俺と彼女、妹には内緒の事
大塚零
俺と妹の友達の関係
「お邪魔しています、お兄さん。大学の授業ですか?」
俺、
この女の子は俺の家族ではない、だが俺はよく知っている女の子である。妹である
「こんちわ、
リビングには妹の
「
「あー……そういうことかぁ、ごめんな観月ちゃん」
「いえ、その……
観月ちゃんは困ったような、しかし何処か嬉しそうに微笑んでいた。
その笑顔に俺はホッとしつつも我が妹の行動に呆れてしまう。
一度形を決めたらその通りにならないと我慢ならないと言うか、もう少し頭を柔らかくすればいいのに。
などと俺が考えていると、
そして、
「あの、それでですね。お兄さん……」
「なに?
「……ここ、座って貰えますか?」
「別にいいけど……どうしたの?」
促されるまま俺は
一体どうしたんだろう、と思った次の瞬間には俺の腕に
そうして俺に体重を預ける。
「えっと、急にどうしたの?
「いえ、お兄さんが本当に鈍感なのでこうしないとわからないと思って」
そういう
あ、しまったな。と俺は直感的に悟る。
「久しぶりに二人きりになれたんですから……甘えさせて下さい」
「あー……ごめんね。よく家には来てたし、話してたから……いや、そうじゃなくて……本当にごめんっ!」
「いえ、いいです。お兄さんがそういう人だって分かってますし……それに、こうして甘えさせてもらってますから」
拗ねたように言いつつ、
だから
――俺は
それは彼女が妹の友達、だからというだけはない。
「いや、でもさ……俺達、付き合ってるわけじゃない? こういう気付かないと……こう、男としてどうなのかと」
そう、俺と彼女は半年前から付き合っているのだ。
ちなみにこのことは妹の
その理由はなんというか、すごく怒られそうな気がするからだ。
そう思うのは
おかげで妹がいる時は中々そういう機会はないが、今のような時はこうして
正直に言おう、とてもかわいい。
「……って、
「……す、すみません。お兄さん。ちょっとこっち見ないで下さい」
「いや、もしかして怒ってる? 俺、こういうの苦手だから言ってくれると……」
「……しくて」
「ん?」
「その、お兄さんがちゃんと……私と付き合ってるんだなって思ってくれるのがう、嬉しくて……顔が、その……」
俺に背けていた顔がゆっくりと俺の方を向く。
その
確かに普段の礼儀正しく、きりっとした彼女の顔と比べるとだらしないものだろう。
だからそういう顔をしてくれると、とても嬉しくなって俺も頬が緩んでしまう。
「……っぷ、あはははっ!」
「お、お兄さん! 笑わないで下さい! だらしなくてかわいくない顔してるっていうの自分で分かってますから!」
「いやいや、そうじゃなくてね。俺の彼女は可愛いなーって」
「お、おれ、かの……っ! お、お兄さん! からかわないでください!」
「ごめん、ごめん。でも可愛いよ、本当に」
「……もうっ! 知りませんっ!」
悪いとは思ってるんだけど俺の前でころころと顔を
だからこういうこともよくあるわけであり、こういう時にどうするかも分かっている。
「……それくらいで私の機嫌が直ると思ってるんですか?」
「じゃあ、やめる?」
「……いえ、続けて下さい。嫌いじゃないので」
じっと、観月ちゃんは俺に頭を撫でられている。
からかったりするのも楽しいけれど、こうしてゆっくりとした時間を過ごすのも俺は好きだ。
「……あ、他に何かやって欲しいこととかある?
「い、いえ……! もうこれ以上は、その……なんと言いますか、歯止めが効かなくなっちゃいそうですから……って、いえ! なんでもありません! お、お兄さんこそ、こうやって欲しいこととかないですか!」
「か、かの……彼女の、わたしにっ!」
自分から言うのは恥ずかしかったのかもしれない。
まっすぐ俺の顔を見てそう言ってはいたが、
とはいえどうしたものか、こうして俺の彼女である
あまり恥ずかしい真似はさせられないし、かといってあまり軽すぎると軽く見ているように関してしまうかもしれない。
うーむ。と俺は考え、そしてあることが頭に浮かんだ。
「そうだなぁ……じゃあ、俺のこと。お兄さん、じゃなくて名前で呼んで欲しいっていうのは……どう?」
「お、お兄さんを名前でっ!? ……わ、分かりましたっ! 名前で呼べばいいんですねっ」
「む、無理しなくていいからね……?」
「い、いえ……だって、私は彼女ですから……! そ、そのくらい余裕です!」
そういう
俺的にはもう少し軽いものだと思っていたのだけど、
少しからかうのは好きだけど、いじめすぎるのは嫌なので正直に申し訳ないと思う。
そして――
「い、いきますね……あ、あき――っひゃあ!?」
最後まで言い切るよりも先に慌ただしい、足音が家まで聞こえてくる。
その音に
時間的に考えて、またこの急ぎっぷりからすると
なんというか、本当にタイミングが絶妙なやつである。
これに助けられたのか、はたまたもったいなかったのか分からないが本当に見計らったようなタイミングのは間違いない。
「えっと……
「は、はい。そ、そうですねっ」
「じゃあ、今日はここまでかな……ごめんね、近い内に合わせるから」
「い、いえ、大丈夫です。その、無理はしないでくださいね」
こうなってしまったのは間違いなく俺の責任なので埋め合わせはしなければならないだろう。
本当はもう少し、ちゃんとした時に渡したかったけどこのままというのは嫌だった。
俺はカバンの中から小さな袋を出して、
「……っと、これ。
「えっと……これは?」
「開けてみて」
「は、はい……わぁっ」
袋の中身はアクセサリーだった。
あまり派手すぎないくらいの、
いざ、渡してみると恥ずかしいものがあった。
これもさっきの
「プレゼント。えっと……半年記念っていうの? そういうやつだから。気に入ってくれると嬉しいかなって」
「は、はいっ! だ、大事にしますっ、絶対っ!」
「じゃ、俺は部屋に戻るよ。あんまり
「あ、あのっ! その……待ってくださいっ」
「なに?
それから一度、二度、深呼吸をしてからそれを言った。
「ありがとうございます。あ、
それは言うのを止めてしまった先程のそれとは違い、とても嬉しそうで、すごく喜びでいっぱいの笑顔だった。
本当にタイミングはばっちりだったらしい。
あそこで止まってなければ、
その
「ありがとう、
「……もう、お兄さんのいじわる」
「ごめんごめん、それじゃあ――」
そこで、俺と
お互いに次に何を言うのか分かっている。いつもの合言葉、のようなものだから。
「この事、妹には内緒で」
「はい、私達の秘密。ですね」
玄関から妹である
また、
きっと
――なぜなら『秘密』と言う
俺と彼女、妹には内緒の事 大塚零 @otuka0
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