幸せ
気が付けば、空は白んでいて
ユウキと手を
繋ぎながらベットに入っていた俺は
ゆっくりと身体を起こす
結局たどり着いた結論は
それでもたしかにそれしか無いと確信できて
俺は一人呟くしかない
「……醜悪過ぎるだろ」
手を繋ぐユウキを見る
彼女はとても幸せそうに眠っていて
そんなユウキの頭を撫でる
もうそろそろ、ユウキを起こそう
最後の一日を少しでも、一緒に過ごそう
その瞬間までは
彼女の事だけを考えて生きようと
「ユウキ?」
ーー最後の朝が始まって
「おはよう」
その言葉をもう一度
言えるようになんて、そう願おう
ユウキはゆっくりと目を覚まし
俺を見る
「…うん、おはよう」
彼女はそのまま俺に抱きついて
ベットに押し倒される
「恋人を起こすときは」
「キスするんじゃない?」
……少女漫画じゃあるまいし
何より恥ずかしいんで、勘弁してほしい
ーーそれでもユウキがそれが良いなら
「恥ずかしいから、ユウキからしてくれない?」
ユウキは近づけていた顔を離して
「分かってないなー」
「それじゃ、意味無いの」
ユウキは俺をからかうように
「だいたい、好き同士ならキスくらいしても良いでしょ?」
「ヘタレなチアキに言っといてあげる」
「私はチアキとキスしたいから」
「されたらすごく嬉しいから」
「だからちゃんと後でしてよ?」
…返す言葉もない
女の子にそこまで言わせるとか
ヘタレが過ぎて笑えない
「…うん、わかった」
またユウキの顔が近くなって
彼女の唇が、耳元で囁く
「…したい事全部していいからね?」
「だって私はもう、チアキのだから」
彼女はにこりと笑って
「これくらい言っておけば、チアキでもキスくらい出来る?」
…朝からそんな魅惑的な冗談はやめてほしい
彼女を抱き寄せ
身体を入れ替えてユウキを下にする
なるだけ本気に聞こえるように声を抑えて
「そういう冗談言ってると、どうなっても知らないよ?」
ユウキはその言葉に瞳と同じくらい
顔を真っ赤にして
「…うん、いいよ」
「なんてね」
俺は笑う
それにユウキも堪えきれず笑って
二人して笑い転げる
ひとしきり笑ったあとに、ユウキは呟いた
「幸せだね」
「…そうだね」
別に付き合ったからって
そういう事をしなくちゃいけない訳じゃない
お互いが好きだと思い合っていて
それを疑う事が無いなら
それは多分、とても幸せで
俺は確かにそんな関係を望んだから
ベットから起き上がり、ユウキに聞く
「さて、今日は何をしようか?」
ユウキはひとしきり考えたあと
「…チアキとご飯作って食べたい」
「いいんじゃないかな」
何一つ特別じゃないけれど、でも確かに
もしも最後を迎えるなら
当たり前の普通がいいだなんて
俺も同じ事を思ったかもしれない
このアパートには
家電も調理器具も揃っていて
料理するには不便ないだろうし
「じゃあ買い出しして、あと溜まった洗濯でもしようか」
別に、まだ服も下着も山ほどあるけれど
二人でそれをするのなら
そんなことすら楽しいことに思えて
「そうだね」
俺は寝室を出て
リビングで着替えをしながら彼女を待つ
ユウキは寝室から姿を表して、俺に聞く
「…どうかな?」
彼女が着ていたのは
短いプリーツスカートに白いワイシャツ
それに茶色のカーディガンで
買った服の山の中にそんなものがあったか
思い出せもしなかったが
ーーそれは、まるで学生服みたいで
こんな未来があった筈なのかも知れないと
そんな事を思ってしまう
「まるで、高校生だね」
ユウキは恥ずかしそうに笑い
「私だって一回くらいはこんな格好してもいいんじゃない?」
スカートの間から見える彼女の足は
火傷やアザがいっぱいあって
お世辞にもキレイな足だなんて
言えないかもしれないけど
それでも、その服は彼女が選んで
そして、俺はそんな彼女を選んだのだから
「可愛いよ」
その言葉以外、何もいらない
俺はユウキの手を取り、玄関を出て
彼女は、思い出したように
「さっき手離したから罰として」
俺の腕に手を回して抱きつく
「今日の買い物中は、これで過ごします」
そんな宣言をして俺を見る
「…まぁ罰なら仕方無いか」
恥ずかしさを誤魔化すためにそう言って
まだ冷えた空気の中を、二人で寄り添い歩く
ーーそれは確かに幸せで
それでも、俺がこれから行う罪への
紛うことなき、罰なのだろう
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