私の好きな人の恋人

FDorHR

私が好きな人の恋人


 ある日、超能力に目覚めた。

 それは、目を閉じている間だけ幼馴染に憑依することのできる能力。

 幼馴染のことを考えながら目を閉じて十秒待つと、ゲームみたいに幼馴染の体を好き勝手操ることができる。私はこの能力を2番目セカンドと名付けた。



          ∞



 この超能力ちからに気付いたのは中間試験前の日曜日。勉強の息抜きに目を閉じて眼球マッサージをしている時だった。右、左、右、左。上に五秒、下に五秒。無限記号をなぞるように目をぐりぐり動かしながら、ふと勉強嫌いの幼馴染のことを考えていると、突然視点が切り替わり、昔遊んだ幼馴染の部屋が目の前に現れた。驚いて目を開くと、そこはもちろん私の部屋。


 頭がおかしくなったのかと思ったけど、試しにもう一度試してみると、再び幼馴染の部屋に行くことができた。ちょうどTPSで自分のキャラクターを見下ろすような形で、眼下には幼馴染の男の子。机の前に座ってはいるけれど、勉強もせず漫画を読んでいる最中だった。


 呆れ返って「少しは勉強しないと」と思ったら、幼馴染は突然漫画を閉じて勉強を始める。あまりにもタイミングがよかったので、面白半分に「服を脱いで」と考えたら、幼馴染はすぐに服を脱ぎだしたので慌てて止めた。


 翌日、中間試験の最中に私は一つの実験を試みた。昨日の出来事が私の妄想なのか、現実なのか。幼馴染と同じ場所にいるときに試してみればすぐ分かる。

 幸いにも私は頭がいい方なので、中間試験程度なら二十分くらいで解き終わる。解答用紙を埋めたあと、悩むふりをしながら目を閉じて幼馴染のことを考える。十秒後、昨夜のように視点が幼馴染の背後に移り変わり、空白が目立つ解答用紙と、悩むふりして目を閉じた私の後ろ姿も見ることができた。


 私が悪戯心で幼馴染の解答用紙を埋めてしまおうと考えると、また視点が切り替わる。先程までがTPSなら、今度はFPS。私自身が幼馴染になったように、視界も、吐息、も鼓動さえも、幼馴染と一心同体になってしまう。

 幼馴染の解答用紙を全て埋めた数分後、試験終了の鐘が鳴る。

 私は、この超能力セカンドに夢中になっていた。



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 それから、暇があれば幼馴染に乗り移り、超能力セカンドでできることをあれこれ実験した。

 守護霊のように幼馴染を後ろから見ている時は、大雑把な指示をしたら彼が自動で動いてくれる。逆に彼に直接乗り移ると、自分の体のように動かせる代わりに痛みも疲労も感じてしまう。

 私が操っている間のことは幼馴染もぼんやり覚えているようだけど、どうやら無理やり勉強させても「急にやる気になった」とか勝手に解釈して自己解決しているようだった。


 正直に言って、この超能力ちからは面白い。

 私はこの幼馴染がそんなに嫌いじゃない。これは、上手くやれば私好みの男を作り上げることができるんじゃないか。そう気付いてしまってからは、幼馴染を操る頻度は更に増えていった。

 

 学校ではあまり干渉しないが、夜になると私は毎日のように幼馴染を操った。

 体を鍛え、見た目を整え、少しずつ私好みに仕立て上げる。そうすると学校でも評判がよくなったらしく、女子の間でも幼馴染の噂を聞くようになってきた。

  

 そんなある日、幼馴染に憑依して彼の服を買いにお出かけしていると、見覚えのある顔がガラの悪い輩に絡まているのを目撃してしまった。私はすぐに彼に指示を出して暴漢たちを追い払ってもらう。そして視点を切り替え彼の体に乗り移ると、襲われていた少女にゆっくりと声をかける。

 

「大丈夫だった? たしか、同じ学校だよね」

「え、……あ、たしかB組の。あの、ありがとうございます」

 

 彼女は隣のクラスの同級生で、たしか美術の合同授業で見かけたことがあった。

 学校では今どき三つ編みメガネの大人しいタイプだったけど、今は長い髪をシニョンでまとめ、コンタクトなのかメガネは外している。服装もギャルよりのやや派手な雰囲気で、普段の彼女とはギャップが凄い。


 とりあえず、未遂だったとはいえ暴漢に襲われた直後だ。きっと疲れているだろうと思い、やや強引に近くのカフェに誘って、彼女が落ち着くまで何気ない会話をしてリラックスさせた。この辺りは男子として距離感の取り方に気を付けたおかげで、三十分も話すうちに彼女は緊張も解けたようだった。

 


          ∞

 

 

 それから、彼女とよく話すようになった。一度心を開くと結構あけすけな態度をとってくれるので、こちらとしても話しやすい。

 社会人の姉がいること。初めて会った日は姉に無理やりコーディネートされて困っていたこと。服を買うより美術館巡りとかするほうが好きなこと。でもちょっとはおシャレに興味を持ってきたこと。


 気付いたら私が憑依してない時も二人はよく話すようになっていた。

 幼馴染に憑依していると、なぜか彼女に友達以上の感情を抱いてしまう。まるで恋愛シュミレーションのゲームを遊んでいるみたいだ。はい、体力つけて。はい、おシャレして。親密度が上がったらデートに誘ってみましょう。彼女に合わせて美術館巡りとかオススメです。


 それから幼馴染と彼女は少しずつ距離を縮め、私は彼女に恋してしまう。学生生活楽しい時間はあっという間に過ぎていく。


 終業式、彼女は幼馴染に告白した。

 ついにエンディングを迎えた気分で、憑依を解く。

 幼馴染は嬉しそうに告白を受け入れた。

 

 私の大好きだった人彼と彼女は見事ハッピーエンドをむかえたのだ。

 なのに、どうしてだろう。

 私の瞳から流れる涙は夜になっても止まらなかった。


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