第7話 レース編み

 色々な意味でやばい容姿だと判明し外出禁止令を出されたため、休日には高速でレースを編み込む私。

 蜘蛛が吐き出す糸は、細さや透明度も自由自在なので、糸代金ゼロ。レース編み用の道具さえあれば、無限に生み出すことのできる趣味となります。

 魔力を込めないと半透明から白……と、色合いのバリエーションはないですけど。

 リハビリ中も、真っ先に感覚を取り戻したかったのが、この人生で会得した針子技術だ。

 指の感覚が鈍っていると気がついた瞬間の、血の気がひく思いはもうしたくない!

 自分でもちょっと人間離れしたとしか表現できない速さと美しさ……でも仕事部屋以外で針仕事はできない。

 なにせ針、刺す物だ。

 まぁ、自分は一本しか持ってないから、管理もなにもという状況だが。

 私の不調が急速な成長痛だと知ったリーヌさんがプレゼントしてくださったのが、このレース編み用の道具だった。

 さすがに前世でもレース編みまではしてなかったのだけれど、編み物はしてたし、リーヌさんに基本的な手本を教えられただけで、技術会得しました。

 もしかしたらこの世界って、レベルとかスキルとかあるのかもしれません。

 私、裁縫関連に対して、レベル最上位なのかも。

 高級そうなレースを自分で生み出せる喜び、たまりません。

 一層仲良くなったメイドのお姉様方には、嫁入り用のベールとして欲しいわときゃっきゃっと褒められました。

 やっぱりこの世界でも結婚式はウエディングドレスなのでしょうか?


 ぬ、縫いたい、作りたいっ!

 綺麗なのとか、可愛いのとか、清楚なのとかっ!


 今の私なら、材料さえあれば余裕なのですよっ!


「お嫁さんのドレス、つく、りたい、ですっ」

 私が目を輝かせて言うと、お姉様方も手を挙げました。

「作ってユイちゃんっ、資金ならたっぷり出せるわっ」

「私もっ」

「私もぉっ」

 そんな休憩中なお姉様方に、通りかかったメイド長様……濡れたような紫色の髪と黒い瞳で、溢れんばかりの毒のような色気を纏った……ん? 魔王様の女幹部? というような威厳をもった年齢不詳な彼女、エンデリア様がそっと顔を覗かせ、一言零して去って行った。

「婿か恋人を見つけられてから、ユイにおねだりなさいね?」

 メイドのお姉様方は、一斉にビシッと背筋を正されて……それから一斉に両手と両膝を床についた状態となった。

 なんか前世でも友人や先輩達が、ショックを受けた時に表現していた文字に似ている。

「えっと、みんな、いない、ですか?」

 皆、美人なのにと、心底不思議だと思う私に、お姉様方は深くため息をついた。

「あのね、この屋敷でちゃんと働いてるメイドの大半は、ろくでなしな婚約者が嫌で実家と縁を切った娘達か、メイド仕事に生きがいとか誇りがあって人生捧げちゃってる娘達か……いい男を捕まえて、メイド仕事をすることも応援されてる勝ち組しかいないのよっ」

「はは、まれに恋人ができても、仕事と俺、どっちが大切なんだとか言い出す女々しい男しか」

「んなこと言い出す時点で、仕事の方が大切になるわ!」

「分かるわ~、さらにアホなのになると、ロダン様が好きなのかとか、心底アホか! 主人に色目を使うようなメイドもどきとかと一緒に見られるなんて、侮辱、許すまじっ!」

 彼女達の体から、ろくな男がいやしねぇと吐き出すようなオーラが湧きあがった。

 あぁ、仕事にプライドと生きがいを持った、ハイスペックな女性達の悲哀……もうちょっと結婚適齢期を過ぎてしまうと、仕事に人生を捧げる分類に入ってしまうのですね?

いい男が捕まらないかぎり。

「ま、へたな男、に、つかまる、より、幸せ?」

「ユイちゃん、言うわね……」

「父、母、見る……夢、見れない」

「あぁ」

「うん」

「なるほど」

 子供を道具扱いが前提の夫婦だ。妹はよく結婚に夢を抱けるもんだ……なんか、あの子の脳みそ具合が、いまさらながらに心配。

 ちなみに前世でも、結婚に夢を見たことなかったなぁ。亭主関白な父と言いなりで奴隷のようだった母。……ある意味あの夫婦も子供を自分の優秀(?)な遺伝子を引き継がせる道具としてしか見てなかったと思う。

 大学に行かずに就職するってだけで、縁を切られたしね。

 自分の思い通りにならないと怒鳴る父と、どうしてお父さんの言うことが聞けないのと泣きながら叱る母。一番身近な夫婦があれだもの。恋愛に夢など、欠片も抱かなかった。

 ある意味、それくらいですんで良かった。友人、先輩達に恵まれていなかったら、人間不信に陥っていたと思う。

 それか全てを放棄して、親の言いなりの人形か……。

 あの家庭環境で、よくぞ反骨精神たくましく成長できたものだと、今世の私は感心する。

 前世は最低限の命の保証があったからなぁ……高校は卒業した年齢だったし。

 ここじゃ、下手に家出したって孤児院に行きつけるか保護されるかも謎だったしな……知識が簡単に手に入らないのは痛かった。

「けっこん……かぁ」

 針仕事さえ取り上げられなければ、どうでもいい……と、恋愛願望の枯れている私であった。

 熱に魘されている時にロダン様のいくつかの質問の一つに、そう答えたことを思い出したのは、ロダン様に彼を紹介された時だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る