第14話、ジョンベネ事件をユタで知り史上初という映画の記者会見のネット中継が行われ伊達杏子がNHKで特集される
【平成9年(1997年)1月の巻・下】
アメリカのフロリダからは1週間ほどで帰途につきました。途中、トランジットで立ち寄ったユタ州のソルトレークシティーで、「スター」と「エンクワイアー」というゴシップ紙を買いました。当時、全米を騒がせていた「美少女スター殺人事件」の話題を詳しく知りたかったからです。
コロラド州に住んでいた6歳の少女、ジョンベネ・パトリシア・ラムジーちゃんが平成8年(1996年)12月末に殺害されたというこの事件。フロリダ滞在時にも見ていたテレビでは、ふわふわとした巻き毛の金髪に、ぱっちりとした目をした少女がステージに立ち、踊る姿を写し出していました。「ビューティークイーン」の称号も相応しい美少女ぶり。新聞を開くとそんなジョンベネの媚態を写したポートレートの数々が、どこから集めたのかズラリ掲載されてていました。
この事件は、美少女が殺害されただけというよりは、家族が手を下したのではないかといった疑いが乗っていたこともあって、高い注目を集めていたようです。アメリカでは連日、この話題で持ちきりでしたが、果たして日本では日本ではどの位話題になっているのだろうかと、フロリダやユタで考えたようでした。そして帰国して、やはり日本でも結構な話題になっていたことを知りました。
幼い少女が大人のようなメイクや衣装で着飾って、出場をするコンテストが幾つもあることが分かりました。子供としての可愛らしさを競うものとは違った、そうしたコンテンストの存在に日本との違いを感じました。だんだんとステップアップをして、いずれ大人のコンテストで優勝するための予選として、機能しているのかもいしれません。事件の方は20余年が経って家族への疑いは晴れたものの、未だ不明な真相に迫ろうとする話題が今も伝わってきます。
アメリカでのこうした事件が、タブロイド紙だけでなく三大ネットワークなりCNNで報じられることで、全米の話題となってそれを見て日本でも重大ニュースだととらえ、ワイドショーがネタにする流れが当時はあったような気がします。コロラド州でのひとつの殺人事件が、フレームアップされて世界的なニュースになりました。20余年が経ってもなお関心を抱かれ続けるのは、そうやって“お墨付き”を得たからとも言えます。
今、ネット上で世界中からささいなアクシデントから大きな事件まで、商業メディアや個人のSNSを問わず発信されていて、それらが何かのきっかけでバズり大きなニュースとなって盛り上がります。こうした状況下でジョンベネ事件は、一時の盛り上がりは見せるかも知れませんが、その後に続く大量の海外トピックに埋もれて、早くに忘れ荒れてしまう可能性も考えられます。20余年の時は情報のバリューも変えてしまったと言えそうです。
ネットといえば、帰国して当時はギャガ・コミュニケーションズと言っていたギャガの発表会で、史上初のインターネットを使った映画の記者発表会の中継があった、といった記述がウェブ日記にありました。どの映画で誰が出演していたのか、という記述がないのが気になりますが、当時はそうしたネット会見を行うこと事態が、革新性を持ったニュースとして取り沙汰され、結果として映画の宣伝に繋がる時代でした。
今はどんな映画でも、そしてテレビアニメーションの発表でも記者会見がネット中継されるのは普通のことになっています。むしろ情報が溢れすぎていて、その中からより注目してもらえるような中身なり、出演者なりを工夫する必要があります。出演者の人気がアクセスを呼び込む場合もありますし、アンケート結果なり利用頻度なりから個々に関心を持っている人に情報が自動で届くような機能なども動いているようです。
ギャガについては、自前で映像ソフトの製作を増やしているという記事をこの頃に書いていたようです。その具体例としてあげたのが、平成9年(1997年)2月1日からテレビ東京系で放映が始まる『エコエコアザラク』と、ゴールデンウイークに上映される予定の天海祐希出演映画『MISTY』のことです。
『エコエコアザラク』は佐藤麻嗣子監督で2作作られた映画をテレビ向けにリメイクしたもので、スタッフ・キャストは映画版とまるっきり違っていて、どういったものになるのか確かめたいと感じていたようです。まさかあれだけのカルト的な作品になるとは、この頃はまったく思っていませんでした。未だに引きずるくらい自分にとって重要な作品になっています。
マルチメディア・タイトル製作者連盟(AMD、現在のデジタルメディア協会)が主催しているマルチメディア・コンテンツの表彰式に顔を出したようです。「会場に着くといつも元気なオラシオンの菊池哲栄社長や、羽織袴でキメたデジタローグの江並直美プロデューサー、前回に引き続いてチャイナ服姿のボイジャーの萩野正昭代表取締役らが歩いている姿をみかける」とウェブ日記にあります。
現在も続いているAMD Awardは理事たちも、そして受賞者も選考委員も「正装」が決まりとなっています。羽織袴もチャイナ服も、それぞれに「正装」ですがちょっとした捻りがはいっています。そこがマルチメディアの世界でこれから大きくなっていくんだぞと意気込んでいたデジタルクリエイターたちの矜持だったとも言えそうです。『GADGET』を送り出したシナジー幾何学の粟田政憲代表取締役だけは、ちゃんとタキシード姿だったようですが。
そのAMD Award郵政大臣賞を獲得したのは、任天堂の『スーパーマリオ64』でした。当時はまだ存続していた、マルチメディア・コンテンツ振興協会(MMCA、現在のデジタルコンテンツ協会)の「マルチメディアグランプリ」と並んで2冠を達成しました。開発者・制作者に与えるAMD Awardの趣旨もあって、授賞式には世界の宮本茂が登壇して、伝統のチャンピオンフラッグ(一見パッチワークのムシロ旗、しかして実体は日比野克彦の作品)を受け取り、壇上で2度、3度嬉しそうに振り回していました。
印象として、パソコン向けCD-ROMが中心だった前回のAMD Awardに比べ、この年は『スーパーマリオ64』をはじめ『バイオハザード』『パラッパラッパー』と、コンシューマー系が賞に絡んで来たのがひとつの変化だったようです。どれも良い作品で、セールスもケタ違いだから仕方がなかったのかもしれませんが、同時にパソコン系CD-ROMタイトルがこのまま寂れていくのは寂しいと思っていたようです。マルチメディアの“終焉”は、この頃に始まっていたのかもしれません。
アスキー脱藩組が設立した会社、アクセラが新雑誌創刊のプレスリリースを出しました。「週刊TV Gamer」で発行部数は何と60万部。ゲームに限らず例えばアイドルとかスポーツとかの情報も載せ、さらに週間のテレビ番組表も載せて、全体としては総合エンターテインメント情報誌を目指すとありました。奮闘をしたようですが1年もたずに休刊に。ゲーム市場自体は「プレイステーション2」が出て大きく盛り上がっていく時代でしたが、雑誌という形で情報を発信することはすでに重たくなっていたのかもしれません。
もうひとつだけ。NHKが「ヴァーチャルアイドル」についての特集を組んだようです。「対人関係に消極的だとか、生身の人間に感心を抱けないとかいった理由を識者に語らせ、ゲームのキャラクターに惹かれている男共の特殊性を描き出そーとする、ステレオタイプな構成だったのが気に入らない」というのが番組への感想。今も昔も代わらないメディアの立ち位置といったところでそうか。
ちなみに番組で取りあげられたのは『ときめきメモリアル』のヒロインの「藤崎詩織」と、ホリプロが満を持して送り出したバーチャルアイドル「伊達杏子 DK96」だったようです。見て感じたのが「作り手側が性格とか趣味とか背景とかを全部作り上げてしまい、さあおまえら感情移入しろって感じで突如現れた『伊達杏子 DK96』に、どーして魅力を感じることが出来よーか」といったこと。結果は知られているとおりで、伊達杏子はバーチャルアイドルの黒歴史として語り継がれています。
アイドルになろうと頑張る姿をさらけだし、感情移入を誘い盛り上がっていくモーニング娘。が登場するのはこの年の秋のこと。クリエイターが楽曲を歌わせることでキャラクターとしての存在感が立ち上がる初音ミクの登場は10年近く後のことになります。当時、『伊達杏子 DK96』が成功するために足りなかったものは何かを考えることで、キャラクターを育て売り出すために必要なことが改めて、見えて来るかも知れません。
平成9年(1997年)1月のダイジェスト・下編でした。
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