シャザイスト達の荒野

快亭木魚

孤高のシャザイスト、片付けのシャザイストに出会う

順位なんて気にしないほうがいいのは百も承知だ。特に悪魔を滅することを生業としているような俺らシャザイストにとってはな。


謝罪の力で悪魔を滅するエクソシスト、通称『シャザイスト』。もうこのふざけたネーミングの時点で俺は謝りてえ気分だよ。


だが、シャザイストは簡単に謝っちゃいけねえ。危険すぎるからな。


俺のシャザイスト・ネームはオレガ・ワリーナ。


ああ、俺が悪りいと思ってるさ。こんなふざけたネーミングな。だが、このネーミングこそシャザイストの証なんだ。


シャザイストは簡単に謝らない。シャザイストが謝るのは敵を滅する時だけだ!


俺は、荒野で敵に囲まれてひたすら謝罪していた。今日は悪魔の数が多い。ざっと見て30体はいるな。悪魔どもは、うるせえうなり声をあげてやがる。


「ツマンネーモノカクナー」

「マイカイシメキリギリギリー」

「ワカリニクイー」


今日の敵はクレームを言う悪魔『クレーマ』の群れだ。こいつら、人間と同じくらいの体格で黒い色で、文句言いながら襲ってくるんだよ。最近、世の中クレームが増えてる感じするだろ?クレーマのせいなんだよ。こいつらが人間にとりついてクレーマー・ピーポーが誕生するんだ。だから、人間にとりつく前にシャザイストが滅していかなきゃならねえ。


「悪りーな、悪りーな、『カワラ・ワリーナ』!」


48の謝罪技の一つ『カワラ・ワリーナ』は、謝罪する際の右手を手刀にして振り下ろす強力な技だ。謝罪技を極めたシャザイストならこの手刀技で瓦を割ることまでできる。俺は最高で48枚までいったことがあるからな。


この手刀技で俺は何体もクレーマを倒していた。クレーマの頭に手刀をくらわせれば一瞬にして滅することができる。


「ごめん!ごめん!『ゴメン・ヘッドバット』!」


正面からの敵には『ゴメン・ヘッドバット』で頭突きをくらわすこともある。俺のように鍛えたシャザイストなら、ごめんと頭を下げた勢いで強烈な頭突きをくらわすことができるんだ。


「『すみませーーーーーんぷーきゃく!』」


時々、背後に回り込んでくる敵には『済魔旋風脚』をくらわせる。すみませんと頭を下げた勢いで右足を後ろに蹴り上げ、そのまま回転キックをくらわせる大技だ。俺のような一流シャザイストにしか使いこなせない。


ざっと15体ほど滅したぜ。さすが俺。『孤高のシャザイスト』と呼ばれるだけあるわ。1人で15体もあっという間に倒せるからな。


いやあ、でも今日はマジで敵が多いな…。


いやあ、疲れるな…。まだ100体ぐらいいるぞ。クレーマ多すぎだろ!


俺がぜえぜえと息をきらしていると、背後から女の声が聞こえた。


「お待たせしました。加勢します」


俺はとっさに振り向いた。


そこには、小柄で背筋をぴんとのばした黒髪の女がいた。


「はじめまして。シャザイストのアヤ・マリーです」


アヤ・マリーと名乗る女は、笑顔で軽く会釈してきたよ。


「おいおい、あんたが噂のアヤ・マリーなのか?悪魔討伐ランキング3か月連続1位のアヤ・マリーだってのか?」


「はい、そのとおりです」


うわ、すごい笑顔で返答してきたよ。


「いやあ…。驚いたな。180cmある俺よりもはるかに小柄だ」


「155cmです」


「それでいて討伐ランキング1位か。俺は先月341体も滅したのに2位だった。あんたは889体だったよな!しかも俺は、悪魔捕獲数は0なのに、あんたは先月だけで981体捕獲してる!捕獲数でもダントツ1位だ!正直、すごい体格の人だと予想してたよ」


「シャザイストの力は、体力や筋力だけではありませんので」


たしかうそう言うだけあり、すさまじい『ソーリー・ソウル』を感じる。ソーリー・ソウルはシャザイストが持つ謝罪の力のことだ。このソーリー・ソウルが大きい者ほど多彩な技が使える。


「ご覧のとおり、今はクレーマに囲まれてる状況だよ。討伐ランキング2位の俺でも苦戦している」


「とっちらかった状況ですね!私、こういうとっちらかった状況大好きなんです!では早速加勢しますね!」


おお言ってくれるじゃねえか、アヤ・マリーさんよ。お手並み拝見といこうか。


アヤ・マリーは持っていた大きいスーツケースを開けた。中から小型のクローゼットが出てくる。『片付けのシャザイスト』と呼ばれるだけあり、きちんと整理整頓しているな。


「ユルクローゼットと言います。ここにお友達になってくれた子達がいるので、まず解放してあげます」


クローゼットの中にはきれいに折りたたんであるクレーマが並んでいた。ちょっと待て、クレーマが折りたたんであるだと?どうなってんだ?人型悪魔が衣服みたいにきれいにたたんでしまってある!しかも金色に光ってる!

「はい、みんな起きて!よろしく!」


そう言ってマリーが手を叩くとクローゼットの中のクレーマが起き上がってぞろぞろと出てくるんだよ。ざっと20体の金色クレーマはみんな子供のような姿をしている。


「『ユルソウル』が高まったクレーマは『ユルシテクレーマ』になるんです。さあ、みんなお願い!」


マリーが号令をかけると、次々とユルシテクレーマが走り出す。ってか、ユルシテクレーマって何?クレーマを仲間にできるの?知らなかったよ、俺。


「ユルシテクレーマ!ユルシテクレーマ!」


そう言ってユルシテクレーマが敵の黒いクレーマに抱き着くと、黒いクレーマの表情が柔らかくなるんだよ。


「ウン…ユルス!」


そう言ったかと思うと、黒い大人の姿だったクレーマは、金色の子供の姿になりユルシテクレーマに変化するんだわ。そしてユルシテクレーマ同士で手をつないでユルクローゼットの中に帰っていくんだよ。


ええ?俺、今までクレーマのことぶん殴ったことしかなかったぞ!ってか、今もぶん殴って倒してるぞ!仲間にする方法あったのかよ!


「人間にも悪魔にも、相手を許す魂『ユルソウル』があります。そのユルソウルを引き出してあげると、お友達になってくれるんですね。ユルクローゼットの中でゆるやかな気持ちで過ごすとユルソウルがより高まっていくんです」


マリーは笑顔でこう言うんだわ。うわー捕獲数が多いのはこのやり方だからか。ってか、こんな方法ありなんかよ!


「ソンナバカミタイナテンカイハユルサーン!」


2メートルほどある巨体の太っちょクレーマが怒りながら突進してくるんだよ。そうだよね、許してくれない悪魔もいるよね。


「私はシャザイストの為に本を執筆しています。『心がキラめく謝罪の技法』の中で最初に書いていることは、まず悪魔に触れてみることです。触れてみるとユルソウルのかけらを感じとれるんですね。ユルソウルがあるクレーマは触った時にキラっと輝く気持ちになれるんです」


マリーはそう言って、極めて冷静に巨体のクレーマのパンチを受け止めた。


「ああ、感じます。キラっとしたものを感じますね」


プロレスラーみたいな巨体太っちょクレーマのパンチを片手で受け止めているだと!俺でも大変なのに!この女、なんてソーリー・ソウルの持ち主なんだ!


「ユ、ユルサンー!」


巨体太っちょクレーマ、すごい怒ってんじゃん!キラめいてる感じないよ?マジで言ってんの?


「ごめん、折らせて下さい。『ゴメンオリ』!」


そう言うと、マリーは敵の腕を折っていくんだよ。めっちゃボキボキバキバキいってる!


「ウギャアアア!ユ、ユルス!ユルス!」


巨体太っちょクレーマが悲鳴あげている。マリーは冷静にクレーマの体を折り曲げていくんだ!バキ!グシャ!バリバリ!ってすごい音立てながら、服をたたむかのごとく巨体を折りたたんでいくマリー!その表情は極めて穏やかだ!え、キラってまさかキラーのこと?穏やかな表情のまま殺すの?と思うほど、あざやかに折りたたんでいくんだ、マリーは!


「折れなさそうなクレーマでもあきらめないで下さい。あきらめないことが肝心です。はい、きれいに折りたたむことができました!」


巨体がいつの間にか折りたたんだジャージみたいな大きさになっている!折りたたまれたクレーマは既に金色のユルシテクレーマになっており、穏やかな表情のままマリーの手によってクローゼットに入れられた。


「はい、きれいに片づけられました。今の子を含めて70人ほどユルシテクレーマになってくれましたね。でも、あと30人ほどはクレーマのままです。仕方ありません。ごめんね。『ソーリー・ソリケーン』!」


そう言って、マリーは左手を手前に大きくかざした!たちまち巨大なハリケーンが発生し、クレーマを飲み込む!30体残っていたクレーマは全てハリケーンに飲み込まれ、あっという間に全滅した!難しいと言われているソーリー系の技をいとも簡単に使うとは!アヤ・マリー、とんでもないシャザイストだぜ!


「さすがだ。俺が頑張って悪魔倒しても2番目の順位な理由がよく分かったぜ」


「オレガさんの戦い方も素敵でしたよ」


そう言って笑うんだ、マリーは。くそ、可愛いじゃねえか…。


「今度、横浜アリーナでシャザイストが集まるコンサートがあるんだ。あの施設の正式名称はヨコハバ・ワリーナで、実は俺達ワリーナ一族が運営しているんだ。だからチケットを手に入れやすい。今度、良かったら一緒に…」


「ごめんなさい。次の仕事がありますので」


そう言ってマリーが軽く会釈すると、小さな突風が吹いてきたよ。『シャザイ・ウインド』だ。俺が風に面食らっている隙にマリーはタクシーに乗って去っていった。荒野にタクシーまで手配しているとは、なんて用意周到な!しかも、俺が帰る為のタクシーまで別に手配してくれていて、運転手がすでにドアを開けて待ってくれてるからね。


「くそ。許すわ…」


ほら俺までユルシストになっちまったじゃねえか!アヤ・マリー、とんでもねえシャザイストだぜ!お前こそナンバー1だ!


(終)

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シャザイスト達の荒野 快亭木魚 @kaitei

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