ハッピー・ウェディング前コーラ

ハッピー・ウェディング前コーラ

「……ねえトム？　『ウェディング・ドレス』はどれがいいと思う？」

「Ummm……別にエルザの好きなのでいいんじゃないかな。どうせ、お色直しする訳だし……」

「そんな野暮なこと言わないで、ちゃんと見て。ホラ、純白だけじゃなくてワインレッドもあるのよ。これなんか、リチャードのBBQ Partyの時に見たお空の色にそっくりじゃない？」

「ホントだ。色々あるんだね……」

「選ぶのはドレスだけじゃないの。もちろんケーキだって、コース料理だって……」

「……何だか披露宴って大変だな。全部『お任せ』ってないの？」

「何言ってるの！　特別な日なんだから、ちゃんと選ばなきゃ！　『ウェディング・コーラ』はどれにする？」

「何？　何だって？」

「『ウェディング・コーラ』よ」

「何だい？　その『ウェディング・コーラ』って？」

「はい。そちらは披露宴のために用意された特別なコーラでございます」

「だから何が特別なんだよ？」

「イライラしないで、トム」

「そちらのコーラは、お二人でご一緒にストローから吸い込まないと飲めない、お二人だけの特別なコーラです」

「素敵！」

「何て馬鹿なコーラなんだ！」

「よく考えてくれ、エルザ。そもそも何で、コーラをわざわざ二人で飲む必要がある？」

「特別な日なのよ！　コーラだけじゃない。どこに出しても恥ずかしくないよう、何もかも特別にしなくっちゃ！」

「気合入れすぎだよ、エルザ」

「『ウェディング・ケーキ』でしょ？　『ウェディング・アキナス』に、『ウェディング・トマト』、『ウェディング・スプーン』……」

「それぞれに『ウェディング』があるわけ？　一体何なんだよ、『ウェディング』って……」

「ありがとうございます。そちらオプションでそれぞれ五万ドルでございます」

「それからもちろん、『ウェディング・リング』！　それに『ウェディング・コンタクトレンズ』……」

「どんなレンズだ、それは！」

「訳が分からないよ！　何だよ、『ウェディング・コンタクトレンズ』って！？」

「はい。そちら披露宴のために用意された特別なコンタクトレンズで、お二人でご一緒にレンズを装着しないと前が見えない……」

「素敵！」

「どこが！？」

「『ウェディング・ネックレス』は、こちら披露宴のために用意された特別なネックレスで、お二人でご一緒に……」

「もういい！　もうたくさんだ！！」

「トム！　カリカリしないで！　あの、じゃあこの、『ウェディング・ドレス』ってもしかして……」

「はい。こちら披露宴のために用意された特別なドレスで、お二人でご一緒に着ないと……」

「着ないよ！　それじゃ獅子舞じゃないか！　何で結婚披露宴で、新郎新婦がJAPANESE-SHISHIMAIを踊らなきゃいけないんだよ！」

「トム！」

「特別な日なのよ！　この日だけだから。きっと一生の思い出になるわ。ねえお願い！」

「マイハニー。いいから落ち着いて聞いてくれ。いくら特別だからってキミ、二人で一緒に一つのドレスに入って、二人で一緒に一つのコンタクトレンズをつけたいかい？」

「つけたいわ」

「Holy Shit!」

「ごめんなさい、機嫌直してトム……見てこれ。ねえ……『ウェディング新郎』だって！　トムよりかっこいいし、何よりお金持ちだわ！　トム、私こっちがいい！」

「離婚だ！　いくら何でも馬鹿にしすぎだ！　何だよ『ウェディング新郎』って！？　もう離婚だよこんなの！」

「『ウェディング離婚』ね」

「ただの離婚だよ！　『ウェディング』はもうたくさんだ！」

「はい。『ウェディング離婚』は、披露宴のために用意された特別な離婚で、お二人でご一緒に同意していただかないと……」

「もういいよ！」