第6話 天使生まれる

 天使というのは、厳密には生命の付随した情報体だ。

 情報を摂取して幼生は成長する。情報の集積箇所は頭部。天使は、互いの頭部を喰らいあう生き物なのだ。


 その意味では、アルクドプラナロは最初から餌として設計された天使だった。

 だから、もしも運命の神様がいるのなら――

 二人の出会いは、最初から設計されていたのだろう。


「……ばかな。なんだ……なんなんだ、一体」

 マントの男が、驚愕に目を見開いた。先ほどまでの余裕は消し飛んでいる。

 その視線の先に居るのは――天使、なのだろう。

 鳥のような脚をした少年だ。その背中には、黒く奇怪な翼が生えている。

 歪で醜悪。それでいて、不思議な荘厳さを纏うその姿は、確かに天使のそれだった。

「吸収したというのか……あの幼生を? ありえない。貴様、貴様はなんだ!」

 マントの男に付き従う、風船頭の天使はもういない。

 古代種の翼だ。その出力は、一瞬にして成体天使を血風に変えた。

「俺か? 俺に名前はないよ。いや、違うな」

 ふっと、黒い天使が表情を歪める。乾いた笑いだった。

「俺は、アルクドプラナロだ」

 触手めいた奇形の翼が、再び羽ばたいた。


     *


 王都の外れの森の先、牧場と畑と沼とを越えて、そのまた向こうの森の先。天使の丘はそこにある。

 空は能天気に晴れていて、雲はのんびり流れている。ほかに不思議なものなど一つもないのに、丘には天使が住んでいる。


 しわくちゃ、まっくろ、変な羽。

 変な天使が住んでるその丘に、毎日、一人も近寄らない。


 けれど天使は、そんなに寂しいとは思わなかった。

 彼は一人ぼっちだったけれど、不思議と冬でも暖かい。

 変な天使は翼を広げた。遠くに飛んではゆけないし、色も黒いし形も変。そんな翼ではあるけれど、彼の大事な宝物だ。

 何かを思い出すように破顔すると、天使は気まぐれに飛び立った。じゃれるように不器用に羽ばたきながら、空の向こうへと消えていった。


 [END]

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

天使の降る丘 社会のクズ @sanpaisenpai

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る