一人前に色気づく癖にキミは女心が分かってないね

新巻へもん

まったくもう

 ヒロが真剣な顔をしてカードを睨んでいる。いつもようにヒロの家のリビングでセンゴク☆サモナーで対戦中。2人用の対戦型カードゲームだ。場には私の武将カードが3枚。ヒロ側は2枚。速攻を仕掛けた私としては思わしくない状況。


 ヒロの残りライフは5。結構いいところまで削ったけど、基本的に攻撃力の高くない私の武将には削り切るのが微妙なライン。私のライフはまだ8あるけどジリ貧ぎみなのは確かな戦況だった。


 で、私は手札もないので、ヒロの顔をこっそり堪能中。あいつは普段はいつもぼーっとしている。そのせいか、クラスの女子の人気はいま一つ。だけど、真剣な表情になったときは結構イケてる。絶対に学校じゃ見せない顔だけれど。


「ねえ、早くしなよ。いくら考えても無駄なんだからさ」

 ちょっと煽ってみるが、ブツブツとつぶやきながら熟考中。いつもこれぐらい真剣にやってればもうちょっと人気出ると思うんだけど。まあ、わざわざ教えてやるつもりはない。


 密かに自分だけが分かっているというのはいい気持ち。女子も最近はみんな色づき始めたのか、男子の品定めに夢中だ。わざわざ隠れ好物件を教えてやる必要はない。


「じゃあ、鬼庭良直を召喚。他の武将で攻撃。防御どうする?」

 あちゃ。メンドクサイのを隠しもってたな。場にある限り相手プレイヤーへのダメージをすべて肩代わりする防御特化の武将だ。


「わはは。防御しないと次ターンで俺の勝ちだぜ」

「うるさいわね。そんなの分かってるわよ」

「でも、そっちのじゃ防御したら次ターンのアタッカー足りなくなるぜ。まあ、速攻は膠着したら不利だよな」


「だから、そんなの分かってるわよ」

「へえ、これ負けたら5連敗だぜ。負けたら何してもらおうっかなあ。まさか、5連敗したら相手の言うこと聞くっていう賭け忘れてないよな?」

「覚えてる!」


「なあ、可愛らしく、ゴメンナサイしたら、賭けはなかったことにしてやってもいいんだぜ。なんたって俺は心が広いからさ。先週、学校でお前にパシリにされて、陰で色々言われたのなんか、ぜんっぜん気にしてないから」

「まだ、そのこと言ってんだ。男のくせに執念深いわね。ねちっこい男は嫌われるんだぞ」


「そりゃないだろ。お陰で俺はお前の下僕で、家では女王さまと呼んでるとか、さんざん言われたんだぞ。俺の尊厳を返せ」

「知らないわよ。アンタの友達がアンタになんと言おうがそれは私のせいじゃないし」

「まあ、いいや。防御しないでいいのか?」


 ヒロが重ねて聞く時はそうしてほしくないときだ。おそらく直接ダメージを与えてくるカードを隠し持っていて8点削り切る目算が立っているんだろう。

「鮭を猿渡でブロックするわ」

「ふーん」

「どうせアンタのことだから何か隠し持ってるんでしょ?」

「いい読みしてんな。まあ、決着が次ターンに伸びただけだ。カード引けよ」


 私のライフは6点になった。ヒロのやつは余裕綽々だ。自陣から猿渡信光のカードを取り除き顔を上げるとヒロの目線が少し下に下がっているのに気づく。また、胸を見てるな。バレバレなんだよ。本当にしょうがない。

「まさか、ヒロ。勝ったら変なことさせろって言うんじゃないでしょうね?」


「変なことってなんだよ」

「むっつりスケベなヒロが考えそうなこと」

「ひでーな。俺がいつそんなこと考えた?」

「いっつも。このスケベ、ヘンタイ」


 山札からカードを引く。やった。来たわ。私の王子様。戦国時代の完璧超人立花宗茂様。召喚コストは6と高いけどそれだけの性能はある。それにイラストがカッコいいんだ。幸いコストを払うだけの国力はある。国名カードを全部タップするとヒロの顔色が変わった。


「まてよ。なんでそんだけタップすんだ。速攻デッキなのになんでそんなコストの高い……」

「じゃーん」

 私の出したカードを見て、ヒロは絶句する。


「じゃあ、宗茂様を含めて全員アタック。『一番乗り』ついてるから強制防御で戦闘は優先解決よ」

 ヒロの虎の子の防御武将は宗茂様の攻撃で木っ端微塵。残りの二人の攻撃力は合計3だけど、宗茂様の『鼓舞」により攻撃力がそれぞれ+1で総計5。


「ぐぬぬ」

 ヒロは心底悔しそうだ。

「絶対デッキコンセプトと合ってないだろ。速攻でコスト6なんてさ」

「いーじゃない。カッコいいんだから。カッコいいは正義よ」

「んなアホな……」


「残念だったわね。邪な野望を打ち砕かれて今どんな気持ち?」

「邪いうな。別にそんなこと考えてなかったぞ」

「へーえ。じゃあ、私に何をさせるつもりだったの? 言ってごらんなさいよ」

「う」


「ほーら、やっぱり、えっちなこと考えてたんでしょ」

「違うわ!」

「だって言えないじゃない。このヘ・ン・タ・イ」


 ヒロは顔を赤くするとボソボソと何か言う。

「え? 聞こえないんだけど?」

「ミ、ミキの一番好きな相手は誰なんだよ?」

「はい?」

「だから、ミキが一番好きな相手は誰か教えろって言うつもりだったんだよ」


 はあ。こいつ先週の謎かけ分かってないんだ。私がせーっかく好意を伝えてあげたというのに。まあ、男の子じゃ、2番出汁も合うものがあるように2番目に好きな相手が合う相手がいるってのは遠回しすぎて分からないか。基本、こいつ鈍感だからなあ。


「それ聞いてどうしようっての?」

 少し前からヒロが私にそういう興味を持ち始めていたのは分かっていた。まあ、道歩いていても大抵の男が胸を見てくるし、その度に気持ち悪い思いしてたんだけどさ。なぜかこいつにそんな目で見られても不思議とキモいという気持ちにはならない。


「い、いや。そういう相手がいるなら、俺なんかの遊びに付き合わせてるのは悪いかなと思ってさ」

 はあ。ダメだ。全然分かってない。

「バーカ」


「何が馬鹿なんだよ」

「馬鹿は馬鹿だから馬鹿なの」

「ひでーな。そりゃ、俺はミキみたいに成績も良くないけどさ。なあ、それで誰なんだ」


「べーだ。教えてあげない。だいたい賭けが成立してないんだし、答える義務はない」

「そうなんだけど……」

「どうしても聞きたきゃ、連勝してみな。でも今日はもう帰る」


 ヒロがパックを買って開けたら出てきた宗茂のカード。私がじーっと見てたらあっさりとくれた。ショップで見たら単体で7千円の買い取り価格がついていた。そんなものをポンとくれる。で、コイツは気づいていない。宗茂のイラストにちょっとだけ似ているのだ。ヒロが真剣なときの顔。


「それじゃ、送っておくよ」

「いいよ。子供じゃないし」

「だからだよ。断ってもついてくからな」

「うわ。ヘンタイからストーカーに進化する気?」


 こう言いながら、本当はそのヒロの気遣いが嬉しいのだ。しかし、本当に君は乙女心が分かってないねえ。



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