第10話、劇場版『新世紀エヴァンゲリオン』の製作発表が行われ庵野秀明総監督の言葉を聞いて完成への期待を抱き不安も覚える

【平成8年(1996年)11月の巻・上】


 衝撃の最終話から1カ月後のSFセミナーで、『新世紀エヴァンゲリオン』を監督した庵野秀明が登壇して、終盤にかけてボロボロになっていたことを話したのは「第3話、庵野秀明監督がエヴァ最終話を自ら語ったり月刊KITANが休刊したり」に書いたとおりです。その時に、どこまで続編の製作について触れていたかは良く覚えていませんが、作って欲しいという動きはあって、取材に立ち寄った角川書店でもそうした話を聞いたことを覚えています。


 そして11月1日、いよいよ『新世紀エヴァンゲリオン』の劇場版が動き出しました。この日は、幕張メッセで開かれていた「プレイステーション・エキスポ」の会場で、『ときめきメモリアル』のヒロイン、藤崎詩織をフィーチャーした「藤崎詩織デビュー会見」というものも開かれていたようですが、やっぱり行くならエヴァということで駆けつけました。ちなみに『エヴァ』も『ときメモ』も同じキングレコードから案内が届いたようです。同日同時刻の会見を送ってどちらに行くかを決めさせる。記者のエヴァ度なり詩織度を測っていたのかもしれません。


 さて、劇場版『新世紀エヴァンゲリオン』の製作発表が行われた東京會舘の会見場には、だいたい200人くらいが入っていたようでした。ギリギリに入ったので座れた場所は隅っこの方。そして横に長かったテーブルには、角川書店(現KADOKAWA)の角川歴彦社長、キングレコード社長、テレビ東京や東映のエライ人たちが入り口に近い方にならび、自分が座っていた側には手前から惣流・アスカ・ラングレー役の宮村優子、綾波レイ役の林原めぐみ、葛城ミサト役の三石琴乃、そして碇シンジ役の緒方恵美ら声優陣が着席しました。「なんてラッキー」とは当時の弁。声優を間近に見ることなどあまりなかっただけに、とても貴重な経験でした。


 スタッフでは、庵野秀明総監督にメカ担当の山下いくとが出席していました。キャラクターデザインの貞本義行は多忙で欠席でした。その会見で庵野総監督は、「今もそこで脚本を書いていたほどですから、言えることは1つだけです。頑張ります」とだけ言って、マイクを次に回してしまいました。大丈夫なんだろうか? そう思ったようですが、後に不安は、それが脚本の遅れか制作の滞りだったのかは分かりませんが、当たってしまいます。


 劇場版『新世紀エヴァンゲリオン』の内容について、この時点で予定では1話から24話までをダイジェストにまとめた『総集編(EVANGELION:DEATH)』と、新しいクライマックスシーンを描きおろした「完結編(EVANGELION:REBIRTH)」の2部構成になることが公表されていました。題して『シト新生』で、「時間は各編60分で、時間の制約上『総集編』はエッセンスを凝縮したものになる」とのことでしたが、実際は『REBIRTH』が間に合わず、平成9年(1997年)3月に28分だけ公開となり、そして7月に『新世紀エヴァンゲリオン劇場版 Air/まごころを、君に』として87分の映画として公開されました。その時に誰がそうなることを予想できたでしょうか。庵野総監督はもしかしたら感じるところがあったのかもしれません。


 会見では、出演声優の挨拶で林原めぐみの生声を聞いて、「地声はリナ・インバースがマジになった声か」と感じ、緒方恵美については「見かけ宝塚男役トップスターなのに、声はぜんぜん女性だった」と感じてと、いろいろと発見があったようです。三石については「少なくとも月野うさぎではなかった」と書いていますが、後に何度か会見で声を聞く機会があって、子供から大人まで何にでもなれる声なのだなあという印象を持つようになりました。


 質疑応答では、角川書店ではなく徳間書店の「月刊アニメージュ」から渡邊隆史編集長(でも後に「月刊ニュータイプ」編集長)が口火を切って、「新キャラは出るの」と聞いたようです。庵野総監督は「24話で最後の使徒を倒しちゃったからねえ。代わりにエヴァンゲリオンの残りの5号機から13号機まで一気に出します」と答えて会場を沸かせていました。続いて渡辺編集長が、「カヲルくんはどうですか。パンフレットにもでかでかと出ていますが」と聞くと、庵野総監督は「彼、死んじゃいましたからねえ」とつれない返事をした様子。復活の予定もないと聞いて、カヲルくん好きの水玉蛍之丞さんを思って「残念です」と日記に書きました。


 別に出た「新しいメカは出ますか」という質問では、山下いくとが庵野総監督に「新しいメカいりますう?」と振って、庵野総監督から即「考え中です」という答えが返ってきました。畳み掛けて山下いくとが「さっき、5号から13号って言いましたねえ」と不安げな声音でお伺いをたて、それに庵野総監督がうなずいた姿を目の当たりにしました。結果はご存じのとおり。確かにいろいろ出て来た映画でした。


 その後、同じ月に開かれたマルチメディア・タイトル制作者連盟(AMD、現在のデジタルメディア協会)主催の「デジタル・コンテンツ・フェスティバル’96」に出かけた折に、出展していた角川書店のブースにいた角川歴彦社長に、劇場版『新世紀エヴァンゲリオン』の話を振って、改めて意気込みを伺ったという記述がウェブ日記にはあります。ただ、続けて「ヒットしたとはいっても、まだまだ『コア』の部分が騒いでいるだけとゆー観のある『エヴァンゲリオン』だけに、例えば『機動戦士ガンダム』、あるいは『宇宙戦艦ヤマト』のような社会現象を引き起こすだけの作品にしたいのだと角川社長が話していた」とも書いています。ヒットの兆しは掴んでいても、まだまだだと感じていたようです。


 これも結果は、テレビシリーズの衝撃に加え、劇場版のアクシデントといった“事件”をしっかりメディアで喧伝しつつ、作品が持っていた若者層に響くポテンシャルをしっかりと広めて浸透させていき、『ヤマト』『ガンダム』に続く時代を代表するアニメーションのタイトルとして定着させました。後、アニメーション自体の新作はなくても、キャラクターを展開し、パチンコなどへも展開してコア層とは違ったところに関心を持つ人を増やして、誰もが知るタイトルへと持っていきました。


 それでいて、当時わたしが少しだけ心配していた、「コアとなっているファン層が、自分だけがこっそりと持っていたかったのにと言って反発を示しかねない恐れ」も払拭し、コアも普通のアニメ好きも一般層までも関心を抱き続けられるようになっています。なぜそうなれたのか。『エヴァ』に続く時代の代名詞となるべきアニメが、作品量の増大に加え、嗜好や視聴習慣の多様化の中で生まれづらくなっている状況も踏まえつつ、検討してみたい気が湧いています。


 エヴァといえば、ビームエンタテインメントという会社のパンフレットに既に当時、「エヴァンゲリオンZIPPOライター」というものが掲載されていることをウェブ日記で紹介しています。価格は1万9800円で限定1000個。何でも初号機のボディーをイメージしたレリーフが表に貼ってあって、カタログのイラストを見るとまるで亀の甲良のよーなブロック状の模様が表面に浮き出ているものだったようです。


 今でこそエヴァのグッズは大人向けも含めてたくさん出ていますが、当時すでにZIPPOライターというアイテムが出るに相応しいくらい、大人が関心を抱く作品になりつつあった証明とも言えそうです。ちなみにビームからは、はバルキリー・レリーフ付き「生誕15周年記念特製マクロスZIPPOライター」というのも出ていたようです。こちらは見ていた少年たちが大人になって作品への愛着を示すアイテムとして理解できました。だからこそエヴァのライターが持つ意味も深かったのだと考えます。


 長くなりましたのでこの月は分割します。


平成8年(1996年)11月のダイジェスト、上編でした。

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