず昼頃に飛び込んで来たのが、松竹の奥山父子解任のニュースでした。父親で社長の奥山長と、息子でありながら社長よりも有名な専務だった奥山和由が、そろって役職を解任されて追い払われた、といったニュースでした。


 代わって専務で創業者一族の大谷信義が社長に就任することになりました。今も東京国際映画祭などで姿を見かける映画界の重鎮は、この一件で“誕生”したということになるのでしょうか。


 奥山父子の解任については、仕切っていた映画事業が惨敗続きで関連事業も全体に低迷し、それが業績に大きく跳ね返って来ていたところを見とがめられ、創業者一族との確執もあった、といった話が一般に知られています。実際、大船の「松竹シネマパーク」はCMとか映画館の予告編で見るほどには繁盛しておらず、「シネマ・ジャパネスク」の名称で始めたローバジェットの映画を小規模で上映していくシステムもヒット作に恵まれませんでした。


 中には、カンヌで賞をとった今村昌平監督の『うなぎ』とか、役所広司が好演した黒沢清監督の『CURE』といった作品が送り出されて、日本映画の質の向上に貢献はしていました。それでも興行に結びつかなかったところが問題視されたのでしょう。


 渥美清が死去せず「寅さん」が続いていたら、こうした状況になったかどうかは迷うところですが、言っても詮ない話です。「シネマ・ジャパネスク」がどうして当たらなかったのか、それならば誰も代わりに作品を持ってこれなかったのかを問題視すべきだといった感想を書いています。「才能を過信せず、経営者としてあるいは出資者としての立場をわきまえつつ、優れたプロデューサー優れた監督に現場をまかせるだけの度量があったら」と、これは奥山和良専務に向けての言葉。ちょっと言い過ぎかな。ただ、一人で全部背負いすぎた感はありました。


 「寅さん」をCGで復活させようといった意見も出ていたようです。当時は何て無茶無謀無理無駄なお金の使い方だと唖然としましたが、まさか20余年が経って本当に「寅さん」をCGで復活させる「男はつらいよ」50周年プロジェクトが動き出すとは思いませんでした。今なら元がとれるという判断でしょう。他にタマがないといった見方もできます。アニメーション映画の配給では良い仕事をしてくれている松竹ですが、邦画ではどうかと考えた時、解任騒動こそ起きないでしょうが、次代に向けていろいろと動きがあるかもしれません。


 そしてもうひとつ、当時のセガ・エンタープライゼスが社長交代の会見を東京証券取引所で開いて、本田技研工業出身の入交昭一郎が次期社長として登壇しました。社長だった中山隼雄が出席しない異例の交代会見でした。交代の理由は、一般には、コンシューマー事業の失敗を含めた業績低迷の責任をとっての解任と言われていました。会見では入交がコンシューマー事業を再構築するとともに、中山が専任になることによるアミューズメント事業を強化するのが目的だと訴えていました。


 もっとも、数年を経て中山はセガを去ってパソナの会長などを務めます。セガはCSKの大川功会長の移行が見えるような展開となって紆余曲折を辿ります。ここで社長交代が行われなかったら、ゲーム業界はどのような状況になっていたのでしょうか。セガバンダイこそ実現はしなくても、サミーとは違った場所に提携先を求めて大きくなっていたでしょうか。セガナムコ。セガニンテンドウ。想像してみたくなります。


 ゲーム関連では ゲームソフトの会社で作るCESAが「違法中古ソフト撲滅キャンペーン」という勇ましさが炸裂したタイトルのキャンペーンを始めるということで会見を行いました。果たして中古ソフトの販売は違法なのかは、これ以前から法律的にいろいろと取り沙汰されて、後に係争にも発展しましたが、そうした過程より以前に「違法」だから「撲滅」だという強い言葉に、中古ソフトを買って遊んでゲーム好きになって業界に入った人たちは、何を思ったのかといった感想を持ちました。


 ゲームがダウンロードで配信され、スマートホン上でアプリとして展開されるようになった現在、ゲームソフトの中古問題はあまり振り返られませんが、別にネットでの違法ダウンロードといった問題が浮上。クリエイティブの権利とユーザーの楽を求める心理との戦いは時代が変わっても、テクノロジーが進んでも終わりそうにありません。


 長くなるのでこの月も上下に分割します。


平成10年(1998年)1月のダイジェスト・上編でした。

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