第8話 前国王と
精霊は時々人に付く。精霊付きは病気になりにくいし、怪我の治りなども早い……当初の私の衰弱具合はかなりのもので、精霊を見られない、感じられない人もすぐに精霊付きだと判断できたらしい。
それ自体は、そう珍しいことではない。
とはいっても、普通なら生まれたばかりの精霊が気まぐれに守護(?)したり離れたりと、力ある魔術師以外は力の強い精霊に常に守護されることはないらしい。
だから確実な力を宿す守護縫いができるヌィール家が、あのろくでもない人達が、力を持っているのだ。ついでに、気まぐれで蜘蛛の糸に精霊が力を宿してくれることもあるしね。
で、私に常に纏わりついている精霊は基本三体だ。
初めて精霊治療してあげた……今では花飾りがお姫様みたいな精霊さん。
白いうさ耳に先っぽだけが仄かに青い、天女っぽい衣装の精霊さん。ちなみに長いスカートの中は魚。うさ耳人魚さんである。
そして紫色で大抵私の影の中にいる精霊さんは、珍しい男性型だ。
他にもこれまで繕ってあげた精霊さん達が入れ替わり立ち替わり遊びに来てくれる。
でも基本ヌィール家では、こっそり人のいない時にだった。
三体も人のいる時には出てこなかった。
今はもうお屋敷に安住してるんじゃ? ってくらい、のびのび飛び回り使用人さん達にも懐いている。
……というか、傷ついてる精霊がよくいたヌィール家がおかしかった。
呪霊師がいたのかもしれないことは、スクル様とロダン様には話した。
いや、私のことを知った精霊達が仲間に教えて、それで治療してもらうために来てたのかと思ってたけど、この家に来てからスクル様が保護してた精霊達以外、傷ついた精霊に会わないし。
魔眼持ちのスクル様が言うには、基本精霊は普通の人達には見えないので、隠れたりとかはしないんだそうだ。ただ嫌いな人間には近付かないし、姿も隠すみたいだけど。
うん、怪しい。
そういったことをちょろっと言ってみたら、スクル様は「了解しました」と、にっこり微笑んだ。
ロダン様も、にっこり笑っていた。
なんかちょっと、味方で良かったと思わせる笑みだった。
そんな感じで、精霊もこの屋敷に慣れ、私もなんとか仕事に完全復帰して少したった頃、私はロダン様に呼ばれ、屋敷の客間にて、ある方と引き会わされることとなった。
◆
なにこれ最悪。
ロダン様に連れられて来た男性を見て、まず思った正直な感想がコレである。
本人はイケメンでとても素晴らしい方だと思う。
群青色の髪と琥珀色の目、さらに顎に髭を蓄えた長身細身(細マッチョってやつですな)で手足の長い、見事なモデル体型のおじさまである。
前世の外国の男優にいそうな、ちょい悪親父風色男タイプである。
いや、中身が良すぎるから、余計悲惨である。
落ち着いた黒と群青色の挿し色……色味はともかく、服の裁断から縫製、全てがことごとく残念なのだ。
「ユイ、この方は前国王様で」
ロダン様がなにやら紹介してくださっているが、ほとんど耳に入らないくらい愕然としてたと思う。
はっきり言って、この服作った針子は馬鹿かと。
最高のモデルに、よくも恥ずかしい腕前の服を着せられたものだよ。
「ふく、ぬいでくださいっ!」
うん、女の子が初対面のおじさまに発する第一声ではないね……
「こんな、ひどい、ふく、ゆるせな、ですっ!」
目を丸くしたお二人に、私は拙いながら必死に訴えた。
もし上級社会でこんなのが流行りだとしても、認めぬぇっ!
「そんなに酷いか?」
きょとんとした表情は、結構なおじさまのくせに若く愛嬌があったが、どうも自身の身を飾ることに無頓着っぽい。
着ている人の姿がとてもいいから、無駄に高価な宝石なんかの縫いとりがゴロゴロ趣味悪く配置されても、辛うじて普通の人には見られるのだろうけど。……針子高レベル(?)の私からしたら、布地も装飾品も高級品だからかなり上級貴族の人のはずなのに、ちゃんとした針子を選べと訴えたい。
「わたし、あなたのふく、つくりなおすっ!」
着心地からして、針子の価値を魅せてやるっ!
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