第9話 加護効果
興奮状態の私は、皆さんと一緒に裁縫のための仕事部屋に移動となった。
そしてそこで男の人は、あっさりと上着を脱いで渡してくれた。
ちょっと面白そうな表情で。
と、いうか肌着も……無駄に長い上着に隠れて見えなかったが、ズボンもろくでもねぇ縫製だった。
先ほど以上に頭に血がのぼった!
「ユイ、とりあえずソレを直してみなさい。あと女の子が男性の肌着やズボンを、脱げと言うような目で見ないように」
ロダン様が頭が痛そうに目元を押さえて言うので、しぶしぶ受け取った上着を見た。
無駄に長い上着は、ベルトで折り返し固定されていても膝を隠すほどだった。脱いで渡されれば、もう地面から一五センチほど…といった具合だ。
魔法使いのローブにしても、足首が微妙に覗いてる感がすごくダサい。
さらにはただの筒のような作りで、前も後ろもないような……ベルトで折り返してたくしあげてなければ動き辛かったのだろう。
さっそく仕事部屋にて、ロダン様と男の人に見守られつつ、邪魔な裾を切り落とそうとしたのだが、できなかった。
ガチッと音がして、鋏の刃が入らなかったのだ。
「う?」
「ユイ、その服は加護縫いされた服だ。刃は通らないよ」
ロダン様が苦笑して言う。
「加護、縫い」
「王の服は全て、ヌィール家当主が用意することになってるからな」
「王様?」
「やっぱり、聞こえてなかったか。前王のロメストメトロ・アージット様だ」
「おぅ」
うむ、驚いた。
よくあっさり脱いでくれたものだ。
たぶんロダン様への信頼が厚いことと、前王アージット様が強そうなのと、私が貧弱だけど、自分で刃が通らないことを確かめるまで納得しそうになかったからだろう。
「針子のユイ、です」
スカートのはしっこを摘んで一礼。
そういえばあまりの服の酷さに、挨拶を忘れてました。
反省。
しかし心の大半は、この残念な服をどうにもできないのかと、悔しくてたまらないという感情に持っていかれていた。
と、私の影からにゅっと男性型の精霊さんが現れて、腰の剣を抜くといきなり服にブッ刺した。
レイピアみたいな剣だった。抜いたの初めて見た。
あれ、飾りじゃなかったんだ。
「え……!?」
アージット様が目を丸くして、精霊さんを見る。
おじさまなのに可愛いな、この人……と思いながら改めて服を手にとれば、加護縫いの力がこもった糸が全て力を失っていて、あっけなくブチブチと切れた。
「おぉ」
親指を立てながらフッとクールに笑って(サイズ的にカッコイイより可愛いんだけど)影へと戻った精霊さんを、私が称賛した。
「えっ? いやいや、なんだ! 今の精霊!」
「えっ? なにがあったのですか? と、言うか、加護縫いがなんで切れ」
バランバラになった布やら宝石飾りやらを作業台に広げ、私は鋏を構えた。
「ユイ? あ、聞こえてないな」
「さっきもだが、いきなり鋏か?」
加護縫いなら私もできる。
ソレをばらすと面倒なことになりそうだけど、魔眼やら精霊さんに好かれてること、どうやら男性タイプの精霊さんの力がちょっと問題になるかもしれんことやらは、とりあえず脇に置いておく。
この屋敷の人達に慕われるロダン様の人柄と、そのロダン様が連れてきたアージット様を信頼して、私はとうとう人前で、全力の腕前を披露することを……決めた。
まぁ、理由の大半は、加護縫いの効果があるからって、こんなしょぼい服を偉い人に着せるかっ!? という、怒りであったりした。
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