短編できたから上げるね

らと

「こんなに興奮していけない子だ」という台詞を使って短編を作りなさい

「いやあ、しかし悪いなぁ……まさか君の分まで持ち帰ってしまっていたとは」

「別にいいですよ。……できれば明日にしてほしかったけど」

「『善は急げ』という言葉があってな」

「……先輩、それ飲み終わったらホント早く戻ってくださいね」

「まだ私来たばっかりだぞ」

「もう遅いですし」

「何を言っているんだ、夜はまだこれからだろう?」

「数時間も寝れば朝ですけど? ――それに!」

「んー?」

「こんなの、誰かに見つかったら大目玉喰らうじゃないですか」

「……それはあれかあ、俗に言う『クラスの人に噂されると恥ずかしいし』ってやつか?」

「俗に……俗に言うのかなあ、それ」

「おかしい……私のステータスはかなりのハイスペックであると自負しているのだが……あとはなんだ、フラグか? フラグが足りないのか? それとも好感度か? くそう、誰に電話して聞けばいいというんだ!」

「……少なくともリアルな人間の好感度は誰にも測りようないんじゃないですか?」

「お、それは『測れないほど高い』ということか!」

「測れないほどに低いかもしれませんよ」

「ふふ、このツンデレヒロインめ」

「誰が金髪ツインテールだ! ていうか俺がヒロインなの……?」

「君ほどの適任はいないだろう。光栄に思いたまえ」

「不名誉の極みだわ」

「なぜだいー。私とネオロマンスしようじゃないか、なあ?」

「なるほど、光栄から連想したな?」

「まったくわがまま子猫ちゃんだなあ我がフェアレディは」

「……俺、完全に男として扱われてないな……?」

「問題無いぞ、男の子だってお姫様になれる!」

「なりたい場合の話ですよねそれ?」

「君は私のお姫様になりたくないのか? 今ならたくさん可愛がってやるぞ、私直々ご寵愛しまくって差し上げるぞ」

「ご辞退いたしますです……可愛がられは今でも十分なので」

「……さらなる高みを目指したくは」

「ないです」

「そんな」

「いくら美人つってもこんな変人とじゃあ名誉より不名誉の方が勝るっての……」

「……美人か、私は?」

「耳ざといな! ……こないだ自称してたじゃないですか。『さすが私、天才だ! おまけに世界一顔もいい! ※私調べ!』って。その場にいた人みんなに聞こえてましたよ。急に叫び出すんだから、もう……」

「まあ、そうなんだが……。……えっと、……君自身は……どう思う?」

「え、普通に美人だと思いますけど……。中身すっごく残念だけど」

「…………。……そうか、私は美人か、そうか、ふふ……」

(情緒が不安定なのか?)

「――そうだな、君が難攻不落の美少女ヒロインでなければ一体どういう理由があるというんだ?」

「急に話を戻してきた」

「私の立ち返り速度はフリーズドライの味噌汁にも匹敵する」

「いつお湯が注がれたんだ……」

「ところで先程のお代わりを頂きたいのだが!」

「あー……もう勝手に取ってどうぞ……」

「うまい」

「返事の前に取ってたかー」

「玉ねぎ入りの味噌汁には目が無くてな……。とりわけフリーズドライはだな? こういう玉ねぎと油揚げだけのシンプルな味噌汁というのは非常に少ない、というかまず無い。大抵わかめとかが入っている」

「たしかにあんまり見かけないかもしれないですね」

「うん……」

(わかめ苦手なのかな)

「――――はあ、おいしい……。毎日飲みたい……」

「毎日飲んだら血液サラサラですね、玉ねぎの効果で」

「なりたい……君、私の血液をサラサラにする気は無いか……?」

(新手のプロポーズか?)

「……なんだか古典的なプロポーズの台詞みたいだな……」

(そういえばこの文言、有名だけど誰が言い出したんだろうな)

「よし、結婚してくれ」

「手段と目的!」

「じゃあ君の味噌汁と結婚する……」

(駄目だ、好物を前にして天才がどバカになってる)

「んへー、おいしー……」

(……本当に好きなんだな。一口飲むたびちっちゃい子供になったみたいな、すごく満足気な表情になるんだもん)

「……飲み終わっちゃった……」

「また明日ご馳走しますよ」

「明日もいいのか!?」

「夜は止めてくださいね」

「よし、ならば朝一番に――」

「夕方頃で」

「話を戻そう」

「都合の悪いことから目をそらさない」

「今戻らなければまた話が逸れるぞ」

「あー……。――それはほら、なにか間違いが起きたらどうするのか――って」

「間違い」

「だってほら、深夜の学生寮で年頃の男女が二人きり、ですよ。……なんていうか、そういう間違いが起こってもおかしくない――みたいな解釈をされるのが定説だと思うんですけど」

「起きるのか?」

「起きないけども」

「起こす気あるのか?」

「気もないけども」

「というかそれは『男女』に限った話なのか? 同性間なら安心アンコール・ワットという保証も無いだろうに」

「あ、うーん……場合によってはあり得るかもだけど……」

「そも一定の信頼が築かれた上で起こるそういった『間違い』とはその場の流れで雰囲気で――とはいえ果たして本当に『間違い』と言えるのだろうか? 一時の感情とはいえ――だ。そこには確かに――」

「面倒くさいなあこの人!!!」

「それほどでもないんじゃないか?」

「これほどだったら十分だよ!!! てかこういうトコだからな、本当に!」

「どういう所かまったく解らんな」

「しまった、面倒サイドの人間には自分が面倒サイドにいることがまったく理解できないんだった」

「ふむ……」

(あ、なんかろくでもないこと考えてるな?)

「――よし、起こすか!」

「え!? ちょ、なにす――」

「折角だしこの状況をとことん享受しようかと。――ということで、だ。手始めに君からとことんいやらしい目に合わせてやるとしよう」

「最初からクライマックス!!!」

「逃げても無駄だぞ、――っと」

「しまっ――!」

「ふふ、……つかまえた」

「ひあああっ!?」

「ん? ……なるほど、君はこうして――――耳元でこそっと囁かれるのに弱いフレンズなんだな?」

「やめ、――――っ」

「ほら、大人しく観念したまえ? ……下手に動けば貴様の関節が逝くぞ」

(さり気にえげつねえことしやがる!!!!)

「事の重大さが分かったな。理解したなら無駄な抵抗は止めたまえよ? ――うん、そうだ。暴れなければ手荒な真似には移らない。安心したまえ」

(俺、人質かなんかかよ……。てか耳元でこんなぼそっとされたら嫌でも力抜けちゃうから……)

「お、……そうだ」

(またろくでもないことを思いついた予感)

「……君、そのまま力を抜いてろ? ――――……」

息、吸って――これはもしや

「…………ふーっ……」

「んん、……っ!」

「ふふ、どうだ? こそばゆいか? ぞくぞくしてしまうか?」

(……やば、……もう力、入らない……!)

「――おっと。……さすがに軽く抱きかかえる程度にしておくか。よしよし、もう完全に身を任せてくれたな。……いい子だ。撫でてやるぞ……」

(やばい……。なんか、ぼーっとしてくる……)

「ぎゅうー」

(あ、いい匂い……。……ちょっと味噌とか混じってるけど……でもかえって落ち着くっていうか……なんか……ねむい……)

「そしてすかさず手を突っ込む私」

せなかひあっ

「ふふ、油断していたな? このままぐっすり夢の中へと誘ってやる訳が無いだろうに」

「んん……、――っ! ふあぁ――っ」

「身体が小刻みに震えているな……。直に触れているからよーく分かるぞ。……さぞかし君は、蕩けた顔をしているのだろうな」

(くそ、悔しいけど自覚はある……)

「……その顔、見せてはくれないだろうか――?」

「――――ぁ」

「…………」

「っ……なんか、言って――っ」

「――――…………」

(…………わ)

「――、……キスしてしまった……。――き、……君が可愛いから」

(……そんなしおらしい顔されたら、こっちまで余計、すごく――)

「……ふふ、顔が真っ赤だな。……私も熱いが、君にはきっと敵うまい。……とっても可愛いぞ。世界一だ」

「……かわいい、とか、……その、やめて……」

「本当、耳まで真っ赤だな。……なんだか、とても美味しそうだ――」

「や、――――っ!」

「ん、――――、……はぁ、出汁が利いてる……」

(どう、どういう表現、なに)

「……前にも触りたいな」

「あ、――や、シャツ……手ぇ、入れない、で……!」

「――君の胸、すっごくどきどきしてる……」

「ひぁ」

「……可愛い。……もっとどきどきさせたい……」

(いかがわしい、いかがわしい本当に、胸触りながら耳舐めるとか本当に……あ、だめだ余計いかがわしく思えてきた、――っ、やめ、ちょ、息かけるのだめ――!)

「ふふ――びくーっとしたな。すごく大きく仰け反っていた――」

「やめ、て、……恥、ずかしい……から、やだ、……言わな、いで、くだ、さ……」

「――もっと恥ずかしくしたい」

「…………っ! ずるい、――っ!」

「……まだ直接触れていないんズボンの上なんだが」

「触る、つもり、……だったのかよ、……っ」

「……本当に? こんなに軽く触れただけで?」

「やめ……! だっ――部屋着だか、ら……っ」

「たしかに生地は薄いようだが……」

(認めたくない、この先輩にここまでされただなんて絶対に……!)

「ほう、なかなかに弾力があるな。触っておいて今更、だが……」

「……っ!」

「心なしか、少し硬くなったような気がするな……」

「き、気のせいじゃないですか……?」

「ふむ?」

(ちょ、俺の顔こっち見ないで――!)

「……ほう」

「……な、なんでいきなりこっちを」

「――目を逸らしたな。図星、正解、その通り――という訳か」

「あ、明日のみそ汁についてなんですけど」

「都合の悪いことから目をそらさない」

「ぐっ……」

「――だろう? 観念したまえ」

(くそ、よりによってこんな時にブーメランがっ!)

「フフフ、こんなに興奮していけない子だ――というやつだな」

「……っ、せ――生理的反応だ、……っ!」

「君の意志では……」

「っは、……力の抜けきったところに、多少っ、……気を許してる相手に、……やらしい触られ方されたら……っ、誰でも、……そうなるっての……! ……はぁっ、……そんくらい分かれっ、……天才……!」

「……私に気を許してるのか?」

「うぇ、――え、と」

「まあ……許してるよな。……こうしてちょっかいをかけても突き飛ばしたりしないで、されるがままにいてくれるものな」

「それは――先輩がこういう……面倒くさいひとだって分かってるからだし、……なんかもう、諦めてる……っていうか……。……あ、あと俺、『意外と心広いよね』――とか言われるのも多い、……みたいな」

「『面倒くさいひと』である私にとことんまでつき合ってくれるのは、それは君が『人が良い』という理由だけじゃあ説明が付かないんじゃないのか」

「……美人で天才の先輩だから大目に見ちゃってる、とか」

「だったらもっと私を丁重に扱うだろう? 割れ物注意の荷物――いや、皮膚に貼り付いたガムテープ……とでも称するべきだろうか」

(もはや危険物ってか……)

「だが君はそうではない。君はとても優しいが――そういうのとはまったく違う、と私は認識している。仮に君がそういったタイプ人種なら、そうだな――例えばもっと物言いに気を付けるだろうよ」

「す、すみません……」

「ううん、いいんだ。……嫌なら私もなにか言っている、というか関わる事すらお断るくらいだ。それはもう、心のシャッターぴしゃーだぞ、君」

(やけに言い方がかわいらしい)

「……私はな、君を好いている。……とても。――少なくとも、私を、私『個人』として認識し、受け入れ、許し……、そして――こんな深夜の只中でも、自室に優しく迎え入れてくれる……私にとってとても希少な存在と認識しているよ、君」

(……『いけないひと』なのはどっちですか、もう――)

「率直に言おう。私は、君と間違いを起こしたい。……嫌か?」

「嫌か……って、そんなずるい言い方されたら――」

「――――違うな」

「へ?」

「……ふむ……。――『君を間違いで犯したい』、だな。うん。……改めよう! 私は君を間違いで犯したい! いいだろうか!」

(すげえいい表情かおしてなに言ってんだこの人!!?)

「間違ってくれるか? くれるな? 間違ってくれ! というか間違う、間違っていく、間違っていくぞ……」

「なにその『ハイエースしてダンケする』みたいな間違った『間違う』の使用例――!?」

「ははは、いいツッコミだな! その調子で後々下の方でも頼む」

「下の方……? ――あ!? 口は上にしか付いてねえぞ!!?」

「なんだ貴様夜はツッコまれる方が良かったのか」

「されたことあるみたいな言い方やめ――ひゃ」

「――よし、今夜は寝かせなーいぞ……っと」

「いや違、待っ、そういうことじゃなく、て、ちょ、――ひぁっ、首、だめ、っ――!」

「……ふふ。


――愛してるよ、私の王子様マイ・フェア・レディ

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

短編できたから上げるね らと @meganecat

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ