永遠の2番手

@amagumo0560

第1話

 「クソッ!僕はなんでカエデにに勝てないんだ」


  この物語の主人公である双葉 健二(ふたば けんじ)は、昔からどんなに頑張っても、二番しか取れなかった。その理由は、この女のせいだ。


 「残念だったわね・・・ケン。これで99戦99勝0敗。今回もあなたの負けよ。約束通り、一つだけな~んでも言うこと聞いてね。”二番手くん♪”」


 渾身のどや顔をしながら彼女は僕を指さした。しかも、呼ばれたくないあだ名で呼びやがって・・・。僕は悔しさで頭を抱え、その場でゲロ吐いてのたうち回った・・つもりだ。


 「くそったりゃああああ」


 そう・・・絶対的な”一番”がそこにいるからだ。敵でありライバル、そう言いつつ実は幼なじみだったりするこいつ、天野 楓(あまの かえで)のせいで僕は常に二番目の立ち位置を押しつけられるんだ。


 学校の勉学においても僕の成績は二番目、その他では体力テストも決して努力を怠っているわけではない。それにも関わらず、あの女は女子どころか運動部ひしめき合う男子の記録もぶち抜いて1位の座に君臨している。


 正義感が強く、様々な部活を助っ人として全国大会優勝に導いたこともあり、つい最近も、どこかの練習試合で活躍したと聞いた。


 彼女のことを周囲は”平成時代の勝利の女神(ヴァルキリー)”と敬うやつもいれば恐れるやつもいた。


 それに対し、僕は”永遠の二番手”とか厨二病めいた呼び方をされていて、からかうやつもいれば、楓に対抗意識を燃やすことに感心するやつもいた。


 今回の高校2年の学期末テストに置いても、僕は楓に負けた。しかも、今回は特別に『負けた方が何でも1つ言うことを聞く』という条件付きだ。

 僕は、その日の放課後に約束していた校舎裏に向かった。


 「まぁ、約束は約束だ。カエデの命令はなんだよ」

 「急かさないでよ・・・、ちゃんと言うよ」


 彼女は、命令する側なのに、何故か緊張している。


 「れ、恋愛相談に乗ってほしいんだけど・・・」

 「・・・は?」


 コレが、天野 楓が僕にしたお願い事(命令)だった。

 彼女は、完璧すぎるが故に対等な友を持つことがなかった。友人がいなかったというわけではないが、親密度で言えば広く浅いのだ。

 そこで、幼なじみである僕に白羽の矢が立ったわけである。


 「というかカエデ、好きなやつなんていたの?!」

 「すっ好きな人くらいいるよ、バカ!」

 「とりあえずそのすきな人について教えてくれ。それが分からんと何もはじまらん」


 僕は慎重に言葉を選びつつ、彼女から情報を聞き出していく。イノチ、ダイジニ


 「ちなみに相手の名前は?」


 「サッカー部の・・・く、九頭竜 夜一(くずりゅう やいち)くん」


 彼女は、珍しくももじもじとしながら小さく口を開いた。


 「九頭竜・・・。確かサッカー部のキャプテンだよな。ファンクラブもあるって・・・いろいろ噂の」


 「そうそう、もう本当に格好いいんだよね。九頭竜くん」


 意外にも、王道な恋愛傾向であることに、内心少しビックリした。いや、ある意味なんでも一番を取るこいつには人気№1の奴を恋愛対象にするのは至極当然のことか。まぁ、どちらにしろ答えは出てる。


 「じゃあ行ってらっしゃい」

 「何言ってるのケン。冗談は辞めてよ、クスクス」

 「何言ってるんだよ、カエデの高ステータスで超可愛い子が告ってくればどんな奴も付き合うに決まってるだろ?簡単じゃん」


 カエデは悔しいが普通に可愛い。そんな完璧美少女から告白されてみろ、イチコロだ。


 「ふ・・・ふっ」


 カエデは、肩で息をしてぷるぷる震えている。なんだ?付き合うことが簡単だったことに気がついて感動に打ち震えているのかな。


 ブンッ!


 その刹那、僕の顔面の側面を目に見えない音速の拳が通過した。


 「ふふふふざけないでよ!それができたら苦労はしないよ!」


 まぁ、冗談はともかく・・・とりあえず、デートに誘って距離を縮める。と無難な提案をして実行することに収まった。


 「ありがとうね、ケン。私、これから九頭竜くんをデートに誘ってくるよ!」


 彼女の行動力はすさまじく、その日のうちにデートの約束を取り付けてしまった。

 何故知っているかというと、デートの日程が、僕に何故かメールで僕に送られていたからだ。


 『今週の日曜!九頭竜君と水族館にデート!いいでしょー』


 何で僕にわざわざ報告するんだカエデは。まぁ、聞く手間が省けたからいいけど・・・。


 「はぁ、辞めといたらいいのに・・・」


 僕は、ため息を吐きつつ日曜日に向けての準備をすることにした。


~デート当日~


 「九頭竜くーん♪」


 水族館前の噴水に座っている彼に私は声を掛ける。もちろんその相手は誰もが憧れるあの九頭竜君だ。


 デート当日、水族館では他愛もない会話をした。私が何に置いても常に一番なのがスゴいだとか、”永遠の二番手君”の話しをしたり、優雅に泳ぎ回る魚を見ながら私たちは甘い甘い時間を過ごした。

 夕日も沈み始め、水族館もあらかた見回った私達は人気の少ない休憩所にこしかけた。


 「でもまさか、あの有名人の天野さんからデートに誘われるとは思っていなかったよ」

 「何言ってるの、私なんか、世界から見たら全然普通だよ」

 「世界か・・・流石、学年トップは見る世界自体が違うね。ほんとに・・・憎たらしいよ」

 「・・・え、今なんて?」

 「ううん、なんでもない」


 九頭竜君が最後に何を言ったのかが聞こえなかった。でも、聞いてはいけないような気がしてた。この時の天野君の表情を私は怖くて見ることができなかった。


 「天野さんってさ・・・いつもあの二番手君と張り合っているよね」

 「え、ケンのこと?んー、私が張り合っているって言うか、なんて言うか・・・なんか勝負しないとダメなんだよね」

 「まぁ、君と張り合っているってだけでも彼はスゴいと思うけれどもね・・・。よく頑張るよ、どうせ負ける結果に終わるのに」

 「天野さんは、彼を負かしても何も感じないのかい、罪悪感とかは」

 「んー、特に何も感じないよ。それにケンだから大丈夫よ。次に何かあってもまた、正々堂々勝負するだけね」

 「・・・君は気づいていないのか、君ほどの才能がどれだけの人を傷つけているのかを」

 「・・・なにが?」


 九頭竜君は、私の反応を見て、驚きに満ちた表情になっている。何か変なこと言ったかな、負けたら悔しい思いをするのって普通のことだと思うけれども


 「天野さん、聞いてもいいかい。なぜ、僕をデートに誘ったんだい?

 「え、そりゃ決まってるじゃん!サッカー部で格好いいからだよ♡」 

 「・・・そうだよな・・・そうだったな、君は・・・そういう奴だったな!」

 「えっ、なになに?!」


 突如、片手で両腕の自由を奪われ、空いた手で口をふさがれた。私は何が起こっているか分からずに、ただただ困惑する。


 「ついこの間、お前はサッカー部に来たとき言ったよな!”私ができる事なんてたかが知れてるよ”って。その一言がキャプテンである俺をどれだけ惨めな姿にしたか」

 「――ッ!」


 彼の言いたいことがいまいち見えてこない、でも私はただただ怖くて震えることしかできなかった。


 「小学校から初めて今までで10年サッカーをやってきた経験でようやく任せられたキャプテンだった。でも、そこからどんなに頑張っても、どんなに考えてもチームを勝利に導くことができなかった。そこでお前が・・・現れたんだ。練習試合だったが、お前が指示を出すと面白いようにゲームが動く。俺の今までの努力を踏みにじられている気分だったよ。お前が去った後、俺はチームメンバーから無能なキャプテンのレッテルを貼られて孤立したんだ。この苦しみがぁ!この胸の痛みがお前にわかんのかよぉ!」


 私は、ぽろぽろと目頭から大粒の涙が溢れて止まらなかった。頭の中が真っ黒になって、熱い物で埋め尽くされている。

 ああ、この感情はなんだろう・・・

 彼の拘束がわずかだが緩む口をなんとか動かし、言葉を探す。


 「あ・・・ごめ、ごめんなさい」

 「謝って済む問題なのかよぉ!」


 むろん彼の怒りは収まらない、彼の怒りを静める方法が見当たらないのだ。


 「助けて・・・ヶン」


 なんて言っても、あのケンガ来るわけないか・・・私のこと嫌いだもんね。


 「ああ、俺に任せろ。カエデ」

 「「――ッ!」」


 幻聴なんかじゃなかった。通路の端からでって来たのは赤い変装用の帽子?を脱いだケンだった。


 「なぁ・・・九頭竜、もう満足しただろ、カエデも謝ってるだろ」

 「うるせぇ!二番手野郎は引っ込んでろよ、俺はこいつにトラウマ植え付けてやんねぇと気が済まないんだよ!」

 「サッカーで孤立したのは自分のくせに、他人のせいにすんなよ」

 「て・・・てめぇぇえええ」


 九頭竜は、天野を突き飛ばして俺に殴りかかってくる。


 「残念だったな、こちとら毎日アレと張り合ってるんでね」


 僕は、相手の懐に潜り込み片手を抱え込んだ。そして、俺は九頭竜に見事な背負い投げを食らわしたのである。


 「ガハァ!」


 ろくに受け身も取れずに固い地面にたたきつけられる。手加減はしたので軽い脳震盪を起こしているだけである。

 そのまま彼を壁に寝かせ、彼女に歩み寄る。

 「大丈夫か?カエデ」

 「いや・・・見ないで」


 彼女は、わたし・・・わたし、と両腕で顔を隠しながらケンに聞いた。


 「ケンも、ずっと嫌な気持ちだったの?」


 俺は、別に二番目が心地いい訳なんかじゃない。一番を目指したら彼女がいて、そんな彼女が好きなんだ。だから返す言葉はもう決まっている。


 「そんなことはない、俺は”永遠の二番手”だからな、カエデがいないと成り立たない」


 俺は、彼女の二番手でありたい。

 そしていずれは・・・


 「ハハッ、何よそれ。いつかは私に勝ってよね」

 「当たり前だろ!」


 僕はいつでも二番だ・・・

 大好きな彼女の二番目の男なんだ

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