第11話

「正夢って、本当に起きる予知夢みたいなものでしょう? 凛花りんかはね、それが実際に現実に成り得る夢をよく見るらしくて、その話をよくしてくれた。その日に受けたテストの点数とか、明日の天気とか。ああ、もちろん毎日見えるものではなくって、本当に時々、希に見るんだって。でもその中には悲しいものもあって、誰かが怪我をするとか、電車の飛び込み事故が起きるとか、見たくも知りたくもない現実を見せられることもあるって言ってた。多分これが、あの子の誰にも話せない秘密の悩み事。ご両親に話しているのかわからないけど、多分言ってもわかって貰えないものだと思う。見るようになったのは小学五年生とくらいだったかな。もちろん、私が知ったのは高校で同じクラスになった昨年。……これは私の、あくまで仮説。多分、事故に遭う数日前に夢をみたんじゃないかな。自分が車に轢かれる夢。避ける方法は知らないから、遺言みたいに私に言ったのかもって。――そうね、遺言は失言だった。ごめんなさい。でも実際に凛花は生きてる。記憶を一部失っているけど、ちゃんと私を覚えてた。……あれ、でもどうして溝口みぞぐち君の事は覚えてないんだろう? 謎ね……」


 青山あおやまの話が一通り終わると、小太郎は頭の中で何かが埋まっていく感覚がした。

 彼女の話が本当ならば、古賀凛花こが りんかは正夢――というより、これは予知夢といった方が良いのかもしれない――を不定期に見ることができたということだ。

 しかしここで青山とは違う疑問が浮かぶ。自分が事故に遭う夢を見たとしたら、少なくともその道を通る事はしなかったはずだ。正夢から避ける方法考えればいくらでも実行できたはずなのに、どうして彼女は事故に遭ってしまったのか。――ふと、あの少年の言葉が横切った。


 『あの日、ここで事故に遭うのは彼女ではなく他の人物だった。』

 『それは彼女にとって大切な人で、失いたくないと願っていたからこそ、彼女は自ら飛び出したんだよ。』


「あの日、一緒にいた人物……」


 少年は言っていた。彼女は誰かの身代わりになったのだと。

 小太郎はもう一度あの憎たらしい日を思い出す。事故に遭う直前、彼女と一緒にいたのは誰か。彼女と出会う前、誰が彼女と一緒にいたのか。――しかしその答えは呆気なくて、悲しくて。一緒にいたのは紛れもない自分だと理解して、後悔した。


「――ああ、なんて」


 なんて、皮肉な答えだろう。

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