第23話、『もののけ姫』が公開され宮崎駿監督が「少年マガジン」「SPA!」に登場し『リアルサウンド 風のリグレット』を買う

【平成9年(1997年)7月の巻・上】


 宮崎駿監督の長編アニメーション映画『もののけ姫』が公開されました。平成9年(1997年)7月12日のことです。どうやら今はもう閉館となった千葉市に新しくできたシネマコンプレックスの「シネマックス千葉」に見に行ったようですが、長蛇の列でこの日に見るのを諦めました。


 試写で観ていなかったら朝1番に行って並んでいたでしょうが、そこまでの気力体力が衰えていたのかもしれません。事前に予約ができるようになって、映画館まで行ったけれど見られそうもないからと帰ることはなくなりました。映画館での鑑賞機会を広げたという意味で、シネマコンプレックスは確実に映画の浸透に貢献したと思います。


 この公開に合わせて、あちらこちらで『もののけ姫』が露出しまくっていました。何しろ講談社の看板雑誌「少年マガジン」で大特集が組まれていたのです。徳間書店が製作したアニメを講談社が取り扱う。そこまでのバリューがあるものと認識されていたのでしょう。


 掲載された宮崎駿監督へのインタビューは、ロッキングオンの「H」に掲載されたものより面白かったかもしれないと、ウェブ日記には書いてあります。「シナリオを作らず絵コンテを切りながら作っていった話とか、新人に大役をまかせてその粘りに期待した話とか、とにかく呻吟しながらこの作品を作り上げた様子がインタビューの言葉からうかがえる」とあります。


 あと、「ごく流行りの言葉“自然を大切に”でくくられるような仕事をやってきたつもりはない」と断言している下り。「木を切ったりして自然破壊をしてる人間が悪人だったら楽ですよ、これは。でも人間の存在っていうのは、そういうものじゃないと思う」と言っているように、人間=悪、自然=善の図式では映画は語れません。里山保全などエコロジー運動の象徴として担がれがちなところがありますが、内心はそれほど単純なものではないようです。


 「週刊SPA!」にも宮崎駿監督のインタビューが掲載されたようです。インタビュアーは藤津亮太だったでしょうか。記事には「欄外のミニ解説に筆者の思いと知識が爆発してるって感じで、とってもオタク度高くて僕は好きです」といった感想を持ちました。インタビューは、「ありがちな『エコロジー』みたいな雰囲気ですかね。嫌ですねえ」といった具合に、「嫌ですねえ」という聞き手の言葉を載せては、「そうそう」という宮崎監督の相づちを引き出しています。そこに『もののけ姫』という映画が訴えかけている善と悪、人間と自然の錯綜した関係をうかがえます。


 ネット時代は強い言葉、断じる言葉が見出しとなって前面に出て、それがバズって話題になることが多いような気がしますが、人も世間もそれほど単純ではありあません。紋切り型に落とし込まない表現を探り、読んだひとが雰囲気を察して考えるような言葉が流通するようになれば良いのですが。


 押井守監督や庵野秀明監督についても尋ねていました。庵野監督には「上手に乗り切って欲しい」と言い、押井監督については「彼はほとんど犬のことを考えて生きている」といった言葉を贈っていました。引退宣言をして、これがもう最後だから何言ってもいいぞと考えていた? そんな感想が日記には書かれてありました。


 『もののけ姫』については、ふゅーじょんぷろだくとから『もののけ姫を読み解く』という本が出たようです。シシ神の森とかタタラ場とかエミシの森の歴史的な背景を踏まえた詳細な解説、エボシ御前やサンといったキャラクターの性格設定なんかが載っていたようです。


 エボシ御前とサンが闘うシーンの絵コンテも掲載されていたのでしょうか。「宮崎さんの筆になるだけあって、緻密ではないけれど見て横の指示を読んでいるだけで、そのシーンの激しく動いている様が手にとるよーによく解る」と紹介しています。「1冊にまとまったら是非読んでみたい」と書いている割に、後に出た『もののけ姫(スタジオジブリ絵コンテ集)』はまだ買っていません。今となっては部屋の置き場所も買うお金も……。人生はままならないものなのです。


 この頃、キネマ旬報社が季刊ペースで「動画王」というムックを出していました。その第2弾が出て、日本が世界に誇る「魔女物」の大特集を組んでいました。『魔法使いサリー』に『ひみつのアッコちゃん』」あたりから始まるニッポン魔女物アニメーションの流れをしっかりとした作品解説を交えて的確に把握し、紹介していたようです。


 注目は大地丙太郎と田中一也の対談による『ナースエンジェル りりかSOS』の紹介。当時はほとんど見ていなかったのですが、対談によってハードでメロウな話だったと知って気になりました。


 『魔法のプリンセスミンキーモモ』と『魔法の天使クリィミーマミ』に関する特集もあったようで、わたしは「マミ派です」と日記でカミングアウトしています。もちろん『モモ』も嫌いではなかったのですが、前半と後半の設定のギャップが気になって、無理に延命させたのではないか、といった印象も同時に持っていた感じです。それなら真っ白な状態から見られた『クリィミーマミ』を好きになりたい。そんな気持もありました。


 家にビデオのなかった時代、最終回を見るために2時間かかる大学から家までの通学距離を必死で帰りましたから。それくら好きでした。買った太田貴子のLP2枚、今どこにあるのでしょう。


 「ニュータイプ・マーク2」という雑誌も出ていたようです。小黒祐一郎の論文に著名アニメ作家へのインタビューに『スター・ウォーズ』大特集、そして大森望も入った「21世紀アニメ制作委員会」という大座談会は、どこか30代のノスタルジックでかつスノッブな印象を醸し出していたようです。総花的とも感じました。次号は出たのでしょうか。



 実はこの月から、担当が運輸省になって輸送に関連した業界を主に見ていました。旅行業界も含まれていて、日本旅行がミステリーツアーというのを催行する、というニュースに触れていたようです。東京乾電池の柄本明とベンガルと蛭子能収が同行して劇を見せ、その劇で提示される謎を解くカギを探して、エジプトのピラミッドやルクソール、アスワンといった観光地を回るというツアー。果たして催行されたのでしょうか。


 それというのもこの年の11月にルクソールで銃撃事件が発生し、日本人も含めた観光客が大勢亡くなります。時期が重なっているだけに、ツアーの行方が気になりました。東京乾電池が美人女優の宝庫だったら、すぐさま満杯になっていたかもしれないと書いているのはご愛敬。癖のある役者陣といっしょに行けるエジプト旅行の方が、今は楽しく思えます。


 ゲームは『サクラ大戦』を粛々と続けていたようです。「バタバタと仲間が死んでいくのを後目にヒロインと乳くりあいながら向かうは聖魔城。んでもってサタンを倒して大団円の場面で、おいおいおまえたち確か死んだんじゃなかったのか、って突っ込む前に『よかったなあ』って感情が湧いてくるほど、1週間ですっかり『帝国華撃団』メンバーの虜になっていた」そうです。


 セガから『新サクラ大戦』が発表となって、プロジェクトが再始動しましたが、この『サクラ大戦』と続編『サクラ大戦2 君、死にたもうことなかれ』を遊んで得たメンバーへの共感を、超えて遊ぶことができるのかが今から不安であり、また興味をそそられるところでもあります。ちなみに『サクラ大戦』は結果として『すみれ大戦』になりました。強気なお嬢様好きという性格が出たようです。今回はそういったキャラクターはいるのかな。


 『リアルサウンド 風のリグレット』も買いました。ユーザーアンケートの宛先の係が「丸山さんありがとう」となっていたようで、ゲーム業界で浮かぶ丸山という人の立場を思うと、ゲームが置かれた複雑な状況が浮かんで来ます。


 『リアルサウンド2』声の出演オーディション応募用紙も入っていたようで、応募しようかと思いましたがそのままスルー。結果として続編は出なかったので、応募していても声優デビューは果たせなかったでしょう。この頃に声の仕事を目指していたら、今どうなっていたかなと妄想してしまいます。選ばなかった道は訪れません。決断するならその時に。そう改めて思っています。


 この月は『もののけ姫』に匹敵するくらい話題のアニメーション映画が公開されています。『新世紀エヴァンゲリオン劇場版 Air/まごころを、君に』ですが、その喧噪を紹介していると長くなるので分割します。


平成9年(1997年)7月のダイジェスト、上編でした。


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