第16話 二人の未来
「着いたぞ」
転移魔法を使い無人島へと移動した二人。
文字通りの無人島には人の気配はなく二人っきり。
「ここなら邪魔はないな。さて、どうする?」
「決まってるでしょ! 遊びまくるわよー! ひゃっほーい!!」
人目がないのをいいことに、まるで子供みたいなはしゃぎ方で海へと飛び込む。
どこまでも青く広がる海。
「ねぇー! あんたも来なさいよー! 気持ちいいわよー!」
「あまりはしゃぐなよ。ケガをするぞ」
「大丈夫だって! 楽しまなきゃ損よー!!」
呆れた表情で見ていたクロヴァンスだが、全力で遊ぶリナリアを見たら余計な心配をしていた自分がバカらしく思えていた。
「こういうのも悪くないな」
◇◇◇◇
ひとしきり遊び、少し休憩を取る二人は砂浜で寝転がっていた。
クロヴァンスの魔法で海水を操ってまるで蛇のような形状にしたり、海中にいる魚を見る為に空間魔法で適当な深さから魚ごと海水を切り取り、ちょっとした水槽のようなものを作り観賞したりと人前ではできない事をやっていた。
「ふぅー・・・・・・。疲れた」
「いやいや。疲れたのはこっちの方だ。散々、魔法を使ったんだ。特に空間魔法は膨大な魔力を消費する。精神力も使うから余計に疲れる。それに――」
「いちいち文句言わないの。せっかくの楽しい雰囲気が台無しになっちゃうじゃない」
「なぁリナリア。ひとついいか?」
「ん~? なに?」
「お前は今のままの状況をどう思う?」
「今って・・・・・・。こうやって砂浜で寝転んでる、この状況の事?」
空を見上げながら、素っ気なく返事をするリナリア。
「違う。俺たちの存在が認識されていない、という状況の事だ」
現在、二人はリナリアの
本来の名前を呼び合わない限りは存在がバレる事はない。
二人の正体がバレれば再び戦わなければならないが、たとえバレても今さら戦おうという気は二人には毛頭ない。
「俺はなリナリア。お前の力が永遠に続くとは思っていない。元より種族が違うんだ。寿命に差があり俺よりもお前が先に死ぬ。そうなれば聖剣の担い手が居なくなり、力も無くなる。そうなれば――」
「分かってる。私だって永遠に続くなんて思ってない」
起き上がったリナリアは水平線を見つめている。
「いつか必ず終わりは来る。何年後か何十年後かは分からないけど、必ず来る。その時が来ればあなたは一人になってしまう。で、次の勇者が現れて戦うことになる。あなたが勝てばまた現れて、負ければ死ぬ。私ね、それだけは絶対に嫌だから」
「それは仕方のない事だ。それに本来、俺たちだってその運命にあった。まぁ、多少の間違いのせいでねじ曲がったがな」
「確かに。私達、色々と間違いだらけね」
「それと、俺はその間違いを今さら正すつもりはない」
「じゃあ、ずっと隠れて生きていくってこと? なんか息苦しい生き方ね。――しょうがないけどさ」
「ならば俺達の正体を知らない世界に行けばいい。そこなら安心して生きていける」
「そんな世界なんか
「無いなら創ればいい。俺の
「創るって・・・・・・。世界を一から創り出すことなんか出来ないって。上書きなら出来るかも知れないけど」
「それは今、リナリアが行っているだろ? 上書きではいつか気付く者が現れる。それではダメなんだ。だから創り出す」
クロヴァンスは精神を集中させ、魔力を凝縮させていく。
そして凝縮された魔力の塊を両手に込めると、目の前の何もない空間に爪を立てて抉じ開けるような動作をした。
それに合わせて何もない空間が抉じ開けられる扉のように、ギギギッ、と音を立てて裂けていった。
「ちょっと――なにしてんのよ?」
「くっ・・・・・・! さっき・・・・・・言った・・・・・・だろ? "世界を創り出す"と。この先に創る――! 俺達の世界を・・・・・・!」
そうしてさらに空間を拡げて、
「混ざり合い、新たな世界を創造する」
今度は左手をギュッ、と握る。
するとさっき放り投げた魔力の塊が
「この街って――」
「二人で初めて行った街だ。本音を言えば美しい場所を創りたかったのだが生憎、俺の記憶にはあの街が一番、記憶に残っていた。だから俺が覚えているこの街で、一から一緒に歩んで行こう、勇者リナリア」
「あなた――名前・・・・・・!?」
「もう隠す必要も意味もない。バレた瞬間、この世界に行けばいい。だから俺の名前を呼んでくれ」
リナリアを見つめるその目には、覚悟と決意があった。
「――そうね。ここが終わりでもいいのかもね。・・・・・・しょうがない! あなたと生きてあげる。よろしくね、魔王クロヴァンス」
その瞬間、リナリアの聖剣が音もなく消え、世界を欺いてきた能力が消滅した。
そのタイミングを見計らってか、魔王クロヴァンスと勇者リナリアの二人は、新たに創造された世界へと飛び込んだ。
魔王と勇者の消えた世界。
不思議と世界の人々からは、その名前すら消えていた。
◇◇◇◇◇
とある街。
とある酒場にて。
「なぁおい。知ってるか?」
「何が?」
「ここから山を三つ越えた先に、誰も住んでない城が見つかったんだってよ。それもボロボロの城がな」
「山を三つって・・・・・・。ここからかなり距離があるじゃねぇか。一体誰が見つけたんだよ?」
「三日前に来た商人から酒を買った時に聞いたんだ。しかもよ、近くに山小屋みたいなのもあって、誰か住んでいた跡もあったらしいぜ?」
「まさか!? 近くには村だってないはずだろ? 一体誰が住んでたって言うんだよ?」
「俺がそんなの知るわけないだろ? もしかしたら、古い時代の遺跡とか、かもな」
「きっとそうだろ。そのうち、誰か調べるさ。俺達はそれを聞くだけ」
「だな」
~おわり~
魔王と勇者は仲が良い 青野アオイ @work
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