第32話、ワンフェスで村上隆のガレキが即完売となり『ラブ&ポップ』で庵野監督がパンツを塗りつぶし『パーフェクトブルー』を作ったレックスを取材した

【平成10年(1998年)1月の巻・下】


 ワンダーフェスティバルというガレージキットの祭典に、現代アーティストの村上隆が近寄ることを厭う人たちがいる、という状況はいったいいつ頃から出て来たものなのでしょう。


 細野不二彦が『ギャラリーフェイク』というマンガに六園寺ハジメというアーティストを登場させ、彼のポップカルチャーを取り入れた作品に対して主人公のフジタに、アニメーターやメカデザイナーが生み出したものの上澄みをすくっただけだと言わせ、批判したあたりから“オタクvs現代アート”といった図式が可視化され、一部に定着したような気がします。


 もっとも、オタク中のオタクが集まるフィギュアメーカーの海洋堂は、村上隆が等身大フィギュアなどを手がけ始めたころから制作を手助けして来ました。関係は20年以上に及ぶのです。平成10年(1998年)1月25日に開催されたワンダーフェスティバル1998[冬]でも、村上隆がデザインを手がけ、あのBOMEが原型を担当した「KO2」というキャラクターの5分の1サイズのガレージキットが50体限定で発売され、開場から15分で1万5000円もするキットが完売したそうです。


 ガレージキットの世界で高く評価されるBOMEの原型だったから、ということもあるかもしれませんが、現代アーティストによるワンダーフェスティバルへの“進出”を快く思わないのだったら、見向きもしないというのが態度としては真っ当でしょう。けれども完売。綾波レイでも惣流・アスカ・ラングレーでも木之本桜でもない、アンミラ風で胸の大きな少女のフィギュアが完売。どういう訳かと知りたくて、午後に開かれた村上隆、あさのまさひこ、海洋堂の白井武志によるトークセッションを聞きました。


 BOMEの作品を、現代アーティストの中原浩大が素組して少しだけペイントしただけで「アート」として作品化したことに、オタクへの敬意を持った村上隆が憤り、自分がオタクのフィギュアをアートの世界にちゃんとした形で持ち込むと意気込んで始めたのが「プロジェクトKO2」でした。それを、海洋堂の協力を得て「1分の1KO2ちゃん」として完成させ、ワンフェスへと持ちこんだのが付き合いの始まりです。


 等身大は幾つか作られ、海外の現代アートのコレクターがこぞって購入するほどの人気になりましたが、村上隆にとってはフィギュアオタクの間で、今回のプロジェクトがどんな感じに受けとめられているかが重要でした。アートの権威を持ってフィギュアの上っ面をすくいあげているだけの部外者なのか、ちゃんとしたフィギュアとしてとらえてもらっているのかを確認するため、ガレージキットを引っ提げ、かつ現在進行中の新プロジェクトを持って臨んだのです。完売という結果は、だから成功だったと言えるでしょう。


 ただトークでは、「KO2」よりもフィギュアとしては異形の「HIROPONちゃん」を、あさのまさひこが強く推していたことが気になりました。それは、「アートという外の世界からフィギュアの世界オタクの世界をのぞき見たときに覚える違和感やグロテスクな感じを、大きな胸からほとばしる乳で縄跳びとしている『HIROPNちゃん』が見事にカリカチュアライズしていて、オタクにとっての反面教師というか近親憎悪を感じさせる素材として反発も覚えるけれど、それでも気にせずにはおられない衝撃を与えたから」だとウエブ日記に書かれています。斬新さを求めて止まないあさのまさひこらしい見解だと思います。


 今もなお村上隆はワンフェスに出展し続け、新しい試みを続けています。それを海洋堂もサポートしているという状況からは、共にクリエイターとして刺激をしあい、外へと広がっていこうとする意識を感じます。評価しなくても良いから存在を認める程度のところまでは、毛嫌いしていた人たちも進んで良いのではないでしょうか。


 このワンフェスでは、前回『星界の紋章』のラフィールとスポールを出品していた「H.B.Company」というディーラーで、帽子に「“赤井度”が低い男」という看板を付けたお兄さんが座っていたのを見て笑いました。雑誌「モデルグラフィックス」に載った夏のワンフェスリポートで、水玉螢之丞がこのディーラーが手がけたラフィールのことを、可愛いんだけど赤井度が低いと評価していたからです。自虐ですね。


 実はその水玉螢之丞とワンフェスの開場で、大森望の紹介を受ける形で言葉を交わさてれもらいました。尋ねると、記事で書いたことが気になっていて、「H.B.Company」のブースをのぞいて「“赤井度”が低い」という看板見て、あいさつする気が萎えてしまったと話していました。もったいない話。その後、2人が言葉を交わせたのかは、水玉螢之丞が亡くなってしまった今、永久に出来なくなりました。残念です。


 この月の「月刊アニメージュ」で、庵野秀明監督の実写映画『ラブ&ポップ』が取りあげられたそうです。巻頭の特集のみならず、表紙も実写の俳優スタッフが来ていたそうで、「中央に腕組みして立つ庵野秀明監督(新人)にラブポガールズ4人組は、それだけ見ればまるで『スクリーン』か『明星』か『ザ・テレビジョン』」といった雰囲気だったようです。


 映画も見に行ったようで、「とことんコミュニケーション不全の男たちが背伸びして精いっぱい頑張って人とコミュニケーションをとろうとして格好悪い姿をさらけ出している映画であって、決して女子高生たちのナマの青春を描いた映画には見えない、とゆーより男たちの無様な姿があまりにも心臓に堪えてはしゃぐ女子高生たちの顔を直視できないのであった」と感想を書いています。そんな映画のパンフレットを購入し、読んだら庵野秀明監督がある作業を行っていたことを知りました。


 2度目の鑑賞で「相変わらずパンツ映ってないなあ、不思議だなあ」と思っていたら、庵野監督がパンツが見えるのを嫌って全部デジタルで塗りつぶしていたとのことでした。いつかもし、そして素材が残っていたなら塗りつぶし前の素材を組み込んだ劇場版のディレクターノンタッチ版をリリースして欲しいものです。


 『PERFECT BLUE』という長編アニメーション映画で今敏監督がデビューし、『千年女優』『東京ゴッドファーザーズ』『パプリカ』といった作品で世界に知られ、そしてその死を惜しまれる存在になったことは広く知られた話です。その基点となった『PERFECT BLUE』を直接制作したのはマッドハウスですが、プロデュース的に制作を配給を行ったのはレックスエンタテインメントという、あまり名前を聞かない会社でした。


 『新世紀エヴァンゲリオン』のヒットもあって浮かれた商社あたりが、関連会社でも作ってアニメ製作にでも乗り出したのかと思いホームページを検索したら意外や意外、大阪にあるちょっとは知られた印刷会社の関係会社だったことが分かりました。どういう経緯でそうなったのかを知りたくて、新橋の雑居ビルに事務所を開いていたレックスエンタテインメントに取材に行きました。今敏監督ではなくマッドハウスでもない製作側のプロデューサーに話を聞いたのは、もしかしたらわたしだけだったかもしれません。

 

 サントリーのウイスキーのラベルのようなものを印刷していた会社が母体では、アニメ業界に伝などほとんどなかったようです。それでどうして完成まで持ち込めたのかは不思議なところ。制作現場ではハマグリと呼ばれる制作進行の振る舞いが、今敏監督らを混乱に陥れていたことは、今敏監督がネットに綴った「パーフェクトブルー戦記」にまとめられています。修羅場の連続だったのでしょう。


 一方で、レックスエンタテインメントでは、プロモーションという作業を行う必要があり、そこでは従来のセオリーには乗らない、もしくは乗り方を知らない手探り状態の中で進めいったそうです。新橋にある徳間書店の「月刊アニメージュ」への飛び込みはもとより、コミケでCHAMという作中のアイドルと同じコスプレをした女性を放ったりして関心を誘って来たそうです。


 それがジワジワと広まっていった結果、前年に開かれた「東京ファンタスティック映画祭」でのお披露目が満席になりました。頑張った結果が映画の好評となり、世界に認められる作品を今敏監督に作らせたと言えます。解散したか吸収されたか、今はもう存在が見えないレックスエンタテインメントですが、その仕事が今敏監督の栄誉を後押ししたと、関係者は自慢して良いと思います。


 日刊スポーツに「オルタカルチャー問題」に関する係争のニュースが載ったそうです。「週刊SPA!」では「エッヂな人々」で平井和正と大槻ケンヂが対談していました。「三石琴乃のエーベルージュ伝説」というラジオ番組の発表会があって、三石琴乃本人を目の当たりにして言葉をかわしました。


平成10年(1998年)1月のダイジェスト・下編でした。

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