第18話、徳間康快が『もののけ姫』の配収60億円をぶち上げ宮崎駿が逆プレッシャーをかけ『攻殻機動隊』の凱旋上映がありドラマ『エコエコアザラク』にハマる

【平成9年(1997年)3月の巻・下】


 『新世紀エヴァンゲリオン劇場版 シト新生』で沸き立っていた平成9年(1997年)3月ですが、こちらも日本のアニメーション史であり日本の映画史に残る作品が世に送り出されようとしていました。宮崎駿監督の『もののけ姫』です。


 3月10日、当時はまだ存在した赤坂プリンスホテルで宮崎駿監督の最新作となる『もののけ姫』の製作発表会が開かれました。会見が始まって、製作総指揮の徳間康快・徳間書店社長の挨拶を聞いて度肝を抜かれました。曰く「配収で60億円を目指す。『南極物語』を抜いて日本一を狙う」。大言壮語に聞こえました。


 アニメーション映画です。対象は子供がメインで、あらゆる世代が見に行くものだといった認識はまだありませんでした。それに製作費で20億円をかけて、宣伝費でも製作者側が10億円と、特別協賛の日本生命が12億円の都合22億円も使う訳ですから、それまでのジブリ映画で配収トップだった『紅の豚』の27億1300万円ではアシが出てしまいます。ラッパでも良いから吹きまくり、大宣伝をして大動員をかけないことには、とてもじゃないけれど他の製作者陣が納得しなかったのかもしれません。


 実際に発表会でも、日本テレビの氏家齊一郎社長は、「宮崎さんは野茂で徳間さんはラソーダ監督」と言って活躍を期待する旨発言し、電通の成田豊社長も、「世界進出という意味で新しい歴史を作る作品」と褒めそやしていました。東宝の石田敏彦社長は、「失敗は許されない」とプレッシャーをかけていましたから、黙って座っていた宮崎監督の心中はどれほどのものだったか。胃がチクチクしていたかもしれません。


 とはいえ、さすがは宮さん、「来年の7月だったら良かったと今も思っている。きっとギリギリまで色を塗っているでしょう」と製作者陣に逆プレッシャーをかけていました。映画の主役の1人、『もののけ姫』のサンについても、プレスから性格設定を聞かれて「映画が出来てみないと解らん」とサラリと言ってのけていました。


 会場で流された予告編についても、「手や首が飛ぶけど、ある映像をつなげただけだから。別にスプラッタじゃないよ。本編が出来ると印象が違っているでしょう」と発言。商業的な煽りには簡単には乗らないクリエイターとしての立ち位置を示してくれていました。そうやって不安を煽りつつ、完成して7月12日に公開された『もののけ姫』は、2時間を超える長さでありながら興行収入で193億円、60億円といった配給収入では倍近い113億円を稼いで、当時の日本映画の記録を塗り替えました。


 こうして、ある意味でフリーハンドを得た宮崎駿監督は、4年後に『千と千尋の神隠し』を作って今も破られない日本最高記録を打ち立てます。宮崎駿監督が日本最高峰の監督へと上り詰めるステップを目の当たりにしたのかもしれません。


 そんな宮崎駿監督と、アニメーション監督という部分で並び立つのが、高畑勲監督を別にすれば押井守監督でしょうか。この月、『新世紀エヴァンゲリオン劇場版 シト新生』と同じ15日に、押井監督の『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊 インターナショナル・ヴァージョン』というものが公開されて、どれだけ世界で人気になっているかを改めて日本でも示す試みが行われました。


 この上映に会わせ、プロモーションを担当したエディット90が主催した「ジャパニメーションの現状と将来性」というシンポジウムが開かれて、アニメーターの北久保弘之による「ジャパニメーションでのデジタル技術」という報告が行われました。ディズニーのような使い方ではなく、実写映画のCGIに近いデジタルの使い方を、日本のアニメではするんだといったことを話していたようです。


 合間に見せてくれたプレイステーション版『攻殻機動隊』のオープニングアニメーションは、走るフチコマがとにかく迫力で、コードにつながれた草薙素子もとにかく悩ましいものでした。今も『攻殻機動隊』で最高のアニメ化はこれだという人が少なからずいるのもうなずけます。


 2番目に登場した村上隆は、「ヒロポンちゃん」や「DOB」といった、日本のポップカルチャーに題を取った作品で知られる現代アーティストです。アメリカではジム・ジャームッシュ的、ヴィム・ヴェンダース的に日本のアニメが語られてるとか、ジャパニメーションがコラージュ的に使われたケン・イシイのビデオクリップがMTVで流れた翌日、ニューヨークあたりのアニメショップが騒然となったといった話を披露してくれました。


 北久保弘之が日本のアニメは、やマイナー志向でこれからもいくのではと話し、村上隆は日本のディストリビューターが腰を据えて売れば、必ず米国でもメインストリームで受け入れられるはずと、楽観的な見通しを語っていました。結果を考えるなら、マイナー志向ではあって、それを求める人が増えて広く受け入れられているといったところでしょうか。


 この頃、映画とは別にテレビドラマの『エコエコアザラク』にハマっていました。2月1日から放送が始まっていて、「映像にはバラエティー番組の劇中劇か、ワイドショーの再現映像のようなチープさがあるものの、カットに工夫があったり、CGを使って特殊効果を加えてあったりして、30分という時間をそれほど退屈せずに見ていられた」とウェブ日記には書いています。とりわけ黒井ミサ役の佐伯日菜子による上目遣いな演技が最高とのこと。あんなうつむき加減でよく声が出せるものだと感心していました。


 テレビドラマの『エコエコアザラク』は、半ば過ぎで少し展開に変化があって、シリーズとして人を引き込む感じになっていきましたが、とある事件がきっかけでテレビ放送が打ち切りとなり、すべてを見るには後に発売されたLD-BOXを待つしかありませんでした。面白くなってきたところで奪われた強い関心が、今に至るまでこの『エコエコアザラク』というドラマをわたしの中でもトップクラスに位置するものにしていて、そして佐伯日菜子をトップクラスの女優に位置づけているようです。佐伯日菜子には後に押井守監督の作品でインタビューをしましたが、やはり強い視線でした。にらんでほしかったなあ。


平成9年(1997年)3月のダイジェスト・下編でした。

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