三角形の春ですか

エリー.ファー

三角形の春ですか

 余りにも綺麗な三角形ができたので、それを町に売りに出かけることにした。

 あんまりにも、町にある三角形は醜いものばかりなので、売るという前から後ろには長蛇の列ができている。

 自分で値を付ける場合、自分でその価値が分かっていないと大変なことになる。まるで高価な三角形が安い値段で取引されてしまう背景にはこのようなことがあるのだ。

 私はごめんだ。

 こんな簡単に、自分の三角形を手放すのも、それと同等の価値をしっかりと認識できない人間に売るのも。

 結果としてどうしたか。

 単純に、競りという形にした。

 つまり、欲しければ買いたい人間が次から次へと高い値段を宣言していって、一番高い値段を言った奴に買う権利が巡ってくる、というものである。

 これなら公平だろう。

 と、思っていた。

 その瞬間、町に白い馬に乗った王子が四人ほどやって来て、私の手の中にある三角形をまじまじと見つめる。

「ぜひ、私たちの姫として迎え入れたい」

 という申し出だった。

 正直に言う。

 冗談ではない。

 この三角形はまだ未売りもされていない、そして角も何一つかけていなければ直線の部分には傷一つ付いていないのである。こんなものが、右も左も分からない状態でそのまま姫として迎え入れられてしまう。

 三角形というものの生き方そのものにかかわることだ。

 それこそ、しっかりと三角形は理解しなければいけない。

 しかし。

 王子たちはその場で引き取りたいということだった。町の人間皆が私のことを見つめている。ここで断った場合は、王子たちの顔に泥を塗ることになる。今後、三角形屋という商売をこの町でやりにくくなることは明白だった。

 ため息が漏れる。

 四度漏れる。

 王子からも漏れる。

 町の人間からも漏れる。

 そうして、私が三角形に手を掛けた時である。

 どこからともなく、坂になっている地面を何かが転がってきた。

 何かと思った。

 それはそれは見事な。

 それこそ上等な。

 中点連結定理であった。

 見たこともない中点連結定理に皆が、声を失っていると一人の王子が他の王子の目を盗んで、その中点連結定理の手を取った。他の二人の王子たちはその瞬間、完全に心を失ってしまったかのように、中点連結定理の前へと跪いて見せる。

 私は三角形と目を合わせて、首を傾げて見せる。

 ここで商売をしたところで、何の意味もないだろう。これでは三角形の価値もよく分からない者たちに自分のプライドを売っているようなものだ。お互いに不幸になるばかりであったし、少なくともそれは三角形に申し訳なかった。

 立方体として一人前になるために、三角形ばかり作っていては何も始まらない。台形の王子様では、やはり角が四つもあってこれではいけない。自信をもって三角形を送り出す、ケーリーハミルトンの定理あたりを見つけてこそ、本当の幸せだろう。

 解の公式ならざるや、いとも虚数の変動値、分からぬ奇数に正四面体。

 とは、昔の人間もよく言ったものだ。

 大きく笑い声を響かせながら、今日も町と町とを渡り歩くその先は、明るい未来が待ち構える様に朝日が一筋、しっかりと照らしているのだった。

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