二人の姉妹

@chili_cat

第1話

 私はなんでもできた。

 運動、勉学、料理や裁縫。やれと言われたことは全て難なくこなして見せた。それが、母の指示だったから。

 しかし、妹は違った。

 妹は不器用で何をやるにしても、必ず失敗をしていた。

 私と同じテストを受けると、私は百点満点。妹は九十八点。

 体力テストを受けると、私はA判定。妹はB判定。

 料理をすると、私は言われたものを難なく作った。妹は真剣に本と睨めっこしながら不細工ながらに物を完成させて見せた。

 裁縫をすると、私は服を少し拙いながらに作った。妹はハンカチを手を絆創膏だらけにしながら作って見せた。


 私は、そんな妹のことを尊敬していた。

 何もできない、役立たず、劣化作品。両親からはひたすらにそんな扱いを受け続け、体罰なんて当然のように毎日行われていた。

 なのに、妹は諦めなかった。

 決して何もできないわけじゃない。むしろ、他から見れば優秀であるという評価になるであろう妹を、役立たずと切り捨てた両親の方を私は軽蔑していた。

 様々なことに対して、特に何もせず評価が得られた私と違って、妹はその全てに対し真剣に取り組んで、それでなんとか私に勝とうと、そう頑張っていた。

 もし、私がその立場だったのだったらとっくに心も折れて、挫折していただろう。

 そんな苦痛しかないであろう生活を生まれてから十五年間。絶えず続けていた。


 同じ日に生まれ、同じ家で育ち、同じ時間を過ごしていたはずだったのに、私という存在がいたために妹は、こんな扱いを受けている。

 そんな生活が嫌で私は家を出て、一人暮らしを始めた。現実から、少しでも目を離したかった。ただそれだけのために、逃げることのできない妹を置いて。


「……私は、これでよかったのかな」


 あれから既に二年。

 私は今再び、実家の扉の前にやってきていた。

 理由は単純。今日は葬式なのだ。

 私の唯一の家族である妹の。


 理由は聞かされなかった。

 それさえも、あいつらは教えてくれなかった。

 最後に顔を見ることさえも、できなかった。

 同じ日に生まれ、同じ家庭に育ち、同じ顔をして、違う性格と、違う環境で生活した妹と、私は違う日に旅立つことになった。


 両親に対する怒りなど、とうに消えていた。

 そんなもの何の役にも立たない。そんなことをぶつけても私の妹は返ってこないのだ。

 しかし、あいつらは違った。死んだということを、なかったことにさえしようとした。ひたすら私に罵声を浴びせ、私が「はい」と頷くまで殴り、殴り、殴り、殴った。


 ふざけるな。

 私も、妹も、決してお前らの駒でも、人形でも、代わりでもない。

 なぜ、そんなつまらないことで妹が死ななければならないんだ。

 なぜ、お前らが泣くんだ。そんな資格お前らにあるわけがないだろう。

 なぜ、一番泣きたい私の瞳から、涙は……零れないんだ。


 そうして、追い出されるように家を出た私は、ただ、自分の家へと無心で歩いた。

 ああ、ここが、私の家なのか……。


「……さようなら、もっと話したかったよ。おねぇちゃん」

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