もう二番目なんて言わせないよ!

蒼月

二番目なんて・・・

 私の名前は間宮 知佳。34歳で独身OLだ。

 見た目はまあまあ整っている方だが、飛び抜けて美人と言う訳でもない。

 そんな私は何故か生まれてからずっと何かにつけて二番目ばかりなのだ。

 産まれた順番も二番目。学力も二番目。運動会等の順位を決める種目や大会も全て二番目。

 そんな私に付いたあだ名が『二番目の女』だった。

 そしてそれは社会人になっても続いていたのである。

 二社目で漸く就職出来た私は今度こそ一番目になろうと頑張ったのだが、やはり私よりも優秀でさらに美人の同期が一番目になり私は次点の二番目。

 もうそこまでいくと呪われているのではないかと飽きれ、そして私は頑張る事を止めたのである。

 そんなある日、行きたくもない会社の飲み会に参加しその店の前で通り魔が現れた。

 そしてその通り魔は最初あの美人の同期に狙いを定めてナイフを構えたのだが、他の同僚達に守られ断念。

 すると今度は一人でいた私に狙いを移され、そのまま私は抵抗する事も出来ずそのナイフに刺され絶命してしまった。

 そうして死ぬ時まで二番目だった私の嘆きが神様に聞き届けられ、その神様によって今度は誰にも負けない最強の力を持って生まれ変われるよと言われたのだ・・・。





(と、言う事を今思い出した)


 私は前世と呼ばれる記憶が蘇り呆然としていたのである。


「何しやがる!!離せ!!!」


 そんな叫び声が聞こえ私は目の前にいる、トカゲの顔をしたリザードマンの顔を見つめた。


「何見てやがる!!クソ!何で離せねえんだ!!」


 どうしてそんな悪態を吐いているのかと思いながらゆっくりと右手の方に視線を向け、そして私は驚いたのである。

 何故なら私はそのリザードマンが掴んでいる大きな棍棒を、片手で受け止めていたのだ。


「あれ?何この状況?」

「そんなの俺様が聞きてえ!!良いから離せ!!」


 そう言いながらびくともしない棍棒を動かそうともがいているリザードマンを見て、私はあの神様の言葉が頭を過ったのである。


(あ、もしかして・・・)


 私はその考えを確かめる為、受け止めていた棍棒ごとリザードマンを持ち上げてみた。


「なっ、なっ!?」


 まさか持ち上げられるとは思っていなかったリザードマンは目を驚愕に見開き、口をパクパクさせながら棍棒を掴んだままぶら下がっていたのだ。


「ああ・・・本当に最強の力を手に入れて転生したっぽい」

「何訳の分からない事を言ってやがる!!お前も他のガキ同様俺様になぶり殺されろ!!!」


 その言葉に私は今の状況を思い出した。

 私はチラリと回りを見回し、床で血を流して息絶えている子供達の姿が目に入ったのだ。


メキッ!!


 木が軋む音が部屋の中に響き私は目を据わらせながら、宙吊りのリザードマンを睨み付けた。


「ひっ!!」


 私はそのまま棍棒を大きく振りリザードマンごと壁に叩き付けたのである。

 その瞬間壁は大きく崩れそしてリザードマンの命も崩れた。

 そして私は亡骸となったリザードマンを一瞥し、誰もいなくなった部屋に一人佇み自分の今の状況を整理する事にしたのだ。


 私はあの日本とは違う世界に転生した。今の名前はラーシャ。年は12歳の女の子。金髪に碧の瞳をしている。種族は人間。

 この世界には人間以外にトカゲの顔をしたリザードマンや、豚の顔をしたオーガ、さらにトロールやドラゴンまでいるいわゆる異世界と呼ばれる所だ。

 しかしこの世界で人間は一番底辺の扱いを受け、奴隷や家畜扱いをされている。

 そんな世界に転生した私は最初まだ前世の記憶が無く、無力な人間と思い育っていた。

 ある日両親と暮らしていた村がリザードマンの群れに襲われ、私の両親は私を庇って殺されてしまったのだ。

 そして私は奴隷としてリザードマンに連れ去られ、この地下拠点で長年働かされていた。

 だけど一緒に連れ去られた同い年の子がリザードマンの怒りを買い、処刑部屋に連れていかれそうになったのを止めに入り結局私も一緒に連れていかれてしまったのだ。

 そうしてそこで私は前世の記憶を思い出し、自分の力を知ったのである。


「もう少し早く思い出せてれば・・・」


 私はそう一人呟きながらもう動かない子供の亡骸を見つめたのだ。


「・・・と言うか、何で神様は私に最強の力をくれたのにこんな世界に転生させたの?酷すぎるんですけど・・・」


 そう見えない天に向かって嘆いたのである。

 するとその時、大きな音を出して扉が開かれそこから数人のリザードマンが部屋に雪崩れ込んできたのだ。


「何だこの状況は!?」

「大きな音がしたから来てみれば・・・何でアイツが死んでいるんだ!?おいお前!一体ここで何があった!!」


 リザードマン達は部屋の中の惨状に動揺しながらも私に詰め寄ってきたのである。

 そんなリザードマンに向かって私は呟いたのだ。


「私が殺った」

「何!?」

「そんなわけないだろう!!お前のような下等生物がそんな事出来るはずがない!!」

「本当なのにな・・・」

「もう良い!とりあえずお前は元々処刑対象だ!黙って死んどけ!!」


 そう叫びながら一斉に襲い掛かってくるリザードマンを見ながら、私は小さくため息を吐いたのだった。










「おい、早く持ってこないか!!」

「は、はい!」


 玉座に座り怒鳴り声を上げているリザードマンの下に、ボロボロの服を纏った女性がグラスの乗ったお盆を震える手で持って慌ててそのリザードマンに近付いたのだ。


「ザ、ザビード様、お待たせ致しました!」

「遅い!!このグズめ!」

「ひっ!お、お許し下さい!!」

「お前のような奴はもう要らぬ!」

「きやぁぁぁぁ!!」


 ザビードと呼ばれたリザードマンは持っていた矛で、その女性を突き刺したのである。


「おい、こいつを捨ててこい!」

「はっ!」

「そうだ、代わりにあの金髪で結構綺麗な顔立ちをしている人間の子供を連れてこい。俺様直属で使ってやる事にする」

「あ~あの子供ですか・・・」

「何だ?何か問題でもあるのか?」

「いやそれがですね・・・あの子供、例の処刑部屋に連れていかれたそうです」

「何だと?チッ、どうせまたアイツか。最近ちょっと勝手が過ぎる所が目立つな。後で少し分からせる必要があるか。まあ仕方がない、あの子供が死んだのは少し惜しいがどうせ下等な生き物だ。代わりならいくらでもいるからな」

「そうですね。では代わりの者を連れてきます」


 そう言って部下のリザードマンが、息絶えた女性を肩に担ぎ部屋から出ていこうとした。


「なっ!?お前生きていたのか!?」

「ん?どうした?」

「そ、それが・・・」

「あ、どうも!あなたがこのリザードマンのボス、ザビードだよね?」


 私は女性を担ぎながら驚いているリザードマンの横から顔を覗かせ、玉座に座っている明らかに他のリザードマンとは違う体格のリザードマンに声を掛けたのだ。


「お前は確か処刑部屋に連れていかれたと聞いたが・・・どうしてここに?」

「それは勿論・・・ザビードを倒す為にきたんだよ」

「は?俺様を倒しに?・・・くく、は、ははははは!!これは面白い冗談を言う子供だな!ふん、おいお前その生意気な口をきく子供を殺せ」

「はっ!」


 ザビードの指示を受けた部下のリザードマンが肩に担いでいた女性をその場に落とし、腰の剣を抜いて私に斬り付けてきたのである。

 その動きを目の端に捉えながら素早く手を上げその刃を掴んで止めた。


「何!?」

「私にそんなのは効かないよ」


 そして私は刃を掴んだ手に力を込めてパッキリと折ると、折れた刃先を素早くそのリザードマンの喉に向けて放ち突き刺したのだ。


「ぐぇ!!」


 リザードマンは苦しげな声を上げその場に倒れると、そのまま動かなくなったのである。

 そのあっという間の出来事にザビードは理解が追い付かなかったらしく、目を見開いて固まっていた。

 だがすぐにハッとした顔で立ち上がり大声を上げたのだ。


「反逆者だ!出会え出会え!!」


 しかしどれだけ待っても誰も来なかったのである。


「何故誰も来んのだ?」

「ああそれは、私がここまで来るまでに全部倒しておいたからだよ。だからもうこの場所にはリザードマンはあなたしかいないから」

「な、何だと!?」

「じゃあ、ボス倒して終わりにしたいからいくね」

「ふ、ふざけるな!!お前などに俺様が負けるはず・・・」

「ううん。負けるんだよ。だって・・・もう私は誰にも負けない力を得たからさ」


 矛を構えたザビードの背後に素早く移動した私は、その矛が私に向く前に持っていた腕をへし折り矛を奪うと代わりにザビードを串刺しにした。


「なっ!お、俺様が下等な人間に負けるなど・・・あ・・・りえ・・・ぬ・・・・・・」


 そう言い残しザビードは絶命したのだ。

 私はそんなザビードを見てから矛から手を離すと、そのままザビードは床に倒れてしまったのだった。


「さて、もうここには人間しかいないし後の事は来る前に助けた大人達に任せよう。私は・・・そう、この最強の力を使ってちょっと人類救いに行きますか!だって、もう二番目の女じゃないんだもの!!私は誰にも負けない力を得たから!!」


 そう力強く決意すると私は、次なる場所に向かって地上への階段を登り始めたのだった。

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