第5話 抜け出せない想い。

「いいかげんさー外出ようよ」

あいつが久しぶりに鍵を開けて部屋に来た。来るなり説教だ。参ったもんだ。

「出てるよベランダとコンビニに、夜にね」

「タバコを吸いにベランダに出て、なくなったからコンビニに行く」

にやり、とあいつは笑った。その顔のラインのシャープさは増しているようにも見えたが見えないふりをした。不健康なふたりは朝焼けから黒いカーテンに遮られ、ほのかな暖色灯だけに包まれていた。

何かが違う。いつもの空気ではなく、何かが違う。時は流れているのだ。それならばいっそ。。。

「そろそろさ、戻ろうと、思うんだ。だからさ、一緒に、行かない?」

ゆっくり、区切って、あいつは言った。繋ぐ二つの糸がギリギリまで伸ばされる。あとは、ぷちん、とハサミで切るか、ライタを捨てる時が、来たのだろう。どちらを選ぶのか自分でもわからなかった。そして。。。


思い浮かべた幻想に、ぽつり、呟いた。

グラスを割ってそ上を通りながら血のついた足でそっと向かう。もう、僕に意思はなかった。



拝啓、あなたへ。


どこまでも不器用に迎えが来るときまで足掻こうと思うんだ。あなたから必要とされることで僕は僕で生きてゆけるんだ。

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拝啓、あなたへ。 久保香織 @kaori-s

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