第4話 眠れない朝に。

夢を、見た。どんな夢かは覚えていない。ただひどく嫌な気分だった。いつか教えてもらった炭酸水で浄化しようと飲んでみたけど変わらなかった。

「何が、浄化してくれるのー、だよ」

一人呟いてベランダに向かう。青色のキャンバスに白と光が見える。持っていたライタと煙草、アークロイヤルを握りつぶして布団に戻る。

光は、嫌いだ。

眩しいから。


それの日から、夢を見た日から、僕の不眠はひどくなった。


一人が好きだ。人は嫌いだ。

そういう人間が一番さみしがり屋の人を求める生き物だと僕は知っている。なぜって?

ぼくが、そうだから。


ピンポーン。

滅多に鳴らないインターホンが鳴る。ここに訪ねてくるのは一人しかいない。ついでに鍵は持ってるはずだ。出迎えろ、確認もせずにそういう意味だろうと玄関に向かう。

ガチャリ、開けると予定していた姿と違う人間がいた。

「えーっと?」

僕は尋ねながらこの姿勢は何処かで見たことがある、と思いつつ誰か思い出せずに名前を問うた。

「ごめんね、ちょっと個人情報を利用させてもらった。住所と名前見たくらいだから」

猫背の男はそう言ってコーヒーを差し出した。コンビニ限定の毎日買ってるやつだ。

しばらく考えて、あぁ、と思う。

あの猫背の店員か。

「最近来てなかじゃないですか、みんな心配してたんですよ、絶対これ買いに来てたのにって。余計なお世話かもしれないけど」

あのコンビニは店員が固定されている。情報共有てやつか。

「あーちょっと待って、金、えっとー、何本?いくらだっけ?」

押し売りに近いなと、これはいわゆる消費者センターに電話した方がいいやつじゃないか?と思いつつ財布を取りに戻ろうとする僕を猫背の店員が止めた。

「お見舞いです、また来てください」

そう言って立ち去った。玄関にコーヒー三本とアークロイヤルを残して。


光が襲ってくる。照らし出す。何もかも。逃げ出したくて逃げ出したくて走るけど、のみ込まれてく。光にとけて、照らし出されて、喜怒哀楽すべてさらけ出される。

ガバッ、と起き上がると汗びっしょりだった。くそう。なんなんだ、そう思いながらシャワーを浴びる。睡眠不足は続く。外には出てない。季節は変わったかもしれない。いつかあのコンビニの店員が持ってきたまま気持ち悪くて飲めなかったコーヒーを飲む。何もかもどうでもよかった。此処から、逃げ出せるのなら。夢を、もう見なくてすむのなら。


記憶と記憶が交差する。どこまで生きれば許されるだろう。


なぜか、今日はあいつの顔が見たくてしかたがなかった。



拝啓、あなたへ。


温もりほど痛いものはないよ。ありがたいけれど、遠慮したかったな。それほど器用にできてないんだ。

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