第5話 寝込み中

 精霊を見られるとか、私の加護縫いが傷ついた精霊の治療になるとか、それらが色々と権力関係的にヤバそうとか……生家に知られると面倒臭いことになりそうなアレコレを、教えられて……もうちょっと世間的な常識を知るために勉強しようか? と言われてしまいました。

 わーい、頑張る! あの家から逃れるためにも!

 力んだが、明日からと言われて気が抜けて、とりあえずメイドさん達の下着をめちゃくちゃ作ってその日は終わったが……。

「おや、ユイっ」

 翌日、朝一番にリーヌさんが、慌てて私の頬を掌で挟んだ。

「顔が真っ赤だ。熱があるんじゃないかい?」

「ふへ?」

 朝起きてから、なんかだるいなぁとか、ぼーっと思ってはいたが私に自覚はなかった。

「熱が出てるよっ」

 使用人部屋は基本、二人一部屋。

 リーヌさんと私は、同室だ。

 着替えかけていた私を、リーヌさんは再び寝巻に着替えさせて布団に戻した。

 そんな私を精霊達が覗きこむ。

 自覚の薄かった一因がこれだ。


 これまで私は、あの最悪な環境で病気になったことがない。

 風邪とかひきそうな体調になると、精霊達が寄ってきて、撫で撫ですりすりしてくれるのだ。そうすると不思議と体調は持ち直し、とりあえず病気にはならなかった。

 怪我もそうだ。

 妹が悪戯で投げつけてきた石で額を切った時も、慌てて集まって撫で撫ですりすりぺろぺろだった。結構血が出たことに驚いた妹が、自分でやっといてビビったのか大泣きして騒ぎになり、メイドが面倒そうに手当てをしようとした時には擦り傷ほどになっていて、こんな傷で大騒ぎしてっと、私が怒鳴られ平手打ちをくらったのだった。

 それにも精霊さん達がわっさり集まって、撫で撫ですりすりぺろぺろしてくれた。怪我をした瞬間は痛かったが、その痕も残らず消えて、腫れもしなかったし額も綺麗に治ったのだった。

 私が病気や怪我をすると、ほんの擦り傷でも精霊達がそうやって治してくれていたのだ。


「はふ」

 布団でじっとしていると、じわじわと違和感に気づいた。

 体中がミシミシと痛い。

 筋肉痛にも似て、しかし異なる痛みだ。

 じっとしていられなくて寝返りを打つと、関節の節々がずれたような別種の痛みが私を襲った。

「うぐっ」

 痛みとか体調って、自覚すると一気に悪くなるようなことってあるよね?

 そんな感じだった。

 さっきまで普通に起きて仕度しようとしていたことが、信じられないくらい辛い。

 ぎゅっと丸く小さくなって耐えていると、初日に私を診察してくれた初老のお医者様がリーヌさんに引っ張られて入ってきた。

「おぉ、ユイ、どうしたね」

「熱があるみたいなんだよ、ってさっきも言ったろっ」

「どーれ」

 手を取られ「うっ」と呻いた。

「ユイ? さっきよりも辛そうだ。早くなんとかしておくれよっ」

「慌てるでない。……微熱じゃが、うむ、変じゃな」

「もしかして昨日、精霊治療とか、させられたせいかい?」

「落ち着かんか、血の流れが聞こえんじゃろうが。ユイ、どこか痛いのか?」

 リーヌさんは落ち着かない様子だったが、医師助手っぽいメイドさんが彼女の肩を抱いて医師から引き離してくれた。

「からだ、いたぃ」

 どこがどうとは具体的に言えない痛みに、ぽろぽろと涙がこぼれた。

「精霊付きの子供はめったに病気や怪我はせんのにのぉ……昨日は筋肉痛になるほど働かせたかの?」

「人聞きの悪いっ。こんな小さい子をこき使うような人間はこの家にはいないよっ! ……ただこの子は、針子の仕事は、監視しておかないとむちゃするけどね……」

 うん。ごめんなさい。

 昨日は精霊治療して、メイドさん達の下着も、張り切ってしまったよ。女性陣の下着は、二着ずつ全員分用意してしまったほどに。

 でも、体調悪くするほどの無理はしていないはず?

 ……お医者様の『筋肉痛』という言葉に、私は落ち着かない痛みの中で気づいた。

 うん、前の人生でも経験したことはあった。

 こんな熱が出るほどでもなかったし、ほとんど忘れてたけど。

 これってもしかして?

「……せい、ちょ、つう?」

 お医者様が、ぽんっと手を叩く。

「おぉ、おぉ、そういえばユイは一五歳だったのぉ。栄養が行き届いてやっと一気に始まったのかもしれん」



 ということで、現在絶賛寝込み中です。

 全身を襲うだるさと節々が外れているかのような気持ち悪い痛みに、発熱のためか頭も痛くて辛い。

 じっとしていても動いても、それぞれ別の種類の痛みが私を襲っていた。

「いたぃい」

 成長痛は筋肉痛と同じように、精霊の撫で撫ですりすりはこない。

 筋肉痛とかも一種の成長痛だもんね。

『治療』をしては、本人のためにならないのだろう。

 その代わり飲み物や食べ物には、積極的に浸かっている。

 外見年齢一〇歳で止まっていた成長が、一気にきたのだ。

 強張った筋肉をほぐすためのマッサージを、悲鳴をあげながら受け。

 ほとんど動けない私を、皆さんは親身になって世話してくれた。

 お風呂はもちろんトイレもね(泣)。

 ロダン様までお見舞いに来てくれて、頭を撫でて行かれました。

「今後の詳しい話は体調が落ち着いてからだな。悪いが先に対策をとらせてもらうからな?」

 はい、お願いします。

 もう難しい話は、全部丸投げしてしまった私だった。

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