いまどきロミオとジュリエット

結城藍人

いまどきロミオとジュリエット

「ああ、ジュリエット、どうして君はジュリエットなんだ!」


「ああ、ロミオ、どうしてあなたはロミオなの?」


「……とシェイクスピアごっこをしてみたところで状況は変わらないけどな」


「ホント、そうよね。平成も終わろうってご時世に、なんで私たちこんな時代錯誤な運命なんだろうね?」


「一部上場企業で社長がオーナー一族の世襲とかおかしいよな。それも一応IT系企業だぜ」


「まあ、ゲーム屋だけどね。あなたの家もうちも創業だけは古いから」


「ウチは町工場レベルではじめた玩具メーカーが時代の流れで今やスマホゲー大手になっちまっただけだからなあ」


「うちは弱小出版社だったけど、似たようなものよね。いまどき出版社のままだったら、とっくに潰れてたと思うけど」


「それは玩具メーカーだって同じさ」


「まあ、それでも業界で上位を争ってた数年前が懐かしいって思い出すくらいに、お互い結構まずい状況だとは思うけど」


「黒船が来ちゃったもんなあ」


「スマホゲーって新規参入も異業種からの参入もしやすいもんね」


「おかげでウチもそっちも汲々としてる状態だもんな。このままだとジリ貧だとわかっちゃいるけど、俺もまだ社内じゃ中堅でしかない。最新の極秘プロジェクトにはかかわらせてもらってないからな」


「私もそうよ。最新の極秘プロジェクトからは蚊帳の外。一応将来の社長候補ではあっても、まだ会社の方針をどうこうできるポジションじゃないもんね。まあ、その『将来』が来るかどうかも疑問だけど」


「なあ、それじゃあいっそ二人で逃げないか?」


「え、何よ突然」


「このまま家業を継いでも将来は厳しいんだ。何もかも捨てて、君と一緒に暮らしていくって未来は、駄目かな?」


「……凄く魅力的な未来ね。あなたとなら、たぶん二人で暮らすなら大丈夫。いいえ、きっと子供ができても何とかできるとは思うわ。幸せな家族を作れると思う」


「なら……」


「だけど! たぶん……いえ、絶対に後悔すると思う。あなたも、私も。自分たちだけ幸せになって、親兄弟を捨てて、家業を捨ててしまったことを」


「……だな。やっぱり、そう思うか」


「ええ。だって、そういうところが似てると思ったから、あなたを好きになったんだもの」


「俺もさ。それにしても、まさか偶然知り合った相手が、家業のライバルの娘だったなんてなあ」


「ホントよね。家業と何の関係もないところで知り合ったはずなのに、お互い似た環境だってわかって、似た性格だってわかって、なんとなく惹かれ合って……いざ正体を明かしてみたら、長年ライバル関係にあったってわかるなんて」


「今となっては、絶対に君を捨てたくない! だけど……」


「何かあったの?」


「実は、今度、婚約することになった」


「え、あなたも!?」


「君もなのか!?」


「ええ、業務提携のために、相手の会社の御曹司と結婚しろって」


「何だ、俺と同じか」


「ただの業務提携じゃなくて、合併も見込んでるらしいわ。いえ、絶対に合併するんでしょうね。だからこそ、跡継ぎである私が、相手の跡継ぎと結婚しないといけないんだし」


「そうしないと厳しいってことだろうな。ウチも同じだ。俺が相手の跡継ぎの娘と結婚して合併することになるって話だ」


「こんなシチュエーションまで似なくてもいいのにね」


「もう一度聞くぞ。家を捨てて、俺と一緒に逃げないか?」


「もう一度言うわ、それをしたら、絶対に二人とも後悔する」


「だよな」


「そうよね」


「わかった。もう言わない。だけど、俺が愛したのは君ひとりだ」


「私もよ。これから、どんな人生を送るとしても、私が愛したのはあなたひとり」


「それじゃあ、これが最後だ。せめて一晩、永遠に忘れられない夜を」


「ええ、せめて今夜だけは……」


~~~~~~~~~~~~~~~


「まさか、こんなことになるとはなあ」


「ホントよね」


「極秘プロジェクトって、そっちと合併してお互いの人気ゲーの良い所取りした最新ゲームを作るって話だったんだな」


「それぞれ、前作から根強いファンが多い上に、新規ユーザーの獲得も期待できそうよね。見てよ、この記事。『スクエニ合併以来の衝撃』ですって」


「まあ、こうなったからには、お互い頑張るしかないよな。目指せ、トップ奪還! ってな」


「ええ、そうよね。頑張り甲斐もあるし。だってあなたが……」


「君が……」


「「ずっと隣に居てくれるんだから」」




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