スナオにホワイトデー
ふだはる
スナオにホワイトデー
私、
場所は高校二年生の女子である自分の通学している学校の校内、手品研究部の部室。
日時は三月十四日の放課後。
椅子に座った私の目の前にある机の上に置かれているのは、綺麗に包装された三つの袋。
その向こうで挑戦的な微笑みをして座っているのは、この部室の
私は彼に尋ねる。
「で? バレンタインデーのお返しを、この中から一つだけ選べって?」
私は二月十四日に彼へチョコレートをプレゼントした。
他の男子よりも少しだけ豪勢な手作りの義理である。
料理部の部長たる私の手にかかれば、その程度のスイーツなど造作もない。簡単に作れる。
そう……さっと作ったから、あれは本命じゃない。断じて……そりゃ彼の事は嫌いではない。嫌いではないのだが……。
「そうなんだ。それで、もし素菜緒がキャンディーを引き当てたのなら……」
何か大事な事を言おうとしているのか、巧の視線がグルグルと宙を泳いでいる。
次第に顔が赤くなっている気がする。
私は少しだけヒキながらも彼の言葉の先を促した。
「引き当てたのなら?」
「お、俺とお前の相性が最高らしいんだ……だから、その……」
巧の視線は、ようやく落ち着いたのか真っ直ぐに私を捉えている。
しかし顔面は、より真っ赤になってしまっていた。
「俺と付き合って欲しいんだ!」
……。
突然の提案に私の頬も火照り始める。
いや、嫌いじゃない。嫌いじゃない。むしろ……そりゃ嬉しいけれど……流石に、これは……。
「ドウイウコト?」
動揺が隠しきれずにカタコトで尋ねてしまう。
巧は再び不敵に微笑むと説明を始めた。
「この三つの袋には、それぞれキャンディ、クッキー、マシュマロが入っている。マシュマロを引くと二人の相性は最悪、クッキーは普通、キャンディは最高の仲良し度で、付き合うと必ず幸せな、こ、恋人同士になれるんだ!」
私は説明を聞いている内に冷めた。
「あのね巧……あんた、嘘をセッティングするにしても、もうちょっとマシな設定を作りなさいよ? それに……」
本当に告白する気があるなら、もうちょっと真面目に……。
そう言おうとしたら、目の前に片手の平を突き出されて、こう遮られた、
「嘘じゃねーよ!」
巧は自分の椅子の横で床に置いてある鞄を開けた。
「まったく、お前は……名前の割に疑り深いんだから……」
ぶつぶつ文句を言いながら少年漫画雑誌を取り出して、後ろの方のページを開く。
そして両手で持ったまま、私に見せつけた。
「ほら、この占いのコーナーを読んでみろ」
少年漫画雑誌にホワイトデーに関する占いのコーナーが存在するのもどうかと思ったけれど、そこに書かれている事は巧の説明の通りだった。
凄いや、こんな下らない相性占いがあるなんて!
考えた人は、きっと少女漫画雑誌の占い記事を書く仕事の依頼は来ないだろう。
私は大きな溜め息をついて巧を睨む。
「だから、こんな変な占いで私たちの大事な事を決めようだなんて……」
「ちなみにキャンディーは、お前の大好きな高級フルーツキャンディーだ」
「のった!」
◇
結局やる羽目になったのだが、やるならやるでキャンディーはゲットしたい。
その結果、巧と付き合う事になったとしても……まぁ、それはそれで……。
……外したら、どうしよう?
「おーい、まだ決まらないのかー?」
巧は私が、どれを選べばいいのか悩んで時間が掛かっていると思っている。
別のことで悩んでいるのに、人の気も知らないで……。
私は包装が一番綺麗に見える真ん中の袋に手を掛けた。
「ねえ、巧、これ?」
「ノーコメント」
巧は意地悪く微笑む。
「包装は専門の店で透けないようにって適当に頼んだからな? ヒントにはならんぜ?」
「持って、振っていい?」
「だめ」
むー……。
今度は右の袋に手を移動してみる。
巧の表情が暗く沈んだものになる。
そこで左の袋に手を移し直す。
今度は、ぱあっと晴れやかな笑顔になる。
いやいや、一応こいつは手品研究部部長なのだ。
そう思わせといて、実は右の袋の中にキャンディーが入っている可能性がある。
……。
私と付き合いたいなら、キャンディーを引かせたいはずだから、そんな引っ掛けするだろうか?
……。
はあぁ〜あっと……。
私は恨めしそうに巧を見つめた。
巧は、キョトンとした表情で私を見ている。
私は目を閉じて覚悟を決めた。
こんな占いなんて信じていないけれど、これでどうにかなる縁なら、とっくに切れている。
何もせずとも、巧と繋がっているのなら、自然と手繰り寄せられるはず……。
私は何故か自信ありげに、そう感じた。
そして、私は一つの袋を手に取った。
◇
翌朝。
同じ料理部で副部長で親友の
キャンディーを分け合って、口の中で転がしながら……。
「それで巧くんと付き合う事になったんだ?」
「ん……まぁね」
私は嬉しさと切なさと、もどかしさを感じていた。
「その割には、なんか機嫌が余り良くないね?」
「……まぁ、ちゃんと告白はして欲しかったかな?」
「言ってくれてないの?」
私が、その質問に頷いて返すと、鋭子は呆れた顔になる。
「巧くんらしいっちゃ、らしいけどねぇ……」
鋭子はキャンディーの入った瓶を見つめた。
そして、何かに気がついたように呟く。
「ねえ?」
「なに?」
「もしかしてさあ?」
「だから、なによ?」
「三つの袋の中身って、全部キャンディーだったんじゃないの?」
私は鋭子を見つめる自分の目が、大きく見開いていることを自覚した。
◇
取り敢えず登校してきた巧を始業前に家庭科室へ拉致して鋭子と締めあげた。
あいつは、あっさりとゲロった。
全ては鋭子の推察通りだった。
私は残り二袋のキャンディーをゲットすると、鋭子に席を外して貰って、巧にキチンと告白のやり直しをさせた。
……。
えっ、返事?
それは、まあ、その……。
……ね?
スナオにホワイトデー ふだはる @hudaharu
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