下克上:学園ナンバー1と2の闘い!

毒針とがれ

お題『2番目』


 私立武闘学園のグラウンドは熱気に包まれていた。


 本日は学期末恒例のバトルトーナメントの日。

 今から、その決勝戦が開始される。


 ギャラリーの興奮という渦が巻く中、グラウンドの中心で火花を散らし合っている二人の男女。


「男子。学園ナンバー2の秀才、副次村銀助ふくじむらぎんすけ!」


 司会らしき生徒から紹介され、ギャラリーに向かって男子の方が手を振る。

 キャーキャーという甲高い歓声があがる。


 彼は、学園でも二本の指に入る有名人だ。

 メガネがトレードマークのロジカル思考の持ち主で、理詰めの戦術を駆使してナンバー2までのし上がった秀才である。


「女子。学園ナンバー1の天才、天辺山てっぺんやまはじめ!」


 続けて紹介された女子が、ギャラリーに向かって鼻を鳴らす。

 キャーキャーキャーキャーと先ほどよりも大きな歓声。


 彼女は、学園でも一本の指に入る有名人だ。

 理論もへったくれもない力業でナンバー1の座についている、いわゆる天才というやつだ。


「今日で天辺山さんの天下は終わりだ。今日こそ学園ナンバー1の座を奪い、僕はいただきの景色を見る!」


 試合開始十秒前、銀助は挑発的な宣戦布告をした。


「面白い冗談だな、銀助」


 だが学園ナンバー1、天辺山はじめは鼻で笑っていた。


「入学以来、私はお前相手に999戦999勝0敗の成績を残している。今回も結果は変わらん。つまり、私の勝ちだ!」

「大胆な宣言をありがとう。おかげで、このバトルが終わった後に一生忘れられない伝説が残るってものだよ!」

「減らず口を叩くな、凡人がっ!」


 そこで、試合開始のホイッスルが鳴った。


「・・・・・・はっ!」


 天辺山が叫ぶと、彼女の前方に何かが発生した。

 巨大な空気の玉・・・・・・波動弾だ!


「どりゃあ!」


 勢いよく突かれた波動弾は、ゲームで見かける技のように前進してグラウンドの砂利を蹴散らしていく。


 そう、これが天辺山はじめの必殺技。

 身体能力に優れた生徒は数おれど、波動弾のような特殊能力を使えるのは彼女だけ・・・・・・正真正銘の天才なのである。


 入学以来、数多の生徒たちがこの空気の塊の犠牲となった。

 銀助も例に漏れず、何度も吹き飛ばされてきたのだが・・・・・・


「甘いよ、天辺山さん」


 しかし、度重なる敗北の経験が、彼を強くした。

 トレードマークのメガネを光らせて、ポケットから何かを取り出す。


「これが・・・・・・僕の切り札だ!」


 それは、勉強用のシャープペンシルだった。

 万物をなぎ倒す波動弾に対して、銀助はシャーペンを垂直に立てた。


 ぶすっ。


 まるで風船に穴が開くような音がした。

 すると、あら不思議、たちまち波動弾がしぼんで消えてしまったではありませんか。


「馬鹿な・・・・・・私の波動弾に穴を開けただと!?」

「要するに空気の玉だからね」


 原理さえ分かってしまえば、再び空気として霧散させることは難しくない・・・・・・銀助の秀才が為せる技だった。


「た、たった一発打ち消したからと言ってどうなる!? どりゃ、どりゃあ!!」


 焦りに身を任せて、天辺山は波動弾を二発、三発と放っていく。


 だが、結果は変わらなかった。銀助が魔法のステッキのようにシャーペンを振ると、やはり波動弾に穴が開き、彼に届く前にしぼんで消えてしまう。


「さあ、今度は僕の番だ!」


 意気揚々と叫ぶと、銀助が距離を詰めて天辺山に迫る。

 波動弾をかき消す盾であったシャーペンをそのまま武器にして攻撃していく。


「くっ!」


 慌てて天辺山もシャーペンによる突きを捌こうとするが、上手くいかない。

 何回か攻撃を食らってダメージを負ってしまう。


「ははは、天辺山さんは防御が下手だなぁ」

「う、うるさい!」

「ひょっとして、守りとか受けってしたことないんじゃない?」

「うぐっ!?」


 図星だった。

 なぜならば、波動弾は超弩級の攻撃であると同時に、相手に接近を許さない鉄壁の盾でもあったからだ。

 接近されなければ、攻撃は届かない。

 遠距離から波動弾を打ち続けることで無傷で勝利する・・・・・・それが入学以来、天辺山が無敵を誇ってきた理由だったのだ。


「一つの才能に頼ってきた人間は、それが破られたときに脆い・・・・・・君の負けだ、天辺山さん!」

「負け・・・・・・私が、負け・・・・・・」


 一発、また一発とシャーペン突きを受け、みるみる天辺山の身体から覇気が抜けていく。

 ついに銀助は、ナンバー1の座へとリーチをかけた!


(お願いだ。僕をガッカリさせないでくれ、天辺山さん・・・・・・)


 だが、そんな銀助の胸に去来しているのは、高揚感とは無縁の虚しさだった。


 天辺山の波動弾を攻略するために、銀助は何ヶ月もの間、シャーペン技術の特訓をしてきた。

 自慢の頭をフル稼働させ、どうやったら空気玉に穴を空けられるかを考えてきたのだ。


 それが報われて嬉しくないわけではない。

 でも・・・・・・


「・・・・・・負けて」


 そのとき、


「負けて・・・・・・たまるかぁ!!」


 劣勢に立たされていた天辺山はじめが、獅子のように咆哮した。


 すると、その呼びかけに応えて、大気中の空気が彼女の周りにどっと集まってくる。

 たまらず、銀助は吹き飛ばされてグラウンドを横転してしまう。


「これは・・・・・・驚いたね。」


 今度こそ、銀助の胸に高揚感が沸いてくる。


 波動弾のエネルギーを放つのではなく、自分の身体に集める。

 それは、誰も見たことのない天辺山はじめの技だった。


「うわあああああああああああ!!」


 それは、本人さえも例外ではなかったのだろう。

 どう使えばいいかも分からず、がむしゃらに突進して殴りかかってくる。


 真っ向勝負、ストレートパンチ。


 波動のエネルギーをまとった天辺山の拳が、銀助に炸裂する。

 とっさに彼もパンチで応戦しようとした。だが、あまりにも力が違いすぎた。


 まるでトラックに轢かれたように宙を舞い、そのまま墜落。


「ゲームセット! 勝者、天辺山はじめ!!」


 司会による、試合終了宣言。

 ギャラリーたちがワーワーと沸き立つ。ナンバー1の座を防衛した天辺山へ、胸躍る接戦を見せてくれた銀助へ、それぞれへの賞賛だ。


「こ、これで1000戦1000勝・・・・・・また私の勝ちだ、銀助」

「みたいだね」


 敗北した銀助だったが、どこか顔は晴れやかだった。


「お前に頂の景色はまだ早い・・・・・・当分、ここは私だけの景色だ」

「ふふふ」

「な、何がおかしい!?」

「いやいや、その通りだよ天辺山さん」


 そう言いながら、銀助はどこか勝ち誇ったような顔をしていた。


 ナンバー1の彼女は知らない。

 追われる獅子の意地を見られる、特等席の存在を。


「僕にはまだ、この場所ナンバー2がお似合いみたいだね」(完)

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