シルバーガール

山吹弓美

シルバーガール

「期末テスト、やっぱ一位は久保田さんだったね」

太刀岡たちおかはまた二位か。相変わらずだな」


 そうなんだよね。

 いちいち言わなくても分かってるよ。学力で私は、久保田さんには勝てない。


「一位は小白井こしらい彩奈あやな! 太刀岡奈々未ななみ、またしても二位!」


 うるさいなあ。

 運動会だからって、校内放送で怒鳴るんじゃないよ。体力で私は、小白井さんには勝てない。


 この学校で私、太刀岡奈々未はシルバーガールと呼ばれている。入学してからのテストすべて、運動会や運動テストのすべてで二位を取りまくっているからだ。何でもかんでも二位だから、銀メダルでシルバーガール。ふざけるな。

 これでも地元では天才、とか呼ばれていたのよ。テストも運動も、トップだったんだから。

 それが、この全寮制の学校に来てからはずっと二位。何が何でも二位。

 勉強では久保田友梨乃ゆりのに敵わない。必ずほんの数点、彼女が上を行っている。

 スポーツでは小白井彩奈に敵わない。ほんの数ポイント、どこかで彼女が上を行っている。

 どっちを頑張っても、どっちにも敵わない。


「ああ、ムカつく」


 寮の個室で、枕に顔を突っ込んで吐き捨てる。こういうところじゃないと、他人の文句なんて言えないものね。

 私は一人で頑張ってるのに、久保田友梨乃と小白井彩奈は二人がかりで私の上に乗っかってる。不公平だ。


「……明日もテストか」


 ふとそんなことを思い出して、起き上がった。そろそろ就寝時間ではあるけれど、最後のひとあがきをしなくては。

 明日のテストは、いつもはないイレギュラーなものだ。ただ、ここで良い成績を挙げられればそれはとても名誉なこととなる。何しろ、間もなく実戦配備されるとも噂される人型兵器・神像イ・コドールのテストパイロットに選ばれるのだから。

 学力も、体力も試されるこのテストで、私はきっと選ばれてやる。

 今度こそは、久保田友梨乃に勝ってやる。小白井彩奈に勝ってやる。

 そう思って私は、端末を立ち上げた。




 結局のところ、学力はまたも二位。体力も、またも二位。

 シルバーガールの汚名を雪ぐことは、結局できなかった。

 それでも、学力・体力ともに上位の成績を収める事ができた私はめでたく、神像のテストパイロットとして選ばれた。そうして今、コクピットに座っている。

 この機体にはまだ名前はついていない、という。テスト機体なのだから、当然といえば当然だ。機体をコントロールするために宿っている人工精霊と私がやりとりして、名前をつけるならそれでも良いらしい。


『人工精霊、覚醒します』

「人工精霊、覚醒します」


 外部からのアナウンスに従い、学校で学んだ手順を一つ一つ繰り返していく。だんだん、だんだん、私は神像とつながっていく。

 私は二位だったけれど、シルバーガールだったけれど、それでもここに座っている。

 ここにいる時点で、私は久保田友梨乃と小白井彩奈に勝利したのだ。


『人工精霊とのリンクを開始してください』

「人工精霊とのリンクを、開始します」


 アームレストに接続されているコントロールボールを握り、目を閉じる。途端、私の中に何かが流れ込んできた。

 ああ、これがこの機体に宿っている人工精霊。私が選ばれた、私の相棒。

 私は、勝った。勝った。勝った。さあ、お前の名前を聞かせろ。選ばれた私にふさわしい、相棒としての名前を。


「人工精霊、お前の名は」

『私の名は、お前の名』

「私の名?」

『そう。この機体は、テスト型二号機。そこに宿らされた私は、万年二位の、シルバーガール』




 記録。

 テスト神像二号機は、テストパイロット太刀岡奈々未とのリンクに成功。

 しかし、リンク直後に通信途絶。暴走を開始。

 停止信号も効力を発揮せず、二号機は脱走。消息不明。

 現在捜索中だが、既に数名の通信が途絶している。


 追記。

 二号機は自らの名を『シルバーガール』と呼称している。

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シルバーガール 山吹弓美 @mayferia

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