休日デートは、勉強の邪魔をする為にある。
赤眼鏡の小説家先生
邪魔し合うデート
僕の名前は––––いや、僕の名前なんてどうでもいい。大事なのは僕は高校のテストで100点しかとった事がないという情報だけで十分だ。
そんな漫画や、小説の中の登場人物みたいな事を平気でやってしまうのが、僕という男子高生なのである。
なのでこのままいけば、卒業式で成績最優秀の生徒が担う『答辞を読む』という役割は僕になるはずなのだが––––この学校にはもう一人100点しか取らない女生徒がいた。
名前は、
苗字に百という文字が使われている時点で、もうなんか強敵である。
百済も僕と同様に、100点しか取らない。おそらくこのままでは高校最後のテストも100点を取ってしまう。
もちろん僕も、間違いなく100点を取る自信がある。
つまり、僕が卒業式で答辞を読むためには、百済の点数を落とすしかないと考えた。
そして、それは彼女も同じ考えだったようで、僕と百済はお互いにLINEで頻繁にやり取りしたり、長電話をしたり、時間のある休日に一緒に遊びに行ったりして、お互いの勉強する時間を削る作戦に出た。
そして、今日はもっとも大切な日でもあるテスト前日の日曜日である。
集合場所の駅前で待っていると、何回か見た事のある服装をした百済が小走りでこちらにやってきた。
「やぁやぁ、テスト前日に遊びに誘うなんて、
ちなみにこの『九十九』というのは僕の苗字である。九十九と書いて、『ツクモ』である。
……だから言いたくなかったんだよ!
「そういう、百済だって、こうやってテスト前日に誘いに乗ってるんだから余裕そうじゃないか」
百済は「まぁねー」と微笑んだ。本当に余裕そうな笑顔である。
このままでは明日のテストで彼女は、百済の如く100点を取られてしまうのは目に見えている。なので、勝負を吹っかけるのは今日しかない。
僕の作戦は至ってシンプル。
告白する。
告白して、返事はテストが終わってからでいいよと言い、テストに集中出来ないシチュエーションを作るってわけだ。
いや、これは決して好きでもないのに告白するとか、そういうやましい事をするのではない。
僕は、百済のことが好きのだ。
いやだってさ、毎日LINEでやり取りしてさ、長電話とかしてさ、休日に一緒に遊びに行くとかさ、それもうデートじゃん?
好きになっちゃうに決まってるじゃん? 百済って結構可愛いし。
だから、邪魔をするという目的はあるのだけれど、あわよくば百済と付き合いたいという一石二鳥作戦を本日決行するのである。
ちなみに、今日の作戦としては映画を見て、ちょっとスタバとか行って、ゲーセンでぬいぐるみとか取っちゃったりして、それで最後に告白するデートプランである。
「九十九くん、早くしないと映画始まっちゃうよ?」
と百済は僕の顔を覗き込んでしたため、僕は一旦考えるのをやめ、少し急ぎ足で映画館へと向かった。
なーに、映画を見ながらでも考える時間は沢山あるからな。
––––と思っていた。
映画館に入り、ポップコーンを買い、百済が見たいと言った映画のチケットを購入し、いざスクリーンを前にすると、そこにはコテコテのラブロマンスが展開されていた。
いや、ラブロマンスというか、もうなんかベロチューって感じ。お茶の間で流れたら、空気がヤバくなる感じ。
だから僕は咄嗟にスクリーンから目を逸らしたのだけれど、百済も同様にスクリーンから目を逸らしていたようで、僕たちは見つめ合う格好になってしまった。
「あっ……」
百済は小さく吐息を漏らすと、そっぽを向いてしまった。暗いからよく分からなかったけれど、少し頬が赤かった気がする。
目を凝らして反対方向を向いた百済を見ると、耳が真っ赤ではないか。……なんだ、寒いのか。
僕は映画館で借りたブランケットを、百済にかけてあげた。すると、百済はビクッとした反応を見せた。
「えっ、な……なに?」
「寒いんだろ、使えよ」
「あ、うん……ちょっと寒いかな、ありがとね」
百済はお礼を言ってから、僕の貸してあげたブランケットに包まってホッコリとした表情を浮かべる。ちょっとミノムシみたいで可愛い。
いつまでもミノムシ百済を見ているわけにはいかないので、再びスクリーンに視線を戻すと––––ベロチューは終わっていた。よかった。
場所は変わってスタバ、普通なら映画の感想とかを言ったりするのだけれど、なんだか気まずい感じの映画だったので、今日はそういうのはなかった。
というか、いつもアクション映画とか、アニメとかを見たいと言う百済なのだけれど、今日の百済は何故か、ラブロマンスを選択していた。
思えば、初めての事だったかもしれない。
「なあ、なんで今日はあの映画が良かったんだ?」
「別にー、なんとなくだよ、なんとなく」
「いつもは違う映画を見たいって言うじゃないか」
「そういう日もあるってことだよ」
曖昧な返答である。『行けたら行く』くらい曖昧な返答である。百済はそれ以上その話をする気はないようで、「この後はどうするー?」と尋ねてきた。
「ゲーセンとか、カラオケとか行く?」
「あっ、なら、プラネタリウムがいい」
「そういえば、前に星が好きとか言ってたな」
「うん、私が好きなものを、九十九くんにも好きになって欲しいなって」
プラネタリウムか、確かこの近くにあった気がする。
「じゃあ、行ってみようか」
というわけで、またまた場所は変わって、プラネタリウム。僕は百済と並んで、寝っ転がっていた。
人をダメにするクッションみたいな、横になれる椅子みたいな何かに僕と百済は揃って寝っ転がっていた。
プラネタリウムというのは人気がないのか、それともただのタイミングかは分からないが、僕たちの他にお客さんは居なかった。
「貸し切りだ」
「貸し切りだねー」
そんな事をいいながら、天井に広がるプラネタリウムを眺める。
ふと、百済が少しこちらに近寄ってきた。
「なんだ、寒いのか?」
「うん、だから少しくっ付いてもいいかなって……」
「仕方ないな」
僕が了承すると、百済は遠慮気味に体を寄せてきた。
百済の体温を感じる。百済の吐息が聞こえる。唾を飲む音さえ聞こえる。
なんだこれ、なんだこれ、なんだこれ。
動揺する僕に対して、百済は僕の耳元で囁く。
「ねえ、明日100点取らないであげよっか?」
唐突に言われたその一言。僕は当然のように、返答に困った。それは僕の望んでいた事であり、そのために僕はこれまで色々やってきたのであり、それは百済も同様だと思っていた。
なのに、その百済が自らそれを提案してきただと⁉︎ 意味が分からない。
「……なんでだよ」
「だって君は私より、いい点数が取りたいんでしょー? そのためには私が点数を落とすしかないでしょ?」
そういう意味で聞いたのではない。ないのだが––––その返答は意外で予想外のものであった。
今までお互いにテストで相手にいい点数を取らせない為に、妨害する為に、LINEでやり取りしたり、長電話をしてり、休日に一緒に遊びに行っていた僕たちだけれど、そのこと––––つまりお互いの思惑、相手にいい点数を取らせないために妨害しているというのを口にした事はなかった。それはお互いの共通の思想で、暗黙の了見だと思っていた。
だから、百済がそんなことを言ったのが信じられなかった。
「なんで急にそんなこと言うんだよ」
僕がそう尋ねると、百済は大きな溜息をついた。というか、僕の耳に息を吹きかけた。
「九十九くんは本当に勉強以外は、ダメダメなんだねー」
「バカにするなよ」
「ううん、九十九くんはバカだよ、大馬鹿だよ、私が好きでもない相手の為に、勉強の時間を削ると思う?」
「は……はい?」
「九十九くんは誤解してるよ、私は君の点数を下げるために、LINEしたり、長電話したり、一緒に遊びに行ったりしたんじゃないんだよ? 私は九十九くんの事が好きだから、もっと君と話したいからそうしたんだよ」
つまり百済は、最初から僕の事が好きだから、勉強の時間を削っていたという事になる。
というか、これただの両思いじゃん! どうしよう、告白して相手を困らせる気満々で来た僕だけれど、逆に困ってしまった。
僕が返答に困っていると、百済は僕に抱きついてきた。
「好き、私と付き合って」
そして……。
「ぐあー! 99点取っちまったー!」
「やった、私の『可愛い彼女が出来て、浮かれてテストの点数落としちゃう作戦』大成功!」
まんまと百済の術中にハマってしまった僕であった。
休日デートは、勉強の邪魔をする為にある。 赤眼鏡の小説家先生 @ero_shosetukasensei
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