祝福のメッセージ
@blanetnoir
何度も、
何度も、
何度も。
繰り返し唱える言祝ぎ。
おめでとう!
おめでとう!
おめでとうございます!
この世に送り出される時に、マスターからプログラムされた私の仕事。
これから仕えるご主人への、ちょっとした気遣いをと設計された、人間らしい発想で。
ヒトはなんて優しい生き物なんだろうと、思ったことを覚えている。
今年も、この日を迎える。
「結婚記念日、おめでとうございます!」
私のメッセージに微笑むご主人の口元は、少し気まずそうに見えた。
その意味は分からないけれど、私は、自分の仕事が今年も滞りなく遂行できて、満足である。
〇 〇 〇
「なんですか、このディスプレイのメッセージは。」
助手席に乗っていた部下が物珍しそうな顔で覗き込んできた。
「先輩、結婚されてましたっけ?」
「いや、違うんだよ。」
もう何度も説明してきたという面倒くささが全面に出たため息をついた。
「この車さ、中古で買ったんだよ。
そうしたらさ、
今日が前のオーナーの記念日だったんだろうな、
毎年このメッセージが出るんだよ。」
シートベルトを外しながら、メッセージを光らせている画面を一瞥する。
「設定の解除ができなくてさ、
まあ、あって困るものでもないから放置しちゃってるんだけど、
毎年律儀に誰かの結婚記念日祝ってるのをこっちも眺めてると、
忠犬を騙し取って働かせてるみたいで、
少し居心地が悪いよな。」
「へぇー、そんな素敵なカスタムされた車を手放しちゃう人もいるんですねー。」
「離婚でもしたんじゃないか?メッセージが消せないんじゃ乗り続けるのもイヤだろ。」
「たしかに。」
「この車もまさか、オーナーが変わったことを自動検知して修正する学習機能もないだろうしさ、まぁ仕方ないかなと思って放置してるよ。」
「なんだか、優しさが残酷な世界ですね。いらん事したばっかりに、誰かを傷付けた感じですね。」
バタン、と扉が閉められて鍵がかけられた。
しん、とした車内に、メッセージは夜の0時まで光り続ける。
祝福のメッセージ @blanetnoir
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます