第30話、ポケモンショックが起こり伊丹十三監督が亡くなり『VIRUS』の最終回で鈴置洋孝の格好良さに打ちのめされコミケで『PERFECT BLUE』のCD-ROMを買う

【平成9年(1997年)12月の巻』


 平成9年(1997年)12月17日の朝は「ポケモンショック」で目が覚めました。朝刊はスポーツ新聞から一般紙から何から何までがポケモンショックで1色。番外地とまで呼ばれたテレビ東京のそれもアニメが、これほどまでに世間を騒がせるとは、誰が想像できたでしょう。改めて「ポケモン」が広く認知され始めていたことを感じました。


 事件そのものは、光誘発性発作とかショックとかいった類のことが起こっただけでしたが、どうしてこれほどまでに大事になったのかといえば、「ポケモン」の人気が高くて大勢の人たちが見ていたこと、その大半が光刺激の影響を受けやすい子供だったこと、意識が引きつけられるクライマックスで場面でチカチカしたことといった具合に、2重、3重の要素が重なって大量発作が起こったのではないかと思いました。


 冷静に考えればそれだけのことですが、新聞各紙の扱いは千差万別でした。こういった時に騒ぎ立てるスポーツ新聞が比較的真っ当なアプローチの仕方で、光過敏が影響したのではといったトーンで記事をまとめていたのに対し、朝日新聞は電脳社会の落とし穴的発想で記事をまとめ、コメントもサブリミナルっぽい影響を危惧する声が使われていました。


 毎日新聞は光過敏についてはほとんど触れず、番組の持っていたメッセージ性を影響の要因として挙げていました。こういう時、スポーツ新聞は共同通信の配信を使うことが多く、そこが冷静ならトーンもだいたい冷静になるのです。対して独自性を出そうとする大手紙は、頓狂な推論を立ててストーリーの中に落とし込もうとします。零細準全国紙あたりが落ち着いたトーンだったのは、共同の配信に寄ったからでしょう。自前の記者を育てられない貧乏も、こういう時には役立ちます。威張れた話ではありませんが。


 怖かったのは、この一件をゲームの分野に敷衍して考え、ゲーム叩きに走るメディアが出ないかといったことでした。あくまでもアニメの演出上の問題であって、ゲームに原因を求めるのは明らかに間違っていますが、叩きたいならどんな理由でも作り上げる状況が、当時もそして今もメディアにはあったりします。


 幸いにしてこの一件で、ゲームソフトの『ポケットモンスター』が影響を受けることはありませんでした。アニメの『ポケットモンスター』も放送を重ねています。もっとも、叩きのスパイラルが増幅する今のネット状況ならどうなっていたか。それはちょっと気になります。


 12月20日に伊丹十三監督が亡くなりました。スポーツ新聞はトップから2面、3面と自殺について報道していました。原因については、雑誌「フラッシュ」の報道が引き金になったというのが中心でしたが、その程度の記事で自殺するなら、世の中自殺する人だらけだと思ったようです。だからでしょう、後にさまざまな憶測が浮かんで来ます。闇の勢力との関係も含めて。真相は明らかにされていませんし、真相があるかどうかも分かりませんが、平成という時代の切る上で、やはり大きく取りあげられそうな一件だったと思います。


 伊丹監督といえば、インターネットで自分の映画のプロモーションを展開することで知られていました。その企画を実務面で取り仕切っていたのがKAPSも大変だっただろうと思いますが、程なくしてニューズ・ツー・ユーという会社を設立し、そこから大きくなって日本を代表する英字紙のジャパンタイムズを傘下にいれるくらいになっていきます。ある意味で伊丹監督の存在があって出て来た新興のネット会社が、業務を変えて業容を広げて揺るぎない存在になっていった。伊丹監督は見て何を思うでしょうか。その成長をみて来たわたしは、ただただ羨ましいと思うだけですが。


 この年、どこかで取材でご一緒した「DIME」から トレンド大賞の授賞式の案内が来ていたようです。前年はアトラスの「プリクラ」に任天堂の「NINTENDO64」が受賞していた賞ですが、この年は「ホビー・レジャー部門」に「ポケモン」「ハローキティ」、ニューアイディア部門に「たまごっち」が入っていました。キャラクター関連が賑わった年ということになりそうで、当時の加藤直人編集長は、「キャラクターコンテンツの重要性が増しているって感を強くした」と話していたようです。今はなおさらでしょう。


 大賞は「たまごっち」が受賞。そこにピカチュウが現れて場が騒然としたことをウェブ日記で振り返っています。バンダイの取締役からたまごっちの母とまで夕刊紙に呼ばれた真板亜紀に至るまで、つぎつぎとピカチュウと並んだりバックにしたり抱き合ったりして写真を撮りはじめていました。誰もピカチュウにはかなわない、ということでしょう。


 大張正己監督のテレビアニメーション『VIRUS』が最終回に向かって突っ走っていました。第11話あたりでは、『VIRUS』を見ているのに『VIRUS』ではないような気がしたようです。「だってキャラがまるで違う。大張正己さん風でも中沢一登さん風でもないこれまでのどの回よりもも人間っぽいキャラなのに、すっげー違和感を覚えてしまうのは頭がすっかり目デッカチでエグレ頬で胸なんか西瓜なキャラクターに、魅せられ洗脳されてしまったからなのだろー」。個性が染みつくとそれ以外が凡庸に思えてしまう現れでしょうか。


 その頃に出た『VIRUS』のサントラを買い、大森俊之のサウンドを味わったようです。エンディングは南青山少女歌劇団のメンバーだったこともあるかの高野蘭が唄っていて、バックの絵といっしょにジンとしながら聞いていて、サントラでも堪能したようです。そんな『VIRUS』が最終回を迎えました。そして鈴置洋孝のセリフにしびれました。


 「わたしと、このハルシオンブラックの力を恐れぬならば、掛かってこぉいっ!!」。腰が砕けました。これまで散々っぱらデフォルメきついとか、ストーリーが思わせぶりとか、女性キャラがメロン胸とか、同じキャラなのの毎回顔が違うとか言ってケナして来ました『VIRUS』でしたが、このセリフを聞いた瞬間、全てが許せました。大張正己監督の足下にひれ伏そうと思いました。


 ここで「世のため人のため」と頭に入れてくれれば、靴だって舐めたかもしれません。少なくとも20代後半から30代の古強者の富野由悠季監督ファンは、最終回を見て感動の渦に叩き込まれたはずでしょう。でも、きっと見逃した人が多いと思います。それだけにBlu-rayの登場を願うのですが……。


 ストーリーが性急に進みすぎてインキュベーターが何だったのか、サージとは何者だったのかを駆け足で説明しつつ、最後は高次元へと向かってしまったエンディングに、この辺をもっと上手くもっと巧妙に証していけば、もっと強い支持を集められたのはないかと思いました。LDではディレクターズカットで絵が加わったりするとのことで、直されたLDを見返して違いを探してみたいとウエブ日記には書いてあります。もちろんLDは揃えましたが、それを見る環境が今は無い。無念です。


 『新世紀エヴァンゲリオン』のプラモデルの究極版というのを買ったようです。クリスマスシーズンで、緑色の包装紙に包まれていました。もちろん開けていません。作ってもいません。そのまま部屋の置物になって20余年。まだ無事なのでしょうか。売れば売れるのでしょうか。気になります。そして年末、コミックマーケットに行って企業ブースを回っていたようです。レックスエンタテインメントというところが大展開していた『PERFECT BLUE』という映画のブースで、「コミケ限定」の呼び声に釣られてカレンダーとCD-ROMのセットを3000円で購入したようです。


 『PERFECT BLUE』は言わずと知れた今敏監督のアニメーション映画で、これがカルト的な人気を呼び、『千年女優』『東京ゴッドファーザーズ』『パプリカ』へと続いていく発端となりました。そのカレンダーです。今となってはどれだけの価値があるのでしょう。CD-ROM。何が入っていたのしょう。気になります。お宝として売ればしばらく遊んでいられるのかと、すでに遊んでいる身ながら思ってしまいます。


 日記の記述です。「CD-ROMは短いけれど結構高いクオリティーのムービーがストーリーやメイキング、監督と声優さんへのインタビューと結構な数はいっていて、それから壁紙やらスクリーンセーバーやらマスコットやら使って使えないことのないオマケも幾つかはいっていて、これでカレンダー込み3000円なら悪くはないと無駄遣いじゃなかったことに安心する」。


 見てみたい。けれどもCD-ROMだけ見つかっても今の環境では見られないでしょう。プラットフォームに左右され過ぎることもCD-ROMタイトルの衰退を促しました。家のマッキントッシュLC-575が起動できさえすれば。有り余る時間を使って大掃除と再構築をしてみたいと思いました。


平成9年(1997年)12月のダイジェストでした。

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